
非番。今日は待ちに待った日、というのは大袈裟かもしれないが、俺は今日という日を長いこと待っていたような気分だった。目の前にあるのは""という表札のかかっている立派な屋敷。ここに(余計なことだが兄の方も)は住んでいる。流石昔は四大貴族のひとつとされていたほどの名家だ(今でも四大貴族に戻らないかという誘いが密かにあるらしいが)俺はそんな家の前で密かに心臓を逸らせながら待っていた。予定よりもまだ、少し早い。 「冬獅郎!」 まだもう少しかかるだろうな、と思っていたからこそだが、突然声をかけられて驚いた。振り向くとがそこに立っていた。俺は正面玄関の前で待っていたはずなのだが、どうしてが背後から現れたのだろう。そう疑問に思っていたら、には伝わったのか、家の者(お手伝い)が騒々しいから裏口から出てきた、と言った。流石に護廷十三隊の隊長と貴族の娘が付き合うことになると色々と周りが放っておかないらしい。俺は、大変だったな、と言うのとは裏腹に口元がニヤけてしまいそうでならなかった。 「早かったね、ごめんね、待たせて。」 「いや、そんなに待ってねぇよ。」 じゃあ行くか、と俺は言った。何だかその言葉が妙に照れくさい。俺とが付き合えること自体、未だ夢のようだ。俺はずっとが好きだったけれど、それを受け入れてもらえるなんて…。やっぱり照れくさいが、近くにある手を、俺は何気なく握った。は少し驚いていたが、柔らかく微笑んだ(ちくしょう、可愛いぜ) 「この間出来た甘味処だろ?」 「うん、冬獅郎、甘いのダメだけど…本当にいいの?」 「構わねぇよ、が食べたいなら。」 「ありがと。」 俺もも非番。と松本は仕事。あぁ何て平和な日なんだろうか。つぅか、俺がと付き合うようになったと伝えた日にはアイツの視線に殺されるんじゃないかと思うくれぃ怖かった。虚なんか目じゃないほどの霊圧と視線が…。そのときは何もなかったけど、その後松本主催の祝賀会とかいう傍迷惑なイベントでコッテリとやられてしまったが…。泣かせたら卍解だの、浮気ははりつけの刑だの、不純異性行為は地獄にご案内だの、とりあえず、すっげー怖かった。そこは正直に言っとく。 「わー、いっぱい美味しそうなのがある!」 「好きなの食えよ、奢ってやっから。」 「え、悪いよ。」 「いーから、俺がそうしたいんだよ。」 初めてのデート(と、現世では言うらしい)だ。かつて、これほど幸せな時間があっただろうか、否、ない。絶対と言っていいほど幸せな時間はことごとくか松本か若しくわ両者に打ち壊されてきた!俺は一生懸命に品書きを見ているを見た。こいつが自分の女(ちょっと恥ずい)なんだ、と思うとやっぱり口元が緩みそうになる、むしろ、緩みっぱなしかもしれない。は、決めた、と品書きを持ち上げた。 「何にすんだ?」 「抹茶クリーム餡蜜にする!」 にっこりと笑ったはやっぱり可愛くて、他の客がいるのも気にせず、思わず手を握りそうになった。いや、つぅか握りたい。人目なんか気にするものか!が…。 「じゃあ私も抹茶クリーム餡蜜で!」 「僕は抹茶セットにします。」 …はぁ? 「やっぱり特製白玉餡蜜にしようかしら。」 「むしろ両方食べたらどうですか?」 「それじゃあ太っちゃうじゃないの。」 「別に気にしなくてもいいと思いますけどね、僕は。」 …はぁ? 「あれ、、それに乱菊さん!」 「はぁい!偶然ねー。」 「本当、偶然ですね、、日番谷隊長。」 おい、お前ら、偶然なんてあるわけねぇだろ。お前らの辞書に偶然なんて言葉は存在しねぇよ。あるのは、意図的だ!俺は怒りを通り越して頭がガンガンしてきたような気がするが、隣にはがいるのだから怒鳴り声をあげるのはやめた。つぅか、は知らねぇが、今、思い切り業務時間じゃねぇか?おい、またサボリかよ、なぁ? 「ヤダなー休憩も必要ですよ隊長!」 「そうですよ、部下の酷使は上司として最悪ですよ。」 してねぇよ、むしろ俺が酷使されてるっつぅの。そう思いながら俺は密かに拳をわなわなと震わせた。隣にはという癒しがいるというのに、それを邪魔する天敵が二人。いや、まだ松本はいい方(百歩譲ってだが)だとしてが一番厄介だ。 「あ、知ってる?ここの近くに新しい雑貨屋ができたの。」 「え、本当、!」 「食べた後連れてってあげるよ。」 「くぉら邪魔すんな!」 流石に黙ってはいられなくなった。俺はを連れて行かれてなるものかとの肩を引くとそのまま背後から腕をまわした。中途半端に抱きしめているような状態だが、この際人目がどうとかもう関係ねぇ。ハッキリとの彼氏は俺なんだ、とには宣言しとかねぇとこれからずっと邪魔されるに違いない! 「…こんなところでダメですよ、日番谷隊長、まぁ、こんなところじゃなくてもダメですけどね。」 「俺はの男だからな、別にかまわねぇんだよ!」 ちょっと強気に出てみる。いつも引き気味でいたのが悪かったんだ。俺はもう正式にの男なんだからこのぐらいは可笑しくない。つぅか、可笑しいのはだ!俺らが睨み合っていると(は相変わらず笑顔だったが)は不思議そうに俺を見上げてきた…やべぇ、可愛い…。 「ケンカ?」 「ばっ、違ぇよ!」 「本当?」 「本当、違うよ、日番谷隊長が一人怒ってるだけだから。」 それも違うだろ!俺には正式な怒る要因が存在してるんだよ!相変わらずはニコニコとたちの悪い笑顔を浮かべてる。今まで蹴散らしてきた男どもとは比べ物にならないくらいたちが悪い。これが将来俺の兄になるかと思うと…いやいや、それはさすがにまだ考えるのが早いだろ、俺! 「どうしたの、冬獅郎?」 「お一人でいかがわしいこと考えてるんだよ。」 んなわけねーだろ! 「お待たせしました、抹茶クリーム餡蜜です!」 「わぁい!」 嬉々としたの声が聞こえて、俺は思わずガクリと肩を落とした。こいつ、俺の気持ちとか、色々、全然分かっちゃいねぇな…。いや、まぁ、こういう奴だからこそ長年の片想いもまったくもって伝わってなかったんだろうけど。…まぁ、幸せそうだから、いいか。 「うまいか?」 「うん、おいしい、幸せ!」 あまりにも幸せそうに笑ってるもんだから、俺は怒りも呆れも全て忘れてしまっていた。これからは一番近くに、堂々とこいつを置いておける。一番近くに俺が行くことができる。神様とかそういうのは信じていないけれど、このときはそんな存在を信じてみても、いいもんかと思った(俺ら死神だけどな) 「さぁ、隊長!食べたら行きましょうか雑貨屋。」 「お前らは仕事に戻れぇ!」 |