
"としろ"と俺を呼んでいたは今、俺の手の届かないところにいる。一方的な別れを告げられて三年が経ってしまった。もしかしたらこのまま永久的にと会えないのではないかと、悲観的になってしまうことがないとも言い切れない。俺は初めての強い想いを抱くには(認めたくはないが)まだ幼くて大人の器ではなく、これがだめなら次だと子どものように割り切れもしない。中途半端。だが、俺はゆっくりではあるが確かに前へ前へと進んでいた。あんまり認めたくはないけれどこれは松本や雛森のおかげかもしれない。 「松本、俺は少し休憩してくる。」 「はーい。」 今日は珍しく何かしら理由をつけてサボりに行くことはない松本に俺はいつもよりも安心して隊舎から出る。廊下を歩くと気持ちのいい風が吹いた。風により舞う小さな花びらがやけに目についた。自慢じゃないがいつもなら全く気にしないけれど、なぜか今日はそれがやけに目について柄にもなく、綺麗だな、なんて思ってしまう自分が可笑しかった。無意識に片手を伸ばしてその花びらを一枚だけ捕らえた。ゆっくりと手を開くとそれは綺麗な淡い桃色の花びらだった。これは、がよく着ていた着物とよく似ている色だ。そう思って最初は物悲しくなって、それからそんな自分を笑った。こんなに簡単にアイツを捕まえられればいいのに。そんな馬鹿なことまで思った。 「としろ。」 何処からか声が聞こえた気がした。花びらからのことを考えてしまった、それこそ重度の俺の幻聴か。そう思いながらも俺は周囲を見渡した。だが、やはりそれは幻聴なのだろう、彼女の姿は何処にも見当たらない。俺は自分の幻聴に一抹の期待を抱いていることにやっと気がつき、そこから見える空を見上げると苦笑を零した。そのとき、木からザザザという音が聞こえた。 「としろ!」 「ぅわっ!」 ザザザからガバッという音に変わった。突然の衝撃に俺は情けなくも耐え切れず背中を廊下の床にぶつけてしまった。何が降ってきたのかよく分からなかったけれど、(衝撃で)目を瞑ったままでも懐かしいようなほのかに甘いような匂いに気づいた。手に触れる温もりにも。俺がゆっくりと目を開けると目の前には一番会いたかった人物が俺に笑いかけていた。夢か、幻か、俺は自分の目を疑った。だが、これが幻であってもいい、俺は少し乱暴に腕を引っ張ると自分の背中を床にくっつけたまま彼女の体を捕らえた。痛いよ、と少しだけ苦しそうな声が聞こえてきた。少しだけ頬を膨らませて俺を見ているのは、前よりも何だか成長しているけれど、それは…確かにだった。 |