真っ暗だ。本当に、暗闇だけ。前も後ろも分からない。俺は何処に立っていて、何処を向いているんだ。それさえも分からない。あぁ、俺は死んでしまったのか。雛森を守りたいと思っていたくせに間に合わず、それだけでなく、仇も討てずに俺は藍染に殺されてしまったのか。何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。これが雛森さえも守れなかった俺への罰なのだろうか。

死ぬことなんて怖くない。ずっとそう思っていた。死神になり、護廷十三隊に入り、十番隊の隊長になり、俺は少しずつ生と死と隣り合わせである場所に寄り添って行っている。それを分かっているはずだった。それなのに、今、俺は後悔している。死にたくなんてなかった。ずっとずっとアイツの顔を見ていたい、ずっとずっとアイツの声を聞きたい、ずっとずっと…傍にいたい。離れた三年間、痛感したはずだった。それなのに、俺は。

今まではなかった感情が紙が水を吸い込むようにじわりじわりと生まれてくる。最初は無自覚だった。それは仕方がない。本当に幼かった、そんな彼女に自分が愛しさを感じているなどとどうして思えるだろうか。ましてやそれが"愛"だなんてその頃は信じれるはずはない。あぁ、アイツはどうしているだろうか。まさか巻き込まれてはいないだろうか。俺の死を知っているのだろうか。泣いてはいないだろうか。



「としろ、としろ…。」



幻聴が聞こえた。おいこら、幻聴でぐらい俺の名前をちゃんと呼べよ。もう"冬獅郎"ってちゃんと呼べるんだろう。これから消えていく俺に、せめてもの優しい夢くらい見せろよ。そう思いながらもそのリアルな幻聴に俺は癒されていく。何度も呼べよ、何度でも俺の名前を呼べよ。だって、俺はずっとこれを求めていたんだから。



「としろ、嫌だ、としろ。」



おいこら、何で泣きそうな声なんだよ。幻聴なんだろ、こら、いつもみたいに明るい声を聞かせてくれよ。じゃないと俺心残りができてしまうだろ?それでも聞こえてくる声は今にも泣き出しそうな声。やめろよ、やめろ。求めてしまうだろう?すぐ傍に駆け寄って抱きしめたくなるだろう?泣くなよって囁<ささや>きたくなるだろう?お願いだから、…。



「行っちゃダメ!」



幻聴に幻覚が加わる。暗闇で何も見えなかったはずなのに、突然離れた場所にが現れた。幻覚だろ、幻覚だろうけど、こっちに来るなよ、お前がこっちに来ちゃいけないんだ。俺は必死に言うけれど聞こえていないのか、今にも泣きそうな顔で走ってくる。手を伸ばすなよ、俺はその手をとれないんだ。お前まで連れて行くわけにはいかない。お願いだ、来るなよ、来るな、来るな来るな来るな…あぁ、もう!



…そこで待ってろ、今からそっち行く!



咄嗟に叫んで俺はの方に走った。足の感覚が、手の感覚が、何故か戻ってきた気がした。走って、走って、走って、俺はの手を乱暴に掴み、そのまま強く抱きしめた。そこで闇が完全に晴れた。




「としろ!」

「……?」



重たい瞼を持ち上げると、目の前の、心配そうな表情を浮かべ涙ぐんだ愛しい女の子の涙がそこに落ちてきた。少し痛かったが、目の痛みも体の痛みも分からない振りをして俺は抱きついてきたの体を今できるだけの力を込めて抱きしめた。











…そこで待ってろ、今からそっち行く!
俺はまだ走れたんだな、一瞬でも諦めたりなんかしてゴメン。












コメント

シリアス話でした。
ちょっと長めで隊長視点。
弱気な隊長の一番守りたいもの。
やっぱり一緒に幸せになりたいものです。
一人で幸せになるよりも、ね。