
が怪我をしてしまった。任務終了後、はそのままを四番対救護詰所に連れて行きたい処だったが、十三隊隊員からの急な呼び出しの為に一緒に行くことができず(やむなく)日番谷に彼女を託した。そんなわけで彼は今、兄公認(邪魔されずに)での傍についているのだが、彼の表情はあまり思わしくはなかった。の怪我は大したものではなく二日ほど激しい活動は控えるようにと卯ノ花に言われただけなのであるが、彼は彼女が怪我したこと自体が嫌だった。 「そんな顔しない、私大丈夫だよ?」 「は大丈夫じゃないなんて言わない。」 「そうかなぁ…言うよ?」 例えばお腹が減って仕方がないときとか、と彼女は笑って言ったけれど日番谷は笑わなかった、笑えなかった。卯ノ花は別の患者を見に行っている為その部屋には彼らしかいなかった。沈黙がに突き刺さる。彼女は自分が怪我してしまったことに深く後悔してしまった。まさかあの状態で攻撃されてしまうなんて思ってもいなかったのだ、ただ、自分の危機感が足りなかった。彼女の溜息に今度は日番谷が慌てた。 「わ、悪い!」 「何で冬獅郎が謝るの。」 「いや、怪我して痛いのはなのに何で俺が…。」 「ありがと。」 先程まで落ち込んでいたは柔らかい笑みを浮かべた。その笑みに思わずドキッとしてしまい何らかの欲求が生まれたが、それを耐え、日番谷は無理矢理ながらも笑って見せた。彼女の言葉は不思議だ、彼はそう思った。何処か胸の蟠<わだかま>りを消し去ってしまうような、言霊<ことだま>のような不思議な感じ、だからこそもっと色々と話をして欲しいと感じてしまう、日番谷はそっとの手を握った。彼女が怪我をしてしまったのは嫌だ、とてつもなく嫌なことだ。だが…。 「の怪我が大したことなくて良かった。」 日番谷の言葉には笑って頷いた。だが、まだまだ自分は強くならなくてはならない。せめて自分が持っている能力を活かせるくらいは強くならなくてはならない。兄であるは既に卍解を習得しているというのに自分は同じ血族でありながらも卍解を習得できてなどいない。そんな彼女を心配そうに見る日番谷の視線を感じ、彼女は慌てて顔を振った。そんなこと(過去)を考えるよりもこれから(未来)を考えなければならない。彼女はそう思い、強くなろう、と祈りや願いにも近い決意をした。 「(頑張んなきゃ)」 彼女は二日間、業務に携わることさえも上司である日番谷に断固拒否されてしまった。それが彼の優しさ故であることは分かっているので傷つくことはなかったのであるが、自分が休むということは誰かが自分の仕事を受け持つということだ。それは十中八九日番谷が受け持っているのだろう。彼はそれでなくても人二倍、三倍の仕事量を持っているのだから、彼女はそれが気になって気になって仕方がなかった。隊舎に戻れば隠れて業務をするだろうという鋭い日番谷の読みで彼女は半ば強制的な一日入院措置となってしまった。不満はあるが上司命令とまで言われてしまえば仕方がない、彼女は少々むくれながら暇潰しに折り紙を折って遊んでいた。そんなときノックの音がした。返事を返すと、扉が静かに開く。 「大丈夫か、。」 入ってきたのはで、彼はたった一日の入院であるにも関わらず大きな花束を持ってきたようだ。それに少しは驚いたが、彼は手際よくその花を花瓶に生けた。数日前には日番谷にお見舞い品として花束を持っていったが、まさか自分が同じように見舞われるなんて、と彼女は苦笑してしまった。 「無茶禁止とかで強制入院だよ。」 「日番谷隊長ならやりそうなことだな。」 「もー、冬獅郎は心配性なんだよ!」 「(お前限定だけどね)」 と、思うものの彼は決して本人に言ってやろうとは思わない。そう思う自分には苦笑した。周囲は自分のことを現世で言う過度の"シスターコンプレックス"だと言うけれど、それを本人は否定しようとは思っていないし、それよりも言われれば、うん、と頷けるほどなのだ。それは決して悪いことではないし、家族を大切に思えることはいい事だとは思っている。目の前で少し不満気な彼女は本人が思っているよりも危なっかしいところや周囲から見られていることもある。は再び苦笑いを浮かべると、クシャリとの髪に触れた。自分と同じ色の同じような髪のはずなのに自分のより柔らかい気がするのは何故だろう。 「あ、いいものがあるんだ。」 彼は彼女の頭を優しく撫でると、何処からともなく可愛らしいサイズの菓子をニ、三個ほど出した。それは最近流行の菓子屋の菓子だった。 「あたしにもちょーだい!」 「うわぁぁ!」 突然現れた松本に流石のも驚いたようだ、ちなみには驚いたの声に驚いたようだが。ノックもせずにそれもいつの間にか部屋に入っている彼女はそれを気にもしていないように視線を菓子に向けている。から既に受け取っているは菓子をひとつ松本に渡した。彼女は嬉々とした声をあげ、早々と菓子の包みを開け、それを口に入れた。どうやらその菓子は人気商品であまり手に入らないらしい(ちなみには自分の上司である浮竹から貰ったらしい)流行ものに目がない松本は幸せそうにそれを食べた。 「ちょっと、これ本当に美味いわよ!」 「え、本当?じゃあ私もー。」 「ね、ね。美味いでしょ?」 「あっまーくて美味しい!」 甘いものがあまり得意じゃないには彼女たちの幸せは理解できないが、彼女たちがあまりにも幸せそうな顔をしているものだからつられるように笑った。 「ありがとね。」 「いえいえ、元々浮竹隊長に貰ったものですから。隊舎に戻ればまだありますよ、いりますか?」 「本当!?きゃー!」 歓喜のあまり松本はに飛びついた。言うまでもなく彼女のあまりにも大きすぎる胸が当たるわけで、彼は短い悲鳴をあげると珍しくもその顔を真っ赤に染めた。年齢的にいうと人間の年齢にすると高齢の部類に入るだろうが、彼(ちなみに彼女も)は日番谷よりも若干若年なのである(実は)突然の松本の巨乳攻撃をくらえば一溜まりもない!彼は必死で松本を自分から剥がそうとした。だがそんなの反応を面白がってか、松本は離れようとはしない。珍しいの姿には少しの間呆然としていたが、すぐに声をあげて笑い出した。 「や、やめて下さい松本さんっ!」 「きゃあ、何か可愛いー!」 「男が可愛いって言われても嬉しくありません!」 「きゃあ、日番谷隊長と同じこと言ってる!」 「あんな人と一緒にしないで下さい!」 「きゃあ、と同じ顔で毒舌ぅ!」 何やら楽しそうだ。仲間に入りたいような傍観者でありたいような、複雑な気持ちでは彼らを見ている。自分の兄はいつもまるで親のように接してくるのに松本と一緒にいるときは何故か(尸魂界での)年相応に見える。それがどうしてなのかは分からないけれど、そんな彼を見るのは好きだった。目の前で繰り広げられる漫才のような彼らを見るのは何だか幸せだ。 「…お前ら、病室で何やってんだ?」 ノックをして(騒ぎで聞こえなかったが)部屋に入ってきた日番谷は訝しげな顔をしている。彼の姿を見て松本はまたも楽しそうに笑った。あまりのタイミングの良さにも笑った。まだと松本は漫才をしていて、日番谷はそれ(が絡んでこないから)に安堵するとベッドの横にある椅子に座る。近くに行くとふんわりと甘い匂いが彼の鼻をくすぐった。それに気づいたは手に残っているもうひとつの菓子の包みを開けてそれを日番谷の口に入れた。甘い味が口の中に広がる。甘いが、嫌いな味ではなかった。日番谷は短く、美味い、と言うとは笑った。 「ちょっと松本さん、いい加減にして下さいよ!」 「(今回は松本に感謝しとこう)」 |