
「冬獅郎、大丈夫?」 四番隊隊長の卯ノ花から承諾を得た日番谷は本日病室から出て無事に執務室へと姿を出した。彼が休んでいる間、他の者が頑張ってはいたのだが、やはり隊長がいないと書類も溜まってしまう一方だ(隊長判のいるものが多かった為)判子を押してもらおうと思い日番谷のところにやってきたはせっせと書類業務に取り組んでいる彼を心配そうに見た。 「あぁ、心配かけて悪かったな。」 「ごめんね、書類、溜まってて。」 「いや思ったより随分少ないぞ、だろ。」 答える代わりには柔らかくへらっと笑った。日番谷はそんな彼女の笑みが好きだったりする。思わずつられて笑みを零しそうになったが、松本が自分を見て笑っているような気がしたので慌てて気を引き締めるように心がけた。それこそもう時既に遅し、というやつなのであるけれど。日番谷の気持ちなど松本には随分と前からバレバレなのである、ただ彼女が直接的にそうは言わないだけで。の双子の兄であるが日番谷に敵意(ある種の)を出しているのも彼がのことを想っていると知っているからで(それは日番谷も分かっている)ただ周囲が余計なお世話をできないだけで隊員たちもほどほどに分かっている。 「(呼び方と口調を直させている時点で分かるわよね)」 そうは思うものの松本は(どこか大人びて見える彼女の隊長はどこか子ども染みた部分もあるから)残業や減給を言い渡されると嫌なので何も言わず目の前の書類に素直に目を通して自分の判子を押していく。横目で見ると日番谷はまだと話をしていて、眉間の皺はいつもよりもなく(ないに等しいほど)表情は柔らかかった。松本は窓から外を見た。 「(平和、まるで隊長の心のように晴れやかねぇ)」 外は快晴で雲ひとつない。このままお団子でも食べに行きたい、なんてちょっとした心の隙間から思ってみたりなんかしたけれど、目の前でせっせと業務に勤<いそ>しんでいる日番谷(今はと話しているけれども)を見るとどうにも後が怖そうなのが容易に予想できる(割合的には30%くらいは日番谷が可哀想だとも思っているのだが)松本はふぅと小さな溜息をつくと視線を書類へと戻した。そんなときだった、コンコン、とノックの音がした。 「誰だ。」 ノックの音に日番谷は意識的に表情を戻し(眉間の皺が戻った)視線を扉へと向けた。誰かが彼に用事なのだろうと思い、は執務室から出ようと思ったが、必要な書類は彼の机の上にまだある状態だったので出ることはできなかった。彼女は少し戸惑ったように日番谷を見たが、彼は目で、此処にいてもいい、と彼女に伝えた。日番谷はそう伝えながらも少し可笑しく思った。扉の向こうに立っている人物の霊圧が感じられない。若くとも(尸魂界では)彼は隊長の座につけるほどの能力の持ち主だ。名前と顔が一致していれば霊圧で誰かぐらいは分かる。少し訝<いぶか>しげに扉を見ているときだった。 「十三番隊副隊長、ですが、日番谷隊長は中におられるでしょうか、むしろはいますか?」 聞こえてきた言葉に日番谷は引きつり笑いを浮かべた。隊長副隊長の執務室に堂々と私用(霊圧を完全に消してまでして)で現れるこの男できれば斬魄刀"氷輪丸"で蹴散らしてやりたい、と思うものの、それは恐らく無理であろうと思い堪える。彼はまだ若く経験も少ないが副隊長であり、行く行くは隊長の座につけるほどの実力の持ち主であるのだから(しかも目の前には彼の妹もいるし)は日番谷の返事を待たず(敢て返事しなかったのだが)丁寧ではあるが強引に執務室に入ってきた。とてつもなく非常識ではあるが、日番谷以外に彼はこんなことはしないだろうと保障できるのが日番谷自身も嫌だった。 「お前…ある意味松本以上だな。」 「お褒め頂き光栄です。」 それってどういう意味ですか、とジトリと見てくる松本を敢て無視し、日番谷はを半ば呆れたような表情で見た。彼は相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべていて、さきほどの言葉通りに目的である日番谷の机の前にいるの傍に歩み寄った。突然現れた兄には不思議そうに首を傾げた。神出鬼没とはいわれているが、彼が他の隊の執務室にまで軽々と現れたのは初めてだった。褒めてねぇよ、という日番谷の呟きをサラリと無視し、は柔らかい微笑みをに浮かべた。 「今日は天気がいいから団子でも食べに行かない?」 「え、お団子…いいなぁ。」 「上司の前で堂々とサボりに誘うんじゃねぇ!」 「仕方ないなぁ…、ちょっとこっち来て。」 「もぉおせぇんだよ、っつぅかわざとだろ!」 また始まった。と、松本は握っていた筆を笑いながら置くと彼らを眺める。天童と呼ばれようと最年少隊長と呼ばれようと流石の日番谷もに口で勝てるわけがない。そう思いながらも松本はまるでテレビでも見ているかのようにその光景を眺めている。中心にいるであろうも喧嘩は悪質でない限り他人事である為止めない、日番谷が疲れるか諦めるまでその何とも一方的な喧嘩は続くだろう。段々と日番谷の眉間の皺が深く深くなってきて(せっかくによりなくなるに等しくなっていたのに)松本は苦笑するとその場にすっと立ち上がった。 「はぁーい!、私も仲間に入れてー。」 「勿論、喜んで。」 「まーつーもーとー。」 「だって隊長、今日はこんなにいい天気なんですよ。」 「だからってサボりが許されると思ってんのかテメェ。」 「休憩です、休憩、隊長も一緒に行きましょう。」 根詰めると病み上がりの体に悪いですよ、と堂々と日番谷をサボり…いや、休憩に誘う松本に日番谷は額に青筋を浮かべた。目の前には溜まりに溜まった書類の山があるというのに、と彼の目は松本に訴えている。慣れている為、それをあっさりと微笑みで返すと、松本はちょっと歩いての手をとった。 「もお団子食べたいでしょ?」 「あー、食べたいです。」 「くぉら松本、大事な第三席を堕落させてくな。」 「いいじゃないですかー、は優秀なんですから。」 「だからだろぅが、とにかく、の手放せ。」 いつの間にか日番谷は立っていて、松本の手からの手を放した。さりげなく彼女の手を日番谷が握っているのにが気づかないはずもなく、彼は極上の笑みを浮かべると何故だかそれとは裏腹に部屋の室温が一気に数度ほど下がってしまったように感じられた。の笑みに日番谷は密かに怯むと、その隙を逃さず、の手をがとった(そこで室温は元に戻った、気がする) 「仕方ないですね、三人で行きましょう。」 「お前…仕方なく思ってねぇだろ。」 結局最後の最後は(も)日番谷の負けで、彼もこの青空の下、美味しいと評判の御茶屋に団子を食べに行くことになったようだ。あの書類の山が今日中に終わるかどうかを心配しながらも彼は隣で美味しそうに団子を食べているに心癒され、その隣で日番谷に微笑みを向けているに心冷やされつつも団子を口にしていた。を見ないようにすれば、日番谷はとても幸せだったりする。ただ、帰ってからも缶詰状態の書類のことを考えなければの、話。 「あ、御勘定はこの方にお願いします。」 「…おぃ、マジかよテメェ。」 |