
「結局来なかったな、冬獅郎の奴。」 「誰も助っ人なんて連れてこれなかったしなぁ。」 「鼻でスパゲティ食べる練習しときゃよかったー。」 「それより、謝った方がよくねぇか?」 「うっさいな、ここまで来たらやるしかねぇだろ!」 かくして試合は始まった。始まりの笛と同時に黒崎はボールを蹴った。一人抜き、二人抜き…彼女は自分よりも格段に体格の大きな中学生たちを軽々と引き離していく。だが、ゴール間近、彼女は狙われたのかボールなのか足元なのか分からないほど際どいスライディングを受けて派手に転倒してしまった。彼女らの元に慌てて駆け寄る少年たち。 「黒崎!」 「大丈夫か!」 彼女は右膝を強く打ち付けてしまっていて、赤く腫れている。それを見て口の端をあげて笑っている中学生たち。その姿からは年上としての優しさなど微塵<みじん>も見られない。挑発するような彼らの言葉に痛みを堪えて黒崎は何とか起き上がった。普段から強気で勝気な黒崎がここで引き下がるわけもないし、引き下がれるはずもない。彼女は膝を触ることなく立ち上がったが、歩くと顔をしかめるほどの痛みを感じる。勢いを失った黒崎に、中学生たちは逆に勢いづく。1−0、2−0、3−0、4−0…その試合からは大人げなさをひどく感じるが、試合を受けてしまった以上、そんなことも言えない。少年たちが諦めの言葉をはいているときだった。 「あ、みんな、あれ!」 一人の少年が後ろを振り向いて叫ぶように言った。向こう側から誰かが歩いてくる。その影には微かではあるが見覚えがあった。彼らはじっとその影を見つめる。銀髪と茜色の髪の少年と少女、日番谷とだった。どうやら日番谷はに手を引かれて歩いているようだが、表情は嫌そうではない。どことなく、彼女らのことが気にかかっているというのも全くの嘘にもならなかったのだ。黒崎は審判にタイムを頼むとらに駆け寄った。 「おっせーんだよ!」 「約束した憶えはないからな。」 「でも、気にはなってたよね?」 「ちがう。」 ちょっと顔をしかめて日番谷はに言った。そんな彼に彼女は可笑しそうに笑った。ここに連れてきたのはだが、彼女に手を引かれて来たのは日番谷だ。本当に嫌ならきっと手を引かれても彼は行かないはずだ(たとえ相手がであろうとも)中学生たちは突如現れたらを見た。 「何だ、そいつらは?」 「こっからがあたしたちの反撃だぜ。」 「今更助っ人か?」 「みんな、いっきに取り返すぞ!」 「おー!」 せせら笑う中学生たちを気にせず、黒崎たちは活気を取り戻したようだ。おー、という掛け声にも何気に参加して左腕を振り上げた。おい、と止めるような日番谷の声が聞こえたが、その辺は聞かない振りを決め込んだようだ。試合の得点を見ると、4−0である。野球とは違い大量得点ができないのがサッカー(は現世好きなのでルールも特色もよく知っている)しかも相手は黒崎たちよりも体格のいい中学生たちだ。はポン、と日番谷の肩をたたいた。 「おい待てよ俺はサッカーなんかやりにきたんじゃ…。」 に肩をたたかれて眉を寄せた日番谷だが、黒崎の足元に気がついた。赤く腫れてしまっている、これではボールを蹴ること、ましてや走ることさえも痛みを伴うだろう。そう思うのと同時に、つい先日の出来事を思い出した。 「怪我…してるのか?」 「こんなの、どうてことないよ!」 "こんなの大したことじゃないよ"本来の姿である死神の姿で全く気にもしないように笑うの姿が脳裏に浮かんだ。死神ならば死をも覚悟しておかなければならないため、軽い怪我なんて気にするようなものでもない。だが、相手がであるがゆえに過剰に心配してしまう。怪我だけではなく、彼女は自分のことであればたとえ何かあったとしても、すぐに、大丈夫、と言ってしまう。それは彼女の口癖だともいつか言っていた気がする。口をつむんでしまった日番谷に黒崎は不思議に思った。 「どうした?」 「…仕方ねぇな、勝てばいいんだな。」 「うん!」 最初の方の言葉に力が入っていたが、そうは思ってないことはにも分かっていた。彼女は嬉しそうに日番谷の手をギュッと握って笑いかけた。不意な出来事で危うく顔を真っ赤に染めてしまいそうな彼だったが、こんな公衆の面前で顔を赤く染めてしまうわけにはいかないと根性でそれを紛らわせた。 「どうする、も出るか?」 「ううん、私は冬獅郎見てるよ。」 思わぬ返答に日番谷は目を丸くした。彼女ならば絶対に出ると言うと思っていたのだが、予想外の返答だった。黒崎もに出て見ないかと誘ったが、やはり返答は同じだった。やりたくないわけではないのだが。 「あのね、現世の本に、ヒロインはヒーローの活躍を見守って応援するもんなんだって書いてた!」 何の本に書いてあったんだか、と思うが、それよりも、この場合はのヒーローに自分がなっているのだと思い胸が激しく高鳴った。素でこんな恥ずかしいことを何とも思わず言えるのだから、逆にタチが悪い。日番谷は必死に平然を装い、ばか、とに一言告げ、眼鏡の少年と選手交代と手を合わせてからコートへと入った。頑張って、と言う彼女の声に密かに拳を強く握ってしまったことに自分で小さく笑えた。 |