
にゃあ、と可愛らしい声がした。非番の日、一人でぶらぶらと流魂街の町を歩いていたはその声に誘われるように茂みへと歩いた。静かにそこまで、行くと彼女は着物が土で汚れるのも気にもせずに膝をつけて目的のものを探した。案の定、そこには可愛らしい小さな子猫がいた。真っ白でふわふわの子猫だった。思わずハートマークを周囲に散らばせるとは優しくその子猫を抱き上げた。その子猫は嫌がらずに彼女に身を任せている。それがまた可愛くて可愛くて。 「可愛いなぁ…だけど、父様は猫苦手なんだよね。」 家で飼うことは絶対に出来ないだろう。そう考えてはガックリと肩を落とした。でも、その子猫はとても愛らしく、にゃあにゃあ、と可愛らしい声を聞かせる。猫好きのにはこれ以上ない誘惑である。手放せなくなったはその子猫を抱えたまま足を進めた。家で飼えないなら…。 「無理だろ。」 ピシャリと言われてしまった。子猫を抱えたままのはその言葉に少し拗ねたような表情を浮かべた。此処は彼女の職場でもある十番隊舎であったりする。無理、と言ったのは日番谷で、彼は子猫を抱きかかえて現れたに少々呆れているようである。虚を昇華させたり、書類に励んだり、此処は室内といえど戦場(ある意味)と化すこともあるのだ。そんなところで猫なんて飼えるわけがない。もっとも総隊長である山本がいくらのお願いであろうと(彼らは実は元々付き合いがあるらしい)頷けるはずがない。隊舎で飼われてもとてつもなく迷惑だ、もし書類を駄目にしてしまったら、と第一に日番谷はそう考えた。 「つぅか、お前折角の着物が汚れてるじゃねぇか。」 「着物なんてこの際どうでもいい。」 「よくねぇだろ、折角かわ…っ。」 「…川?」 折角可愛いのに、と言おうとした日番谷は思わず口元を押さえた。無意識の言葉に顔がほのかに赤く染まる。そんな日番谷を不思議に思いは彼を首を傾げて見た。今日はもいないし、素直に"可愛い"と言ってしまえばいい、そうは思うものの改めてしまうと妙に照れくさくてどうしようもない、だが、言ってしまえばこの関係が少しは進展するかも、でも…という葛藤が彼の心の中で起こっている。そんな彼の思考を遮るかのように子猫が、にゃあ、と可愛い声をあげた。 「可愛いっ。」 満面の笑みを浮かべては子猫を優しく抱きしめた。日番谷は子猫を羨ましく思い、と、いうかむしろ子猫になりたい、とまで思えるくらい彼女にクラクラしてしまっている。だが、問題を思い出して彼はブンブンと首を横に振った。どんなに(が)可愛くても無理なものは無理だ。もしもここで許してしまえばこれから先彼女が一体何匹の猫を連れ込んでしまうのか皆目検討もつかないくらいだ。そう思いながら彼は子猫を見た。そして、ふと気がついた。 「それ、飼い猫じゃないか?」 彼の勘は正しかった。あまりにも整った毛並み、人馴れしているところからすると飼い猫でも可笑しくない。そんなこんなでは仕事を抜けてきた日番谷と元の場所に(泣く泣く)子猫を戻しに行くことになった。飼い猫を勝手に連れて行ってしまえば、飼い主もきっと心配しているだろう。案の定、子猫がいた場所には一人の男の子が周囲を見渡していた。その子はが抱えている子猫を見つけると"しろ"と呼んだ。はその子に素直に謝るとその子は許してくれて、彼女は子猫と最後のお別れを交わしたのだった。 「元気出せよ。」 「うぅ…しろちゃん。」 珍しく落ち込んでいるに日番谷は困っていた。何か上手い言葉を言えればいいが、こういうときに限って上手い言葉が出てこない。が猫好きなことは知っている、だからこそこんなにショックを受けているのだろう。日番谷は困ったように溜息をつくと彼女の頭をぽんぽんと優しくたたいた。景気付けに彼女が好きな甘いものでも奢ってやるか、と思いつくと彼は彼女にそれを言い出そうとしていた、そんなとき。 「あれ、シロちゃん?」 背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。日番谷は少し嫌そうな顔をして振り向いた。そこには彼の幼馴染であり、護廷十三隊の五番隊副隊長でもある雛森が立っていた。どうやら彼女も非番であり、流魂街に出かけていたらしい。彼女は日番谷の隣にがいることに気がつくと日番谷に何か含んだような笑みを向けた。それに益々嫌そうな顔をした。 「日番谷隊長だろぅが、雛森。」 「今日は非番だから別にいいじゃない。」 幼馴染同士のささやかな口喧嘩でも起こるのかと思いきや、あっさりと雛森は二人に手を振って去って行った。どうやらこれから一度隊舎に行き、彼女の上司である五番隊隊長の藍染に手土産を届けるようだ。なるほど、それであっさりと引き下がったのか、と日番谷は納得をした。幼馴染である彼女の気持ちなんぞとうの昔に熟知している(雛森がよく話す為)は彼女が背を向けるまで手を振っていたが、彼女が背を向けると視線を日番谷へと移した。じっと見られ日番谷は焦ったように視線を逸らした。 「しろちゃん?」 「は?」 「桃ちゃんが冬獅郎のことしろちゃんって言ってた。」 「勝手につけられたあだ名だ。」 ふぅん、とは何かを含んだような返事をすると、日番谷の袖をきゅっと握った。突然の行動に彼の心臓が跳ねる。 「しーろちゃん!」 「はぁ!?」 「しろちゃん帰っちゃったから冬獅郎がしろちゃん。」 「意味分かんねぇよソレ。」 「いいのいいの、しーろちゃん。」 「しろちゃん言うな。」 「今日だけ、ね?」 懇願<こんがん>するような瞳で見つめられ日番谷が動揺しないわけがない。彼女は別にそれを狙っているわけではないので、益々日番谷にとっては厄介だ。子猫の代わりというのは正直、あまり嬉しいものではないが、いつもよりも甘えたような感じを見せるのはその所為なのだろうか。そう思うとなんだか何でも良くなってきた。日番谷は頬を指でかくと、苦笑いを浮かべての頭を優しくたたいた。 「仕方ねぇな、今日だけだぞ。」 「うん!」 後日談ではあるが。隊舎に戻ってくるまでに密かにその光景(がしろちゃんと呼んでいるとこ)を見ていたらしいに満面の笑みを浮かべて"しろちゃん隊長"と言われて可哀想なくらいからかわれていた日番谷がいたとか。 |