
今日は厄日だ。そう思いながらも日番谷は己の斬魄刀"氷輪丸"を構えていた。目の前には夥<おびただ>しい数の虚がいる。背中合わせには、珍しいことに十三番隊所属のが立っていた。彼らが二人で任務にあたることは今までになかった。十番隊と十三番隊という隊の違いからもこのような例はあまりないのだが。今回は色々と重なってこういう風になってしまったのである。日番谷は静かに溜息をこぼした。 「日番谷隊長、もうへばってしまわれましたか?」 「んなわけねぇだろ。」 「じゃあ三分の二、いえ、四分の三は頼みましたよ。」 「阿呆か!」 怒鳴りに近い声をあげる日番谷には穏やかな微笑みを浮かべ、冗談ですよ、と穏やかに言った。表情は見えないがどんな顔をしているかぐらい想像がつく、きっとはこんな状況でありながらも自分をからかって面白がっているに違いない、と日番谷は眉間に皺を寄せた。そう苛立ちながらも飛び掛ってきた虚を一太刀で地に伏せた。それにがやっぱりからかうように口笛を吹き、益々眉間に皺が寄ってしまう。やっぱりこいつは苦手だ、と思いながらも日番谷はチラリと横目でを見た。彼も飛び掛ってきた虚を一太刀で仕留めた。 「今のでどのくらい倒した。」 「まぁ、四分の一くらいでしょうね。」 「残り四分の三か…。」 目の前に群がっているなんとも頭の悪そうな虚たちに日番谷は舌打ちをした。レベルもほどほど、数も揃っている。まだ近日中に終わらせておきたい書類は山ほどあるというのに、こんなところでとんだ時間を過ごすはめになるのはいただけない。自分がいない間副隊長である松本が気を利かせて終わらせているはずは絶対と言っていいほどないのだ。彼はまたも舌打ちをした、早く戻りたい理由はそれだけではない。 「「早くに会いたい。」」 思わず言葉に出してしまった日番谷だが、の声と重なったことにそれはもう驚いた。彼女に想いを寄せている自分ならともかく、実の双子の片割れがそう呟くとは何事だ(まぁ、彼はが極度のシスコンであることを知っている為納得はできるのであるが)思わず本音を呟いてしまった日番谷は、チラリと少々冷や汗を流しながらを見た。また嫌味を言われるに違いない、と、そう思っていたのだが。 「仕方ないですね、今回はお互い協力し合いましょう。」 そんな普段のからは想像もできないような言葉を聞いて、日番谷はまたも飛び掛ってきた虚を斬りながらも驚きの表情を隠せなかった(同じ死神同士が協力して任務を遂行するのは当たり前だという概念は何故かしらなかったようだ、に関しては)は斬魄刀"黒翼竜"を地面に突き刺した。それを横目で見た日番谷も斬魄刀を強く握る。 「卍解…黒翼竜飛泉!」 「卍解…大紅蓮氷輪丸!」 ----- 彼らが全ての虚を昇華し終わった頃には、既に日付は変わってしまっていた。闇夜に浮かぶ満月の光が彼らを照らした。何故かは分からないけれど、いつもなら遠まわしの嫌味やからかいの言葉がから発せられるはずなのに(今はもいないから絶好のチャンスだろう)それが一言もないのである。彼から発せられる言葉は、書類の進み具合や浮竹の病状などの世間話に近い話ばかりだ。日番谷はそれをもの凄く不思議に思いながらも少しずつの話に自分も参加していった。 「おかえりなさい!」 瀞霊廷の入り口に、が立っていた。彼女は深夜だというのにどうやら彼らを待っていたようである。日番谷はそれに驚きながらも彼女に柔らかい笑みを向けた。白い息を出す彼女に自分の羽織をかけてやろうと思い、脱いだ羽織をそっとかけようとしていたとき、ドンといきなり強い力で押されてしまった。 「、こんな夜更けに一人で、危ないよ。」 「おい…てめぇ。」 「あ、日番谷隊長まだいらっしゃったんですか。すみません、どうやら僕の視界に映っていなかったようで…。」 それは遠まわしにチビって言ってんのか…と、思ったが、遠まわしも何もない、彼はこういう風な言い方を普段から使っている。日番谷は急に夢から覚めたような気持ちになって、思い出したように額に青筋を浮かべた。あそこから帰るまでの時間は何だったのだろう、もしかして罠か?そんなことを思いながら目の前で妹にとてつもなく綺麗な微笑みを浮かべているをジトリと睨んだ。横目で彼にチラリと見られた。早く帰ったらどうですか?というような目線(穏やかな微笑みで)を向けられてしまう。あの協力戦は何だったのだろう、日番谷が怒りと呆れを含めたような溜息をついたとき、は相変わらず穏やかな表情で言った。 「昨日は昨日、今日は今日です。」 |