花びらがハラリハラリと落ちていく。ゆっくり、ゆっくり、地面に向かって。時折は風に吹かれて重力に逆らい空を舞う。未だに木の枝を片手で掴んだまま(もちろん片手は書類を掴んでいる)は苦笑をやめ、目の前で自分を凝視している日番谷にその姿のまま、とりあえずはペコリと会釈をしてみた。つられるように日番谷は、おぉ、と返したが、次の瞬間正気を取り戻したのか、慌てての方へと駆けた。それに驚きつつも彼女はそんな彼を見ていた。



「馬鹿、危ないだろぅが!」



焦ったような日番谷の声には首を傾げた後、あぁ、と納得した。大事な書類がこのままではグシャグシャになってしまうだろう、これは入隊の手続きに必要なものだから絶対に失くしたり破ったりしないように、と告げられているものだった。はそれを思い出して日番谷に見せるように書類を前に出してみた。この通り大丈夫ですよ、と笑ってみると予想を反してまたも罵声がとんできたので思わず固く目を瞑った。



「早く下りて来い!」

「え、あ…はい。」



どうやら違うことを意味していたらしいと思うとは軽々と手を放してストンと綺麗に着地をした。日番谷は躊躇<ちゅうちょ>せずに手を放した彼女に一瞬ギョッとしたけれど、目の前の少女があまりにも平然としているものだから言葉を失った。彼女はこう見えても学院をきちんと卒業した者なのだから、このくらいは朝飯前である。



「(何焦ってたんだ、俺)」



密かにバクバクと音を刻む胸を片手で押さえた。そんな日番谷をは不思議そうに小首を傾げて見ると、それが視界に入ったのだろう彼は慌てて手を戻した。目が合った彼に彼女は改めてお辞儀をし、そして柔らかく微笑んだ。お辞儀をしたために彼女の長い髪が大きく揺れた。その所為で髪についている無数の桜の花びらは空へと舞っていった。日番谷はそれに思わず見惚れてしまったが、目の前の彼女の茜色の髪に未だに花びらがくっついているのに気がついて可笑しそうに笑った。何で笑われているのか分からない、というような表情を浮かべるに無意識ではあるがそっと手を伸ばした。



「お前、花だらけだな、っくく。」

「え、あ…あれ。」



髪に触れた日番谷の手に桃色の花びらがあることに気がついたはそこで自分が花びらまみれだということにやっと気がついた。慌ててガシガシと髪を振り乱して花びらを取ろうとしたのだが、それを日番谷の手によって防がれた。彼は彼女の手を止めると自分の手で一枚一枚花びらを丁寧に取った。最後の花びらを取ったとき、その手がピタリと止まった。



「…。」



どうしました、というの声に日番谷は突然顔を紅色に染めた。自分に生じた熱を自覚したのだろう、彼は勢いよく彼女から顔を逸らし、思わず両手で自分の顔を押さえた。それでも最後の花びらはなぜか手から放せずにいた。わけの分からない感覚が彼の中を浸食していってしまう。またも吹いた温かい春の風により桜の花びらが空をふわりふわりと舞う。それに魅入るだが、日番谷にはもうそれどころではなかった。空を舞う花びらに魅入るからなぜか目が逸らせないでいる。なぜだ、この三文字が彼の脳裏をグルグルとまわっていく。



「あ、私、です。」

「あ、あぁ…お、俺は日番谷冬獅郎、十番隊だ。」

「十番隊配属になったんです、よろしくお願いしますね!」



ひゅーん。音が日番谷の心に響いた。空を舞うのは間違いなく桃色の花びら。だが、彼の心に存在したのは、ちょっと違うもの。日番谷はあの花びらを未だ放すことはなく、空いている右手で差し出されたの手を少しだけ戸惑いながらとった。突然現れた桜の花びらだらけの少女に一目惚れしたのだ、と、彼が自分の気持ちを理解をしたのはそのときだった。




















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「桜の花びらくっつけてたよな…狙ってたのか?」

「そんなわけないよ!」



は昔の話をされて少しだけ恥ずかしそうに顔を薄く染めた。猿のように木にぶら下がっている姿など思い出されて恥ずかしくないわけがない。彼女はニヤニヤと笑っている日番谷にポカポカとあまり痛くない攻撃をしかける。それを軽々と両方の手で受けながらも彼はどこか幸せに浸っていた。あのとき、彼の心はさらわれてしまったのであるが、それはまだは知らない。



「(俺があの花びら持ってること、知らないだろうな)」



結局あの花びらを手放すことができずに、大事そうに持っているのが幼馴染である雛森に見つかってしまったとき、もの凄く怪しまれたのではあるが、彼女により押し花になったその小さな花びらは色褪せることはなかった。その存在をは知るはずはない。ましてやそれが日番谷のお守りになっていることなど分かるはずもないだろう。日番谷をたたくのはやめたにふわりと花びらが髪にとまった。その瞬間を見た日番谷は少し可笑しそうに笑い、それから愛しさを感じて茜色の髪に手を伸ばした。が。



「おっと、すみません日番谷隊長。」



ドン、と見事な音がして小柄な日番谷はものの見事に弾き飛ばされてしまった。油断して(和んで)いたとはいえ、あまりにもわざとらしい突然の攻撃に日番谷は額に青筋を浮かべた。誰だ、と聞かなくても犯人は一目瞭然だ。奴以外の何者であるはずがない。呆気なく弾き飛ばされた彼はニ割情けなさを感じ、残りの八割は言うまでもなく怒りを感じていた。だが、犯人はなんとも清清しい笑顔を浮かべている。〜と、彼はゆらりと立ち上がった。



「すみません、日番谷隊長。悪い虫がいたもので。」

「もしかしてそれは俺だと言いたいわけか?」

「あはは、嫌だなぁ…よく分かっていらっしゃる。

「そこは否定するような流れじゃなかったか、おい。」



が流れ星だというのなら、は隕石だ。日番谷はそう思った。それも日番谷のみを狙って意図的に落ちてくるハイテクな隕石だ、そう思った。ちゃっかりと日番谷との間に入ったに震える拳を抑えつつ彼は彼らと廊下を歩いた。花びらはハラリハラリと舞っている。あの頃のように新入隊員たちは期待と不安の混じったような表情で何やら話をしているようだ。











流れ星にさらわれた












コメント

初恋物語終わり。
なんだか意味不明なお話になりました。
お猿さんポーズの女主にどうして惚れるよ隊長。
なんて思いながら…。
最後はやっぱり出しちゃいました男主。
オチにはならなかったけれど。