
笛が鳴り、試合は再開される。残り時間は僅かだが、日番谷も黒崎も負けるとは思ってはいない。外にいるも彼らの勝利を信じて、いや、確信していた。ボールは少年から黒崎へとパスされる、彼女はそのまま駆けていたが、中学生に押され強引にボールを奪われた。そのボールを軽やかに奪い返したのは日番谷だった。彼は転んだ中学生をまるで蔑<さげす>むように見下ろしていたがボールを取りに来た他の中学生に反応して残りの三人もいとも容易く避けてシュートした。それは真正面ではあったが、GKを弾き飛ばし得点を入れた。 「やったー、冬獅郎!」 コート外で嬉しそうに、楽しそうに見ているに視線が向き、無意識に口元が緩んだ。それからも彼は中学生なんか相手にもならないような見事なプレーをする。もはや彼は誰にも止められなかった。捉えたかと思うとスルリと横を通り抜けていく。それは彼の外見からは想像もできないくらいのプレーだった。面食らう中学生たち、次々と入っていく得点。4−1、4−2、4−3、4−4…ついに小学生チームは中学生チームに追いついた。 「やったーやったー!」 「すげー冬獅郎!」 コート外で嬉しそうに手を合わせると少年。それが今度はそんな光景が視界に入り、日番谷はムッとする。相手は自分よりもかなり年下(日番谷が現世の年に換算したらかなりの年齢のため)なのだから我慢、我慢、と念じながら視線をボールに戻した。 「そのままいれろ!」 「…。」 ゴール間近、ボールをキープしていた日番谷だが、隣を走っている黒崎に視線を向けると、パスを送った。 「お前のチームだ、お前が行け。」 「…よっしゃぁ!」 黒崎のシュートが見事に決まり、その直後試合終了の笛が鳴った。結果は4−5で小学生チームの見事な逆転勝利だった。少年たちは手を合わせたり、抱き合ったりして勝利に喜んでいる。は日番谷の元へ、やはり嬉しそうに駆け寄ってきた。もしかして勝利の抱擁か、とか思っていたが、日番谷の密かなる(嬉しさと戸惑いの)ドキドキは違ったらしい。彼女は真っ先に黒崎の膝を心配している。 「大丈夫?」 「あ、うん、のおまじないのおかげかな、なんて。」 そっと手をかざして"痛いの痛いの飛んで行け"なんてちょっと子どもっぽい、母親が子どもに使ってそうなあれ、その後傷跡をそっと撫でただけのおまじない。だが、実は彼女は鬼道により微かな治癒を行い、痛みを和らげたのである(日番谷もそれは分かっていたが見ない振りをしていたようだ)黒崎に安心したは視線を日番谷へと移した。何だかちょっと落胆しているような彼を不思議には思ったが、笑顔を浮かべて彼の両手をとった。 「冬獅郎、カッコよかった!」 「そ、そうか。」 「うん、凄かった、すごくカッコイイ。」 こういうとき、天然笑顔にはある意味困るものだ。日番谷はもう隠しようのないほどの顔の熱を感じた。直球でこうも言われてはもう堪えようがない。ここに二人きりであれば後先考えずに本能のままに抱きしめてしまいそうだと思えるくらいに彼は彼女にやられてしまっていた。それを耐え、彼は思いだしたように黒崎に視線を移した。そういえば、気になることがあったのだ。 「ちょっと話がある。」 さきほどまで赤い顔をしていたというのに、日番谷の顔は真剣なものに変わっていた。彼の言う話の内容を理解しているも表情を戻した。彼の言うことは、十中八九、黒崎にある力のことだろう。彼女は、の言う通り強い霊力を持ち、虚の存在さえも察知することができる。 「な、何だよ。」 「お前、この間…。」 途中であるが日番谷は言葉を紡ぐのをやめた。三人は何かを感じて空を見上げる。青い空を無理矢理こじ開けるようにして何かが現れた。日番谷は伝令神機を開いた。虚の反応がある。この感じからも、伝令神機からも現れるのは虚に間違いはない。そして、伝令神機の反応は、強い。巨大虚、いや、大虚。現れた虚は勢いよく地面へと下りて来た。日番谷は慌てて黒崎の体を押した。 「冬獅郎、お前、あれが見えるのか!」 「説明は後だ…。」 「冬獅郎、もう一体出た!」 の言葉に振り向き空を見上げる。そこには大虚がもう一体空をこじ開けて今まさに地面へと下りてきた。再び激しい揺れと砂煙が上がる。幸いにもまだ怪我人も出てはいない。衝撃で少し気を失っている程度だ。も日番谷も急いで義魂丸を飲み、死神化した。その直後、二体の虚が彼らを目掛けてその大きな腕を振り下ろしてきた。黒崎は固く目を瞑るが、衝撃は来なかった。ゆっくりと目を開けると、目の前で白と黒が揺れているのが目に入った。彼女の瞳が揺れた。 「(一兄と同じ、黒い着物…死神…)」 左を日番谷が防ぎ、右をが防いでいた。彼らは既に斬魄刀を抜いている。日番谷は斬魄刀で虚の巨大な腕を防いだまま、静かに言葉を紡いだ。 「霜天に坐せ、氷輪丸!」 始解の句を紡ぐと同時に空の青が黒く暗く染まる。日番谷の霊圧が一気に高まり、放出された。彼は斬魄刀の柄についている鎖で虚の腕を拘束すると瞬間的にそれは凍りついた。はというと、炎の弾で虚に目潰ししたようだ。 「、お前いい加減始解しない癖を治せ!」 「え、あ、そうだね、使わないと始解忘れそう。」 「間違っても忘れんなよ!」 は斬魄刀を始解せずとも自らの刀の能力を、斬魄刀と気持ちを通わせることにより可能な何とも奇特な死神ではあるが、やはり始解するのとでは霊力が違う。彼女は虚が目を潰している間に斬魄刀を空に掲げるとゆっくりと始解の句を紡いだ。 「白き翼を広げよ、白翼竜!」 それと同時に彼女の霊圧が一気に高まった。彼女の始解を確認すると、日番谷は虚の腕を捕らえている鎖を力強く引っ張り落とした。虚は痛みからか呻<うめ>き声をあげた。氷輪丸の影響からか、空から雨が降ってきたが炎系であるにも関わらずのもつ"白翼竜"には何の影響もない。彼女は視力を取り戻した虚の再び振り上げられた腕を斬った。その瞬間、虚の腕は炎に包まれる。轟々<ごうごう>と燃える炎だが、不思議と黒崎は不快な暑さを感じはしない。 「残念だったな。現世に隊長の俺や三席のがいたばかりに、てめぇらは何もできねぇ。」 二体の虚は呻き声をあげつつも、大きく口を開いた。霊圧を非常に高め、口から放つ虚閃<せろ>だ。だが、それには少々の時間をくう。本当に少々なのだが、速さを誇る彼らにはそれは遅いの他ない。 片方は斬られ氷付けになり音を立てて崩れ、片方は斬られ炎に包まれ灰へと変わっていった。斬魄刀を鞘に戻すと同時に空は元にと戻っていったが、既に空は夕焼けにと変わってしまっていた。日番谷は地面に座っている黒崎に手を差し出し、彼女を立たせる。少年たちを心配する黒崎に、は笑顔を浮かべて彼女の不安を取り払った。中学生たちにも怪我人はいないようだ。 「あんたら…その格好。」 「まさか俺らの姿まで見えるとはな。」 呟くように言った日番谷に、黒崎は強く肩を掴んだ。彼女の表情からは切迫さを感じた。 「一兄の居場所知らないか!その格好、死神だろ!」 「なぜ死神のことを知っている?」 「あたしの兄貴も死神なんだ…名前は、黒崎一護。」 改めて黒崎一護の名前を聞き、日番谷はそこで初めて目の前の少女が黒崎一護の妹だということに気がついた。表情からすると、の方はどうやら気がついていたようだ。彼女は霊圧の察知能力に優れていて、居場所だけでなく、その霊圧の微々たる感じも把握できていたのだろう。 「どうりで…。」 「…冬獅郎。」 何かを言いたげなの手を日番谷は握った。それにより彼女は口をつむんだ。前述の通り、彼女は霊圧察知に優れている、黒崎が探している人物の霊圧も、微かながらではあるが察知できている。 「悪いが居場所までは知らねぇ。」 「…そうか。」 「ただ、黒崎は強くなろうとしている。お前と同じだ、どんなことになっても最後まで諦めない、そういう奴だあいつは。心配するな、お前の兄貴だろ。」 日番谷の言葉に黒崎は安心したように笑った。その代わりにの表情は少しだけ曇ったのを、日番谷が見逃してはいなかった。彼女の手を少し力を入れて握り、彼女を見て小さく頷いた。それに返すようには日番谷の手を握った。 「隊長ー、ご無事で、も!」 そんなとき、女の声が聞こえてきた。死神に戻っている松本の声だ。ん、と日番谷は思った。彼女がここに駆けつけているということは、ペアを組んでいる人物も一緒にここに来ているということだ。突然のことで彼の頭は少々麻痺しているようだ(いや、あまり思い出したくないようだ)近付いてくる嫌な感じの霊圧に日番谷は顔を思い切りしかめた。 「何をされてるのですか、日番谷隊長。」 「ッ、っ!」 「この人らも死神?って、どうした汗かいてるぞ。」 「あ、あぁ…いや、何でもねぇ…。」 の声に自分がの手をもっていることを思い出して日番谷は彼女の手を解放した。笑顔のまま向かってはくるけれど、それは日番谷にとってはとてつもない恐怖だった。笑顔は怖い、むしろ、笑顔が怖い。呑気にに抱きつく松本に日番谷は、厄介な奴を連れてきやがって、と心の中で悪たれをついた。 「あれ、隊長、この子…。」 「黒崎一護の妹だ。」 「一護の?」 「どうも。」 「私は松本乱菊。」 「、の双子の兄です。」 にこりと綺麗な微笑みを浮かべて挨拶をするに少々面食らったような黒崎だったが、と彼を数回見て不思議そうな表情を浮かべた。確かに似ているが、双子というのはすんなりと納得はできそうにない、身長差がひどすぎる。そんな彼女の疑問を分かったのだろう、は苦笑いを浮かべている。 「冬獅郎が隊長で、乱菊さんが副隊長、私は三席。」 「僕は違う隊の副隊長です。」 見た目からは松本やの方が日番谷よりも偉い位にいそうだ。黒崎は事実に驚いたように目を丸くして日番谷を見た。確かに口調と態度は偉そうだ、だが、話を聞くとそれも可笑しくはない地位に彼は立っているらしい。 「カッコイイな冬獅郎、小学生なのにな、おい!」 ペシ、ペシ、といい音をたてて頭をたたかれた後頭を撫でられる。黒崎の方が数cm身長が高いだけに何だかこの状況もそれほど可笑しくはないような気がしてしまう。松本は口元を押さえて笑うのを堪えている。はでなんともにこやかな微笑みを浮かべて日番谷を見ている。 「小学生って…。」 「あ、何だよ。」 「ぅはっはっはっはっもぉだめぇ!」 ついに笑いを堪えきれなくなった松本が豪快に笑い出した。は変わらず穏やかに、見守るように微笑んでいる。豪快に笑う松本よりもなぜか腹立たしいと思うのは私情のせいだろうか。そう思いながら、日番谷はどうやら堪忍袋の緒が切れたようで、黒崎の手を軽く退け、額に青筋を浮かべた。 「いつまで勘違いしてりゃ気がすむんだ! 俺は小学生じゃねぇぇ!」 |