
「日番谷隊長、もう一度どういう経緯でこんな恐ろしい結末になってしまったのかお話願えますか?」 「(恐ろしいのはてめぇだろ)」 今は尸魂界で鍛錬しているため不在の井上織姫の家で、日番谷はなぜか(隊長であるにも関わらず)正座をせざるを得ない状況に追い込まれていた。目の前には、現世でも黄色い声を飛ばされているであろうが何とも綺麗な笑顔を浮かべて日番谷を見下ろしている(身長の差というよりもこのたびは立っている者と座っている者の差である)額から一筋の汗を伝わせ、彼は眉間の皺を一層深いものにした。 「あぁ、前言撤回しますね。話の内容は理解できたのですが、あまりにも疑わしいお話だったので失礼ながらもう一度お話下さるようお願いしました、が、やはり、もう一度お話下さるよりも僕的にはこのまま貴方の存在を無に還す方が無難なような気がしてなりません、さぁ、自害されますか?それならば僕が介錯致しましょう。」 なぜだろう、なぜか疑問文であるにも関わらず、日番谷の自害と自分が介錯人であることがの中では決定項目のようだ。思わず日番谷は身を引いた。どこが無難だどこが、とは心の中で必死に思うものの、目の前の笑顔ではあるが心の中"修羅"なにはどう考えても言えそうにない。他の人であれば、小さな傷でここまで言われるとは、と逆に腹がたちそうなものであるが、傷を負ったのが自分の想い人であるだけに日番谷はいつも以上にに言い返すことができない。ぐっと唇を噛んで自分への遣る瀬無さを耐えた。 コツン 「駄目だよ、、冬獅郎苛めたら。」 の優しい拳骨がの頭に落ちた。お風呂上りなのだろう、彼女の髪からはまだ雫が落ちてくる。彼女の様子から、の毒舌なマシンガントークは聞いてはいないようだが、日番谷を見て彼に何かを言われたのだろうと予想はできたようだ。は小さな溜息をつき、腕をとり左手の甲を見た。傷は浅くはない傷ではあったものの、もう血は止まっているようだ。 「みんな怪我してるよ、いつも。」 「そうだけど。」 「私、今日初めて怪我したんじゃないよ。」 「そうだけど…。」 は言葉を発した後に、日番谷をチラリと見た…気がした彼は思わず身を退いた。何とも情けないと自分でも思うけれども、日常からかはの双子の兄であろうとも苦手な存在であることに間違いはない。能力を恐れているのではない、むしろ恐ろしいのは虫も殺さぬような顔で人の心臓をも簡単に射抜きそうな気がしてならないことだ。ドッドッドと心臓が早鐘を打つ。こんな恐怖、どんな虚と対峙したとしても味わうことはできないだろう。もしかして、自分がどんなに強くなろうが、へのこんな意識は消えないのではないだろうか。そう思うと眩暈がした。 「大丈夫?冬獅郎。」 「あぁ…って、髪、濡れてるぞ。」 「ん。」 肩にかかっているタオルをとっての髪を優しく拭く。茜色の髪から透明な雫が落ちていく。濡れているというのに彼女の柔らかい髪の感触が思った以上に心地よい。そして、シャンプーだろうか、いい匂いがした。思わず日番谷は口元を緩めた。だが、彼は大事な何かを忘れていた。 「日番谷隊長、僕何だか急に手合わせを願いたくなってきました、さぁ行きましょう、今すぐ表に出て抜刀ですよ、あ、もちろんそれは僕だけです、だって僕は副隊長、日番谷隊長は隊長なんですから、ハンデはこれくらいが当たり前でしょう。」 何がハンデはこれくらいが当たり前でしょう、だ。そんなのはただのリンチじゃねぇか。そう思った日番谷は動揺を見せるように手からタオルを落とした。は相変わらず呑気であり、に戦闘訓練熱心だとか言って笑っている。戦闘訓練なんかじゃない、戦闘訓練なんかにならない、むしろ、死闘および私闘(一方的な)だ。日番谷はクラリとした頭を押さえ、当たり前のように家主のドライヤーを取りに渡すとそそくさと寝床へと潜った。 「(何だか急にどっと疲れがきた…)」 ----- 翌日、高台の公園で黒崎たちがサッカーの練習をしている。沢山の子どもたちもここで遊んでいるため、思うように練習はできていない。彼女らは小さな輪をつくってパス練習をしていた。実は彼女ら、日番谷に助っ人を頼む前に中学生との言い争いにより、明日中学生たちとフットサルの試合をすることになっていた。小学五年生と中学サッカー部の実力は目に見えている。黒崎も内心は焦っていた。だからこそ日番谷を助っ人にしようと思っていたのに、彼は一向に現れる気がしない。 「少しでも、行ってあげたら?」 建物の屋根の上。そこに日番谷とはいた。そこから黒崎たちを見下ろしている。は神妙な顔で黒崎を見ている日番谷にどことなく頼むように言ってみた。だが、彼は首を縦には振らない。彼女だって現世の人と深い関わりを持つなという暗黙の了解は分かっている。だが、性格からして困っている人をそのままにも放ってはおけない。死神としては、それは長所であると同時に短所にもなり得る。 「私行ってみようか、多分戦力にはなれるし。」 「やめとけ。」 「だって、冬獅郎行かないって言うし、行くー!」 「だぁー落ちるぞっ!」 「なぁにイチャついてるんですかぁ?」 突然背後から声が聞こえてきた。日番谷はその声に顔をしかめた。振り向くとやはりそこには満面の笑みを浮かべた松本がいた。彼女はとペアを組み行動しているはずなのだが、と思い彼は物凄い勢いで左右前後を見た。姿はない。隠れているのではないか、と霊圧も探る。霊圧は近くにはない。少々挙動不審の自分の隊長を松本は可笑しそうに見て、それから、いいんですかー、と指を差した。そこには、またもや拘束されているの姿があった(日番谷はを必死で止めていた) 「あ、だ。」 松本の声に日番谷はビクリとして素早くを解放し、周囲を神妙な顔で見渡した。彼の霊圧は遠くから感じ取れたはずだが、油断はできない。日番谷と並ぶほどの天才児(外見年齢は違うが紛れもなくとは双子)と言われるだけはある、と同時に、彼は妹のことになれば常識を超えたことでも軽々としてしまえる。余裕のない日番谷を見て松本は笑い声をあげた。そんな彼女に彼は青筋を浮かべて睨みつけた。 「はどこ行ったんです?乱菊さん。」 「お腹すいたわねって言ったら買いに行ってくれたの。」 「パシリかよ、いい様だな。」 「違いますよ隊長、は紳士なんです、誰かと違って。」 「俺のこと言ってんのか?」 いつもの如く始まりそうな予感がしたが、松本は日番谷をからかうよりも先に、彼らが見ていた人物が目に入った。 「ストーカーですか?がいるのに。」 「違う、の名前出すな!ちょっと気になることがあるだけだ。」 「えぇぇ!隊長、現世の女の子に興味あるんだぁ!」 「違うっつてんだろうが。」 分かっているくせにからかうような口調の松本にまたも日番谷は青筋を浮かべる。松本の言葉をまともに受けてが、そうだったんだ、なんて言うもんだからその青筋はすぐに消え、代わりにガックリと肩を落としてしまったが。 「分かってますよ、隊長はが大好きですもんねー!」
「わーわーわー!」 またも突発的な言葉を日番谷はほとんど反射的ではあったが何とか遮ることができた。自分の名前が出たのに何だかよく聞き取れなかったは不思議そうに首を傾げる。何だか気になる彼女は日番谷に聞くが彼はもちろん、易々と言えるわけがない。松本に聞くと満面の笑みを浮かべられた。が、次の瞬間松本に向けられた鋭い視線に彼女は正直にに伝えることができなかった。 「隊長がとストーカーするわけないわよねーって。」 「私と一緒じゃなかったら冬獅郎するの?」 「一人でも二人でも三人でもするわけねーだろ!」 いっそのこと本当のことが言えたら自分の苦労は報われるだろうか…そう一瞬だけ思ったものの、目の前でキョトンとして自分を見ているに気持ちを告げるなんて今すぐできる代物じゃないと判断した。それに、何か命綱も必要だ。誰かさんが脳裏に浮かんだとき、誰かが口の端をあげて言った。 「日番谷隊長、ストーカーは犯罪ですよ。」 「だからするわけねーって言ってるだろぅが!」 |