
死神たちは複雑で地道、ときには命をかけて業務に取り組んでいるわけであるが、いつも生真面目で気を張っているわけではない。ときには無礼講<ぶれいこう>と、いうものもあるのである。 ※無礼講 → 身分や地位を考えないで行う宴会 それを楽しみにしている者は少なくはない。特に十番隊の副隊長に所属している松本乱菊という嘘のように大きく立派な胸をもつ女性はそれはもう酒の席を望んでいた。宴会のお知らせが回ると彼女は業務中であるにも関わらず大きな嬉々とした声をあげた。もちろん、その後隊長である日番谷に咎められたのだが。 「乱菊は何であんなに喜んでるんだ?」 「あー、酒飲み会があるからだよ。」 「宴会って言って下さいよ隊長。」 宴会なんてものに参加したことのないはキョトンとした表情を浮かべている。そんな彼女の手をとり、松本は目を輝かせてを見た。 ----- 宴会当日。有無を言わさず参加になってしまった(参加は希望者だった)そして彼女の微妙に保護者的存在である日番谷。最も、が行くなら日番谷も絶対についてくるだろうと松本は分かっていたのであるが。会場である場所に行くと、既に八番隊の隊長である京楽春水が自前の酒を飲んでいる姿が目に入った。副隊長である伊勢七緒が呆れた表情で何やら小言を言っているようだが、彼は慣れたような感じで軽く頷きながらもやはり杯を持つ手は止まらない。松本はすぐさま京楽の元へと駆け寄った。 「京楽隊長ーやってますねぇ!」 「やー、待ちきれなくて一人で始めちゃったよ。」 「あ、お酌しましょーか?」 「お、ありがとう、美人の酌なんて嬉しいねー。」 お酌とか言いながらも松本も早々と酒を飲み始めてしまったようだ。それを日番谷は呆れたような表情で見ていた。はぞくぞくと集まってくる人の多さに少し物珍しそうな顔をしていた。そんなの手を引くと、日番谷は端っこの席をとり、そこに彼女も座らせた。 「お前、酒飲めるのか?」 「鮭…丸呑みはさすがに無理だな。」 「…今の絶対イントネーション違っただろ。」 どうやらは酒を飲んだことはないようだ(というか存在を知らなかったようだ)育ちからして仕方のないことかもしれないが、どうして彼女はこんなにも世間知らずなのだろうか。呆れたが、日番谷は机に置いてある酒瓶をとると、杯にそれをいれた。透明なまるで水のような感じの酒。はそれをマジマジと見ると、次はそれを犬のようにクンクンと匂ってみた。悪い匂いはしない。そんなとき、の背中にドンという衝撃がきた。 「やってるかーー!」 どうやら犯人は十一番隊の斑目一角のようだ。彼の後ろには六番隊の阿散井恋次や八番隊の檜佐木修平もいる。彼らのほんのりと染まっている頬に、日番谷は既に宴会が(本格的に)始まっているのだと遅くばせながらも気がついた。と、前のめりになっているにやっと気がついた。どうやら小柄な彼女は思い切りな斑目の体当たりにやられてしまったようだ。それに気がついた斑目は慌てて退いた。 「ま、まぁ一杯グイッと飲めよ。」 「…これ、美味いのか?」 「美味いか不味いかは別にして、こんくれぇ飲めねぇと日番谷隊長にはいつまで経っても勝てねぇぞ。」 いや、それは関係ないと思う。と、阿散井も檜佐木も日番谷も思ったが、どうやら斑目はもう既にほとんど出来上がっているらしい。"日番谷"と"勝ち"というキーワードが出されたは目の色を変えて酒の入っている杯を慌てて手に取った。飲んだことのない未知のもの、美味いか不味いかも分からない。だが、斑目の言葉に決意をした彼女はそれを一気に口に入れた。 「おい!」 流石の日番谷も一気飲みに慌てた。初めて飲むような奴が日本酒の一気飲みはあまりにもヤバイだろう。だが、時既に遅し、はゴクリとそれを飲み込んでしまったのだ。斑目はいい飲みっぷりだと大きな声をあげて楽しんでいて、また杯に酒を入れた。意外に平気だったのか、はそれをまた自分の喉に通わせようとしていた。が、それを日番谷がとめた。 「…やめとけ。」 日番谷の言葉に阿散井と檜佐木がの顔を見た。彼女は自分を見られ、彼らを見て、にへら、と笑ってみせた。なんとも緊張感のなさそうな笑い顔だったが、思わずつられて笑いそうになりそうなほどの笑みだった。だが、つられなかったのは、彼女の様子がいつもと違うからだった。頬はいい具合に桃色に染まり、目は潤んでいるような気がする。そして体は微妙にユラユラしている。つまりは、彼女は酒に酔ってしまったのだ。 「いーやーのーむー。」 「いーやーじゃねぇ!」 「やぁー、返してーのむんだー。」 「のむんだーじゃねぇよ!」 杯を取って立ち上がった日番谷を追いかけ、も勢い立ち上がった。だが、酔っ払った人物がそんなに勢いよく立って大丈夫なわけがない。彼女の体はグラリと揺れ、前に倒れてしまう。 ドン 「…いてぇ。」 「大丈夫っスか、日番谷隊長!」 前倒れしそうになってを慌てて日番谷が抱きとめた。が、それがあまりにも不意打ち&勢いが良かったため、結局は一緒に倒れるはめになってしまったようだ。日番谷は思い切り打ってしまった後頭部を空いた方の手で押さえた。没収した杯は言うまでもなく畳に染みをつくってしまっている。彼は額に青筋を浮かべて自分の上に倒れているに一言でも文句を言ってやろうかと思い、拳を震わせた。の、であるが。 「日番谷隊長…、寝てるっスよ。」 「こりゃ、爆睡だな。」 阿散井と檜佐木に言われなくてもそれはよぉく分かった。規則正しく体が揺れ、穏やかな寝息すら聞こえてくる。怒りは呆れへと変わってしまった。溜息をつくと、日番谷は震えなくなった拳を下ろし、その代わりの腰を持つと体を起こした。彼らの大騒ぎに気づいているものもいれば、気づいていないものもいる(できあがっているため)彼はもう一度溜息をつくと、彼女を背負った。酔いつぶれてしまった以上、このままここにおいておくわけにもいかない。家に連れて帰ろう、そう思ったのだ。 「ありゃー、酔っちゃいましたねーちゃん。」 「おめぇもホドホドにしろよ。」 「はーい。あ、隊長。」 「んだよ。」 松本はニヤッという感じの笑みを浮かべた。 「これじゃヤラシイこともできませんね、残念。」 「するかっ!」 一瞬顔を赤くすると、日番谷は乱暴に扉を開けて乱暴に扉を閉めてしまった。それを見て可笑しそうに笑う松本と、そんな彼女を苦笑しながら見る阿散井たち。部下にからかわれる隊長っていうのはどうだろうか…そう思い、彼は日番谷の苦労を無言のままに感じ取ったのだった。 「やぁねー、同居してるくせに奥手なんだから。」 |