
あれから、四人で夕飯を食った。緊張はしているだろうけど、それでも少しは安堵したのだろう、も気にしつつだが夕飯に手をつけていた。ただ…その食の細さはいかがなものか?昔はあれだけ、腹が痛くなりそうだと思うくらい菓子やら飯やら食ってたのに…お前、本当に同一人物か!と、言ってしまいそうになったけど、それは、まぁ、色々と事情があってこうなってしまったのだろうから言わなかった(ここで言ってしまえばさっきのなんてすぐに帳消しだ) 「お口に合わなかった?」 「あ、いえ、お…いしかったです、とても。」 「そう、ならよかったわ。」 母さんはに笑いかけると上機嫌で皿を片付け始めた。が、やります、と、しどろもどろながらに言ったが、疲れてるだろうからとリビングのソファにかけて休むように言った。俺は見たいテレビ(サッカーの試合)があったのでの座っていない方のソファに腰をかけた。何か声をかけるべきか、とも思ったが、今更ながら何を言っていいのか分からない。あの雷のときは何も考えずに言葉が出たし行動したのに…。色々と考えながらも結局は声なんて出なかった。これじゃ俺もも後がおもいやられる。 「俺、先に風呂入ってくるな。」 「おー好きにしろ。」 たいてい俺よりも先に雪獅郎が風呂に入る。あいつの風呂は女、よりは短いかもしれねぇが、長い。その間たいてい俺はテレビを見ているか本を読んでいるかのどっちかだ。俺は横目でチラリとを見た。どうやら何かを考えているようだったが、やっぱり何も言えず、俺はテレビに視線を戻した。丁度、サッカーの試合が始まった。母さんは、台所で皿を洗っていた。 「(今日の試合は、五分五分だな)」 別段応援しているわけでもない俺は、どちらかというと中立的な立場にたって観戦していた。両チーム、惜しいところまではいくんだが、決定的なものがない。ゴール付近まで行けても結局はシュートできずにDFに阻まれ逆に攻められてしまう。得点がどんどん決まりすぎる試合も面白くないが、ここまできて両チームともに得点がないのも何だか面白くない気がする。まぁもう少しくらい見ようと思っていたとき、FWがサッと飛び出した。そして、蹴られたボールはゴールキーパーの手をすり抜け…。 「「あ、惜しい。」」 たが、結局はDFのナイスプレーで得点ならず…つぅか、今、声重なったよな?そう思いながらも聞こえてきた声が意外な人物だったことに内心驚きながらもそっちを見た。思わず声を出してしまった、とでもいうような表情を浮かべて両手でその小さな口をおさえている。別にいけねぇわけじゃねぇけど…マジ意外なんだけど。…サッカーの試合、見てたのか。 「…。」 「…。」 「…えっと。」 「あ、うん。」 「テレビ、つぅかサッカー、見てたんだな。」 「…うん。」 別に貶<けな>してるわけじゃないけど、意外だった。はサッカーとか野球とか、そういうテレビは見ないかと思っていた。しかも、惜しい、って声をあげるなんて思ってもみなかった。は口から手を放し、その手を両膝にのせ、かしこまったような格好で俺を心配そうに見る。別に声をあげたことに怒ってるわけじゃないんだけど…。 「サッカーは、ちょっと、向こうで…やってた、から。」 「え、マジ?」 つぅか、見た目で判断しちゃいけねぇんだけど、細いし小さいし、なんつぅか、運動なんてやらないタイプだと思ってた!昔はそりゃお転婆な方に入ってたかもしれねぇけど、今は運動が苦手っていうタイプなのかと思ってた(それを世間では偏見という) 「ポジションは?」 「FW…。」 もっと意外だ。FW…FWでやっていけたのか!GK前に躊躇してそうな気がするのは俺の気のせいか…って、ばぁちゃん死ぬまでここまで人見知り凄くなかったんだから、今よりかは大丈夫だったのかもしれねぇな。俺が思い切り、意外、という顔をしていたのだろう、は少し気まずそうに顔を俯けた。 「や、悪い、少し意外だと思っただけだ。」 「…自分も、そう思う。」 「あー、でも俺もサッカーやってるんだよ。」 「そう、なの?」 あー、でもって何だよ、日本語可笑しいっての。つぅか、お、今けっこう会話弾んでるんじゃないか?まぁ俺たちのこと憶えてたみたいだし、昔の呼び名(シロちゃん)でも呼んでたし…今となっちゃ呼ばれたくないけど、そんなこと言ったら一生俺、名前では呼ばれないんだと思う。それに絶対に母さんが煩い。とりあえず、少しでも馴染ませねぇと。 「俺はMFだ。」 「うん、それっぽい。」 「そうか?」 「うん、シロちゃんはMFっぽい。」 少しは慣れてきたのか、言葉に戸惑いがなくなってきた。それに内心少し嬉しいような気がしている俺がいる。そんなとき、テレビからアナウンサーと観衆の歓声が聞こえてきた。 「「え、得点入ったの(か)!」」 また声が重なった。俺たちは顔を見合わせて、軽い苦笑いを浮かべた。あれだけ、どっちか得点入れろって思ってたくせに、けっきょくいいところを見そびれてしまった、なんて間抜けなんだ。同じことを思ってたのかどうかは分からないが、も残念そうにテレビを見ている。前半戦残り10分と少し。 「なに俺差し置いて仲良くなっちゃってんだよ。」 突然背後から羽交い絞めにあった。誰だ、って聞くまでもねぇ、こんなこと俺にする奴は雪獅郎しかいねぇ(家でも学校でも) 「そんなこと知るか!」 「ひでー、俺も仲良くしてくれね、ちゃん。」 「あ、うん…って、雪ちゃん!」 手を握ってくる雪獅郎に少し戸惑いがちだっただが、突然何か驚いたような声をあげた。らしくないことに急に立ち上がり周囲をキョロキョロと見渡している。一体何があったんだろうか。気になったが、それはすぐに分かった。 「雪ちゃん、風邪、ひいちゃうよ!」 雪獅郎の格好は確かに上半身裸(つぅか年頃の女がいるんだからそれくらい気にして出て来い)まだまだ暑い日が続く上に、風呂上りゆえにそれは別に気にするまでもないことだと思うが(上半身裸は別の意味で気になるだろうに)それなのになぜは風邪なんて単語を出したのだろうか。俺は不思議でならなかった。雪獅郎も首を傾げていたが、何か分かったのだろう、ポンと両手を打った。 「大丈夫大丈夫、昔みたいに体弱くないから。」 あ、そうか。雪獅郎は小学校三年まで体が弱かったんだっけ。三年生になって俺と変わらないくらいになったから、今ではすっかり忘れてたけど、はそれを知らないんだ、昔のまま、雪獅郎は体が弱いと思ってるのか。確かに、昔のこいつは少しでも雨に濡れたら次の日熱を出したり、体育はあまり出れなかったりしたもんな。それを憶えていたのか。 「昔は儚く、病弱だったからなー。」 「ほ、ほんと?風邪、ひかない?」←ツッコミなし 「大丈夫、ってか、ちゃんヤサシー!」 「抱きつくな変態野郎。」 いい加減にしろ、この女好き。つぅか、昔はこんなに女好きでもなかっただろうが、普通だっただろうが。そう言いたかったが、そんなこと言っても何かが変わるわけじゃない。言うのは無駄だ。俺は雪獅郎からを救出すると見せるように溜息をついた。こいつの行動にはたまに呆れて物が言えなくなる。そんな俺を見て、雪獅郎は何かを考え、そして口を開いた。 「冬獅郎、俺がちゃんと仲良くするから妬いてるな?」 「ちげぇよ。」 「ってか、冬獅郎は愛想が足りねぇんだよな。」 「いらねぇよ。」 「ひとつ屋根の下なのに、呼び方がいかんな。」 「はぁ?呼び方ぁ?」 雪獅郎は、また、ポン、と両手を打った。 「昔の呼び方をしろ、冬獅郎。」 「はぁー!?」 「えっと、確か…呼び捨てだったよな。」 「ちょっと待て、何の関係があるんだよ。」 「関係はない、だが、親睦は深まりそうな気がする。」 「親睦が名前で深まるのか!」 「あー、そうね、深まりそうね、名案よ雪獅郎。」 と、途中で入ってきたのが母さん。あんたが入ってきたら俺、どうしようもねぇんだけど。そんな俺の心知らず、母さんは、うんうん、と頷いている。つぅか、俺の意思は無視か?だいたい名前で呼んでる女なんていねぇんだけど。 「はい、じゃあ""って呼んでみよう!」 「はい、せーの。」 お前ら、グルになるんじゃねぇ! (言うまでもなく、は戸惑っていた) |