
未だ緊張と共に行動しつつも、優しいクラスメートたちのおかげで孤立することはなかった。意外にも周りがを受け入れてくれていたので冬獅郎も大したフォローをする必要もなく(たまに何か訴えるように視線を向けてくることはあるが)彼女を気に入った朽木は率先して彼女を引っ張るようになっていた。 「良いか、まずは職員室の場所からだ。」 「いや、職員室なら普通初めに行ってるだろ。」 「…う、煩いぞ一護、冗談だ!」 幼馴染コンビが何ともいえずいいコンビだ。朽木、黒崎、冬獅郎と移動教室のために歩きながらは密かに心内でそう思った。少し違うが、冬獅郎と雪獅郎のようだとも思った。どうやら次の授業は美術のようだ。美術の本を持ち、彼らは美術室へと向かう(突然の転入生であるはまだ教科書を貰っていないが)美術室に行く前に購買や保健室の前を通ったので、そこを朽木がに説明してくれた。途中、黒崎のツッコミが混じっていたけれど。冬獅郎は普段あまり喋る方ではないようで、それを黙って聞いて(いるのかも分からないが)歩いていた。 「(シロちゃん、あまり喋らない)」 自分のことは棚にあげて、ということは分かっているが、気になってしまう。家ではどちらかというと冬獅郎の方から話しかけてくれるから余計にそれが気になってしまう。もしかしたら、学校でも冬獅郎を頼ってしまっている自分に嫌気がさしたのかもしれない、とか、自分がヘマ(笑われるようなこと)ばっかりするので怒っているのかもしれない、と思っては血の気が引いたような感覚に襲われた。咄嗟<とっさ>に彼女は彼の裾をギュッとつまんだ。 「ごめんなさい!」 突然裾を引っ張られたと思ったら突然謝られた。本当に突然な出来事に冬獅郎は目を丸くしてしまった。朽木や黒崎も驚いたような顔で見ている。それに気づいていないは心臓をバクバクさせながら裾をもつ手の力を少し強めた。 「な、何なんだよ突然?」 「お、怒ってる?」 「はぁ、何で?」 「だってシロちゃん喋らない!」 そこでをのぞく三人の動きが一瞬とまった。彼女は自分の失態に気がついていなかった。と、いうよりも、彼女は朝の約束事なんて頭に全く入っていなかったのである。"いいか、学校では絶対にシロちゃんなんて呼ぶなよ?"そう強めに言ったはずなのだが、彼女は初めての学校に行くという緊張のあまり頭に一欠けらも入っていなかったのだ。暫しの沈黙、が、それを初めに破ったのは黒崎だった。 「し、し、シロちゃん!冬獅郎がシロちゃん、っぶふ!」 「やめろ一護、日番谷に対して失礼だぞ…ふっ。」 「お前だって笑ってるじゃねぇか、く、っくくく。」 「たわけ、私は笑ってなどおらぬ…っく。」 「お前ら二人共笑ってるだろうが!」 雪獅郎のことはともかく、冬獅郎のことを学校で"ちゃん付け"する者なんて存在しない。思い切り笑いを堪え切れていない彼らに怒鳴り声に近い声を浴びせると、冬獅郎は溜息をつきながら視線をへと移した。彼女は不安気に彼を見ている。それを見てもう一度彼は溜息をついた。 「シロちゃん、ご、ごめんなさい。」 「…だから、シロちゃんやめろ。」 「え?」 「つぅか、何に謝ったんだよ。」 様子からしてどうやら朝の約束はまったく頭に入っていなかったことは確か、それならばどうしてが自分に謝ったのか、冬獅郎は笑いを堪えている二人を横目に溜息をつきながら頭をかいた。が不安に思っていることを言うと、もうひとつ呆れたような溜息をついた。 「怒ってるから喋らないんじゃねぇよ。」 「そうそう、冬獅郎は元々ベラベラ喋る方じゃねーし。」 ここでやっと笑い終えた黒崎がフォローに入った。朽木の方も笑い終えているようだ。は未だ不安気な表情だったが、視線を黒崎に移した。 「冬獅郎は家じゃ知らねぇけど、学校じゃ静かだぜ。」 「うむ、女子とは特に話をしないな。」 「まぁ俺やルキアは同じ部活だから、他よりは喋るけど。」 部活、という単語が出てきて、朽木はハッとしたような表情を浮かべた。そして自分の持っていた教科書を黒崎に半ば強制的に、それでかつ素早く持たせると両手での手をとった(彼女は何も持っていない)目をキラキラと輝かせて彼女は口を開いた。 「サッカー部マネージャーにならないか!」 どうやら朽木はサッカー部のマネージャーのようだ。空座高校には女子サッカー部がないのだから、同じ部活といわれればそういうことになるだろう。は突然すぎるお誘いに目をパチパチとさせた。暫くの間、自分がどういう状況なのかを分かっていないような状況だったが、次第に理解能力を取り戻した彼女は、えぇ、と小さくはあったが声をあげた。 「む、む、無理で、す!」 「大丈夫だ、私でもできているんだぞ!」 「え、あ、その…(男の子の部活でしょう!?)」 同性と接するのでさえとても緊張してしまうのに、それが異性であれば尚更だ。はブンブンと首を横に、一生懸命に振った。それでも朽木は彼女の手を放そうとはしない。それでもやはりは首を縦に振りそうにはなかった。そんな彼女を見るに見かねて、冬獅郎が口を開いた。が、救いの手ではなかった。 「それいいな…やれ、。」 「えぇ、シロちゃん!」 「…シロちゃん言うな。」 「え、でも、私、えぇっ。」 「人見知り治すいい機会だろ、朽木も黒崎もいるし。」 そして何より、自分も所属している。冬獅郎がいることに関してはは安心感を感じるのであるが、それでも勢いに任せて、ハイ、と言えないのが現状だ。そんなに容易く覚悟が決められるわけもない。 「お前向こうでサッカーやってたんだろ?」 「や、やってたけど…。」 「何だよ、俺がいるのが嫌なのか?」 「そんなことない!」 「本当か?」 「うん。」 「サッカーは好きなんだろ?」 「うん。」 「マネージャーやるか?」 「うん…って、え、えぇぇ!」 よし、と冬獅郎だけでなく朽木も頷いた。黒崎は苦笑いを浮かべている。謀られた、とは思ったが既に弁解の余地をくれるような雰囲気ではなかった。冬獅郎はニッと笑うとポンポンと彼女の頭を優しくたたいた。この手は嫌いではない、どちらかというと好きだ。だが、今回ばかりは複雑な思いのだった。 ----- 「えー、じゃあ今日の授業はここまで。」 美術の教師である浮竹は委員長ではなく、自分で号令をかける。ちなみにうちの委員長は黒崎だ。あいつは俺にやれとか言うけれど、そんな面倒なものをやる気はさらさらない。授業が終わると俺は思わず息をもらした。美術の授業はハッキリ言って好きじゃないし、得意じゃない。それにこの教師とくれば、名前が似ているというだけで何かと話しかけてくる(ときには飴を持ってくる、俺はガキかってーの)冬獅郎と十四郎って漢字じゃ"郎"だけじゃねぇか。雪獅郎にも飴を持っていくらしいが、あいつは俺と違って喜んで貰うらしい。 「シ…冬獅郎くん。」 とりあえず、に呼び方を訂正させた。そして黒崎と朽木にはキッチリと口止めをしておいた。学校でシロちゃんなんて呼ばれるなんて最悪だ。家では仕方がないにしろ。はしどろもどろながらも俺を呼んだ。まだ朽木と二人だけで行動するのは不安なようだ。まったく、うちみたいな馬鹿がつくほどの平和な学校で良かったものを、普通なら何か問題が起こっても不思議じゃない。最近の学校ってのは色々とあるからな。 「分かってる、すぐ行く。」 教科書を揃えると俺は席を立った。廊下から賑やかな声が聞こえてくる。どうやらどこかのクラスが体育の授業を終えて教室に戻るところらしい(会話から分かる)俺も美術より体育の方がいいな、そう思いながらのところに行こうとした。そのとき、美術室のひとつの窓が外から開かれた。 「シロちゃーん、ちゃん元気にやってるかー?」 …よりによって…現れたのはお前か…?怒りのあまり持っていた教科書に折れ筋をつけてしまったが、今の俺にそれに気がつく余裕なんてなかった。殴る。今すぐ殴る。完膚なきまでに殴る。 「わー怖いなぁお兄さん。」 「お前わざとだろ?」 「そうだっけ、俺もう忘れたなぁ。」 「あぁそうか、俺もお前のこと忘れてやる、綺麗サッパリ。」 むしろ他の奴らも忘れるくらい跡形もなくやってやる。 「シロ…あ、ごめんなさい、冬獅郎くん…。」 「…もういい、好きに呼んでくれ…。」 どっちにしろ手遅れだ。一部の奴らしか聞いていないだろうけど、すぐにクラス中に広まってしまうだろう。もうどうしようもない…だがな? 「雪獅郎、歯、くいしばれ?」 |