
ちは、日番谷雪獅郎っス。海燕センセの体育を終え(今日は野球でホームランを二本打ってやった)確か1−Bは美術だったよな、と思い出して教室に帰るときに美術室の窓を開けてみた。案の定、そこには俺の双子の兄である冬獅郎の姿があった。まぁ、兄であっても身長は俺のが高いけどな。茶化し99.9%でシロちゃんと呼ぶと、予想通り怒りに震えながら俺に拳を向けた。 「ゆ、雪ちゃん!」 と。突然、何だか助けを求めるような声が聞こえた。よく見ればそこには可愛いちゃんがいるではないか。冬獅郎をからかうことに夢中になって気づかなかった…俺らしくねぇ。俺は駆け寄ってくるちゃんに両手を広げて待ちのスタイルを見せていた。が、そんな俺を冬獅郎よりも先に叩いた人物がいた。もちろん、冬獅郎も構えてはいたけれど(それなのにやめない俺) 「…いてぇんだけど。」 「痛いように叩きましたからね。」 衝撃は背後からだったりする。ってか一緒に教室に戻っていたんだし、犯人はこいつしかありえない。俺と同じクラスで実は俺よりちょっと頭がよくて前期試験も三点負けてしまったという何とも歯痒い奴、小日向柚木。普段ニコニコニコニコ笑ってるくせにこの学校、いや、この世界で一番タチが悪いじゃないかと思うくらい凄い奴(しかもモテる、高値の花らしいが) 「公然猥褻ですよ。」 「そうか悪い…ってんなわけないだろ!」 お、いかん。家では普段冬獅郎の役目のようなツッコミをしてしまった(ちなみに公然猥褻<わいせつ>なんて言葉、笑って人に言う奴なんざお前くらいだろ、つーか俺は立ってるだけで猥褻なのか!?)いかんいかん、と思いながら前を向くと、ちゃんがキョトンとした顔でこっちを見ていた。その表情、可愛いなぁ…とか思ってたら声に出してないはずなのに今度は冬獅郎からグーパンチがとんできた。ってか、どんだけ?お前ほんとどんだけ敏感なんだよ。 「で、その方が噂の転入生ですか?」 「そうなんだよ柚木ー、可愛いだろ、俺の…バシッ 「誰がお前のだ、誰が。」 すかさず冬獅郎のツッコミが入った。ものっそい痛いんだが…。だいたい双子なのに冬獅郎が俺に似ずに固すぎるから俺がこれだけ柔軟な人物を担当しているというのに、何て扱いだ。そう思いながらも言えばきっと今度は蹴りがくる。現役サッカー部の蹴りをくらおうと思うほど俺は馬鹿じゃない!確かに前回のテストで漢文を訳しなさいの問題を1問英訳してしまったが、俺は馬鹿じゃない(前の教科が英語だった上に少し眠たかっただけだ) 「幼馴染のちゃん。」 「初めまして、さん、小日向柚木といいます。」 「あ、え、はいっ、、…です。」 ペコリ、とちゃんは柚木に頭を下げた。あー、なんて可愛いんだろうか。さすがは俺の初恋の少女!そうそう、実は俺は虚弱体質だった頃ちゃんが好きだったわけで、いつも体育休んでなきゃいけなくてすげぇ嫌な気分だったりしたときでも、さり気なく彼女が話しかけてくれたり、励ましてくれたり、おかげであの頃はちゃんしか見えないような状態だったわけだ(今でも女の子の中で指折りだと思ってるけどな)あ、そうだ。 「で、何か助けてほしいことでもあるんじゃね?」 「そ、そう、無理って言って!」 「へ?何を?」 「とっとにかくシロちゃんに、無理って!」 文法が整ってないので何が何やら分かりませんが。 「とりあえず…(冬獅郎が俺からちゃん奪うのは)無理。」 「…何かその間で違うこと思ってただろ。」 「え、何で分かったんだ!」 「嫌でも長い年月いるんだ、嫌でも分かる!」 「嫌々言うなよ、俺柚木と逃避行するぞ。」 見事なまでのハモリ(言葉の内容は正反対だが)片や俺の間違いようのないくらいそっくりな双子の兄、片や同じ部活で最強ペアとまで言われてて同じクラスの友人、な、はずなのに、この扱いは酷くねぇか? 「ひでぇ、ちゃん慰めてくれ。」 「え、わ、え、え、え!」 「だからやめろっつってんだろー!」 抱きしめてもちゃんは戸惑うだけで抵抗しない(戸惑いすぎてそんな余裕ないんだろうけど、そこが可愛い)が、冬獅郎がすかさず痛いツッコミをしてくる。それでもやめない俺は女好き。叩かれた頭を押さえつつ、俺は改めて(解放した)ちゃんを見た。冗談はさておき、彼女はどうやらサッカー部のマネージャーになれと言われて戸惑っているようだ。俺もマネージャーになるのはいい案だと思うけど。なんなら、俺のいるバスケ部でも歓迎!だけど、サッカーの経験があるならサッカー部マネの方がいいだろうな。 「治したいのなら、僕もそれがいいと思いますよ。」 「え、あ、でも…。」 「少なくとも、雪獅郎くんのいるバスケ部より安全です。」 「…お前、俺に酷くね?」 ----- 「お前ら喜べ!可愛い女子のマネ入部だ!」 おぉぉ、と声をあげる男子生徒諸君。時間は放課後、部活動の開始。サッカー部のいるグラウンドは大いに盛り上がっていた。その中心にいるのが黒髪の男性教師、サッカー部の顧問である志波海燕であった(ちなみに彼は高校一年の男子体育の担当)彼はまるで祭でも開催するのではないだろうか、と思うくらいの勢いで生徒たちに喋っている。彼の横で彼とは正反対に盛り上がれない(緊張と戸惑いのため、それどころではない)がいる。確実に彼女は怯えてしまっている。そんな彼女を冬獅郎は心配そうに見ている。 「か、海燕先生、は、その、けっこうな人見知りで…お手柔らかにお願いします。」 「おう、心配ねぇ、俺はいつもお手柔らかだ!」 本当かよ。冬獅郎は苦笑いを浮かべてしまった。どう見ても彼らの賑わいには怯えきっている。それに気づいている黒崎も苦笑いを浮かべながら冬獅郎を見た。 「うわ、の奴、ガチガチだな。」 「(もう呼び捨てしてたのかよ)」 「まぁこの盛り上がりも仕方ないよな、可愛いし。」 冬獅郎は驚きの表情を浮かべて黒崎を見た。中学校の頃から今までずっと同じクラスとけっこう浅くはない付き合いだが、彼から"可愛い"なんて言葉が出たのは初めてだった。その意味ありげな視線に気がついたのか、彼は冬獅郎の方を向いた。 「なんか兎みたいじゃねぇか、あいつ。」 「(そういう意味の可愛いか…安心した…ん?)」 一瞬、違和感を感じたが、それが何なのか冬獅郎には分からなかった。その直後、一層大きな歓声があがり、彼は視線をに戻した。どうやらこれから自己紹介をしなくてはいけないらしい。クラスの人物の前ならまだしも、ここには男子だらけ、そして二年生も三年生もいる。彼女が緊張しないはずがない。彼女は顔を思い切り赤く染め、ちょっと俯いたまま短い声をあげた。 「あ、あ、え…。」 未だ(この状況に)怯えているのだろう、声が声にならない。それでも一生懸命に聞く姿勢の男子生徒たちは何とも真面目なものに見える(色々な思いはあるにしろ)そんなときは冬獅郎と目が合った。彼は教室のときのように口を開いて、声に出さないけれどエールを送る。それに彼女はグッと手を握り、少しだけだが顔をあげた。もう一度声を出そうとしていたときだった。 「あーっ、ちゃーん!」 ダダダダダッ、ムギュゥゥゥ。漫画のように効果音がつくならば絶対にこんな音のはずだ。いきなり現れた人物には思い切り抱きしめられてしまった。突然の出来事に頭はパニック、そして思い切り胸におしつけられていて苦しい。彼女は声にならないような声をあげた。騒然。自己紹介の場であったはずが、目の前には片一方ではあるが修羅場が繰り広げられていた(このままでは酸欠に到ってしまうであろう)冬獅郎が慌てて立ち上がろうとしたとき、その人物を志波がペシリと叩いた。 「また遅刻か、松本。」 「あら、今日はちゃんと理由があるんですよー。」 松本はやっとのことでを解放するとクルリと振り向いて志波を見て笑った。どうやら遅刻常習犯であるらしい彼女だが、今日は日直の仕事があったらしい。 「それにしても、ちゃん、入部してくれたのね!」 「え、あ、そう…なりました。」 彼女の存在にどこか緊張が弱くなった気がした。は顔をあげて松本を見る。彼女は微笑みを浮かべ、の頭を優しく撫でた。自己紹介が再開される。さきほどよりも緊張がとれた彼女は一回だけ深呼吸をすると、顔をできるだけあげてみた。あげたら視界に冬獅郎が入る、黒崎が入る、そして朽木と松本が隣にいてくれる。彼女はまだ震えてしまいそうになる手をギュッと握った。ゆっくりと口を開く。 「、…です、よろしく…お願いします。」 「人見知りだけど可愛い子なのよ、でも襲っちゃダメよ。」 また松本がギュウッとを抱きしめる。思春期男子生徒にすれば彼女の巨乳が気にならないわけがない。それに片方は密かに噂されていた転入生だ。抱きしめられながら、は冬獅郎を見た。彼は彼女にVサインを見せた。彼女はむしょうに嬉しくなって、ふわりと微笑みVサインを見せた。その瞬間、生徒たちの動きが一瞬だけ止まってしまうのだが、それにが気づくはずもなかった。 「これからが大変そうだな、冬獅郎。」 「何の話だよ。」 |