浦原商店を一人抜け出たは虚の気配を辿る。さきほどまでの表情とは全く違い、彼女は顔をしかめていた。屋根と屋根を伝って素早く移動しながらも左手を強く握った。脳裏に浮かぶ影、それを払うかのようには頭を数回振った。ビルを越え、踏切を飛び越え、辿り着いたのは大きな公園だった。幸いなことに生きている人間はそこにはいないようだ。は注意深く周囲を見渡した。そのとき、けたたましい叫び声のような声が響いた。これは、虚の声だ。



「こっちか!」



は虚の気配をヒシヒシとその身に感じ、眉を寄せた。アスレチックを飛び越えたとき、昨夜昇華した虚よりは大きさのない虚が少女のような霊に襲い掛かかろうとしているのを見た。彼女は素早く腰元につけていた拳銃をとるとそれを構える。一発で仕留めることもできるが、それはあまりにも危険すぎる。近くにいる少女の霊まで巻き込んでしまうかもしれない。狙う場所を変えて振り上げている腕に一発打ち込んだ。



「チッ、威力抑えたからあまり効果ないか。」



ドン、と音はしたもののダメージはそれほどなかったようだ。は虚と少女との間に入ると素早く少女を抱きかかえて高くジャンプをした。とりあえずはこの少女を避難させるのが一番だ。だが、思ったよりも虚の体勢が戻るのが早かったのだろう、虚は背を向けている目掛けて大きく腕を振り上げた。少女を抱えていては反撃も難しい。せめて彼女を守らなくては、は攻撃を覚悟して少女を守るように強く抱きしめた。



霜天に坐せ…氷輪丸!



だが、攻撃はその小さな背中にくることはなかった。代わりに聞こえてきた聞きなれない声と高い霊圧を感じた。チラリと後ろを向くとそこには日番谷の姿があった。あまりにも美しく力強い攻撃に思わず見とれそうになったのだが、自分の手の中に少女がいることを思い出し、その場を離れる。



!」

「イチゴ!」



どうやら黒崎も駆けつけてきたようだ。は何も言わずに黒崎に少女を託した。おい、と彼は彼女をとめようとしたが、その腕をまたもスルリと抜けられる。振り向いたは、黒崎が初めて見るような険しい表情を浮かべていた。日番谷の斬魄刀である"氷輪丸"の影響か、冷たい風が吹いた。栗色の髪をその風になびかせ、は拳銃を持ち替えた。



「あの虚は私が倒す。」

「ここは冬獅郎に任せろ!」



それでもは首を横に振った。その子を頼む、そう言うと彼女は虚の元へと駆けた。



「限られた霊圧じゃ一撃で仕留めることはできねぇか。」

「退けっ!」



背後からの声に日番谷は瞬間的に後ろを見た。そこにはただの霊であるが拳銃のようなものを構えて虚を狙っている。その力を知らない日番谷は慌ててをとめようとした。黒崎からの正体を聞こうとしたものの、それより先に虚の元へ行こうとしている彼女を制するべきだと考慮したため、彼は彼女の力など全く分からない状態だ。だいたい、虚を普通の霊(人間)が倒せるはずはないのだ。だが、彼が制するよりも先に、は拳銃の引き金を引いた。



「なっ!」



ドン、と音がして今度は額に命中した。虚の弱点が頭であることを知っているからこその一発だった。たいていの虚ならば今までそこに命中すれば一発で仕留められていた。だが、目の前にいる虚はそれでも足を地面につけている。確かに彼女の攻撃は命中したはずだった、その証拠に虚の額には亀裂が生じているし、そこから血が流れ出ている。それでも、虚は余裕とでもいうように歪んだ笑みを浮かべてを見た。



〔死神じゃない割に霊力も強くて美味そうだなぁ〕

「…攻撃が、きいてない!?」

〔今日死神五人ほど喰らったんだよ、力が有り余ってる〕

「死神…五人…だと?」



虚の声に反応を示したのは日番谷だった。そういえば、捜索に出していた班が尸魂界に戻ったとの連絡を受けていない。もしも、その班が穿界門をくぐる前にこの虚に襲われたとするのならば…その喰らわれた五人とは、自分の隊の者となる。いや、もしも、ではない、可能性としてはそれしか考えられないのだ。日番谷は斬魄刀を握る手の力を強めた。怒りがこみあげるが、それをぐっと堪える。冷静に考えると、目の前にいる虚は情報局からの情報と異なっていることが分かる。限定解除をしなくても自分ならば容易に倒せるレベルだと聞いていた。だからこそ五人の班を組み向かわせたというのに。



「隊長である俺と出会ったことに後悔するんだな…。」



パキパキと音をたてて日番谷の斬魄刀を握る手に氷が張っていく。前に立つを彼は押した。危険だから下がれと伝えて。彼女には確かに"力"がある、しかしこの虚と戦えるレベルではないと判断をしたのだ。だが、彼女は素直にそこから退こうとはしなかった。真っ直ぐに日番谷を見て、首を横に振った。



「お前の力では倒せない、あれがお前の限界だ。」



静かに悟るように言われたが、はやはりそこから退<しりぞ>こうとはしなかった。日番谷は仕方なしに力任せで彼女を下がらせようとした。しかし、彼女は逆に彼を押しのけようとした。自分の右耳につけられているピアスをは少し顔をしかめながらも外す。すると、彼女の霊圧がさきほどよりも高まった。それに反応するかのように瞳の色が紺色から紫色に変わる。



「私の限界をお前が決めるな、それは私が決める!



拳銃が金色の光をまとい、それを構え、彼女は虚へと向かっていく。振り上げられた腕を軽やかに避け、背後からお返しとばかりに蹴りをくらわせた。その衝撃に虚はけたたましい叫び声をあげる。怒りをおびたような表情でに向かって虚閃<せろ>を放とうとしていた。だが、それは大きな音と共に相殺された。の打った弾丸がそれに命中し、打ち消したのだ。白い煙があがり彼女を見失った虚は周囲を見渡した。煙が薄れていったとき、彼女の姿を見つけたのだが、既に遅い。



「ジィちゃんの仇は、とらせてもらう。」



ドン、と音がして今度こそ虚は額からぼろぼろと崩れていく。日番谷は呆然とを見た。虚閃を相殺したときの衝撃による傷で体からじわりと血がにじんでいるが、彼女はそれをさして気にしているでもなさそうだ。険しい表情をやっとのことでとくと、は崩れていく虚を見て、また浅いお辞儀をした。彼女は今にも泣きそうな表情でありながらも柔らかく微笑んだ。それを偶然見ていた日番谷は声をかけようとしていたが、かけられなかった。



「…ありがと、さよなら。」



誰にも聞こえない呟きの後、パン、といい音がした。彼女が自分の頬を思い切り叩いたのである。それに日番谷は驚いた。



「何やってんだ妃癒。」



駆けつけてきた黒崎が頬から手をのけさせて呆れたように溜息をついた。自分でやった割に思ったよりも痛かったのだろう、情けなくも彼女は瞳に薄っすらと涙を浮かべながらその場にしゃがみこんでしまった。そんな光景を見ているとさきほどまでの緊張感は何だったのだろうか、そう日番谷は思ってしまった。



「泣くぐらいなら叩くなよ。」

「な、泣いてなんかない。」

「じゃあ、その涙は何だよ。」

「これはっ、オイルだ!」



目からオイルを出すってどんな人間だよ、声に出さなかったが心の中でつっこみを入れた日番谷は、少なくともそのときだけは自分が現世へと来た目的を忘れていたに違いない。























コメント

マイクラブライフ4
あれー展開がシリアス?
真面目に書いてしまったです。
主はもうちょっと違う性格のはずなのですが。
もうちょっとヘタレさんにしたかった…。
書きたい主の性格じゃないので、
どうにかして話を回転させないと…。

主の、ありがと、さよなら、の意味は、
本編シリーズ話でいつか話させていただきます。