既に日は落ち、夕闇が暗闇へと変わりつつある。彼らは公園から黒崎家に移動し、ただいま沈黙中。改造魂魄であるコンも普通ならばいるのであるが、ややっこしい話にコンを交えたらさらにややっこしくなることを予測して黒崎が義魂丸を抜いたらしい。日番谷はあぐらをかき、ジッとを見ている。それに気まずそうに目を逸らす。黒崎は内心落ち着かないが、必死で平然さを装っているようだ。沈黙を破ったのは日番谷だった。



「お前が尸魂界の人間だということは分かった。」

「あぁ、そう。」

「死神に匹敵する力を持っていることもな。」

「あぁ、そう。」



単調な口調で返す。それに耐えるように日番谷は眉間に一層深い皺を寄せた。とりあえずは込み上げてくるような怒りを抑えよう、そう彼は思っていた。謎だらけの彼女、そんな彼女のことを聞くのにこちらが怒っていてはどうしようもないと思ったのだろう。でそんな日番谷をいいことに、お腹減った、とか、アイス食べたい、とか好きなことを黒崎に言っている。お前ちょっと黙ってろ、と黒崎が言うのと同時だった。



調子に乗ってんじゃねぇ、あぁ?



ついに(の態度に)緒が切れた日番谷。額に青筋を浮かべて、足を一歩踏み出しての胸倉を容赦なく掴んだ。それに慌てた黒崎がとめようとするが、逆に本日何度目かの蹴りをくらってしまう。胸倉を掴まれた張本人のは流石に慌てたようで何か文句を言っているようだが、彼が手を放すような気はしない。



「お、女の子だぞ、乱暴もの!」

「関係ねぇよ、真面目に話聞きやがれ小娘が!」

「こ!私はこれでも多分150以上生きてるぞ!」

「俺だってそのぐれぇ生きてるよ!」

「なっ、その身長でもか!」

「うっせぇ、お前に言われたくねぇ!」



胸倉を掴んだ(掴まれた)まま話はなぜだか違う方向へと進んでいるような気がする、と黒崎は思った。このままいっそのこと話を別の方向に流させとこうか、とも思ったが、そこはやはり抜け目がない日番谷だった。自分の目的を思い出すと、の胸倉から手をパッと放した。



「で、ここ数年の虚昇華に携わってたのはお前か。」

「…多頭、触る?」

「携わるだ、馬鹿、関係してたのはってことだよ。」



どうやら彼女は少々頭が弱いらしい。思わぬ言葉に黒崎だけじゃなくて日番谷も額を押さえた。虚と対峙していたときの緊張感の感じられる彼女はどこへやら、今見るとただの幼げな少女にしか見えない。そうは思いながらも日番谷はへと手を伸ばした。そして彼女の腰元に下げられている拳銃を素早く取る。あ、と声をあげただが、もう既にそれは彼の手に渡っていた。



「これで虚を昇華してたのか?」

「勝手に取るな!」

「取ってない、見せてもらってるだけだ。」

「…そうなのか、って、同じだろ!」



いちいちムキになって何か言ってくるに日番谷は口元を密かに少しだけ緩めた。悪く言えばムキになる、良く言えば何事にも本気…。そういえば、と日番谷はついさきほどの虚との戦闘時のことを思い出した。卍解しようと思い危険だからと下がらせようとして諭すように言った言葉に彼女が返した葉"私の限界をお前が決めるな、それは私が決める"そう言ったときのその真っ直ぐなアメジストのような瞳が未だに脳裏にやきついている。それを思い出して急に黙った日番谷に、は不思議そうに首を傾げて彼をのぞき見た。



「うわっ!」



突然視界に入ったの顔に、日番谷は盛大に驚き思わず持っていた拳銃を落とした。それを慌てて拾う。思わぬ形で自分の元へと帰ってきたそれを愛しそうに撫でている。変な女。日番谷はそう思ったが、別に嫌な感じはしなかった。確かに隊長である自分に対して無礼もいいところだし、生意気だし、そうは思うものの、不思議と嫌いだとは思わなかった。そんなことを思った自分に改めて気づいた彼は自分に向けて小さな溜息をつくと、腰を上げてを見た。



「まぁいい、詳しくは戻ってから調べるか。」

「お前、帰るのか?元気でな。」

てめぇも帰るんだよ尸魂界にな。



ここまで来てどうして自分の立場を分かっていない。日番谷はもはや怒りというよりも呆れの域にきていた。自分も尸魂界に帰る、と言われては大きな目を更に見開いて驚きの声をあげた。黒崎は慌てて口を塞ぐ。一般的な家庭ならばこの大声も聞こえないので構いはしないだろう。だが、ここは黒崎の家なのだ、霊力を持った彼の家族に聞こえないとも限らない。



「うっせぇ、だいたいお前、尸魂界の人間だろ。」



尸魂界の人間がこんなに容易く、そして、ノウノウと現世にいていいはずはない。と、いうよりもいられるはずがないのである。魂は現世から尸魂界へと送られる。いわば尸魂界が第二の舞台と言っても可笑しくはないのだ、次の生命として現世に生まれるまでは。そう言われて初めては自分の立場に気がついた。



「チガウ、ワタシ、コッチノニンゲン。」

「…何で片言なんだよ、しかも遅ぇよ。」



黒崎のツッコミに日番谷は頷く。もうここまできてしまえば仕方がない話だ。黒崎はの肩をポンとたたいて、諦めろ、の意を伝える。それは分かったのか、彼女は嫌々と首を横に振った。



「無理矢理でも連れて帰るぞ!」

「いーやーだー!」

「力で俺に勝てると思ってんのか!」

「…連れ戻されてもすぐにこれで現世に戻ってやる!」



は腰元の拳銃を手にとって見せた。この小さな拳銃で現世に戻るだと、それに日番谷は疑問を抱いた。彼女はご丁寧に自分の武器である拳銃の説明を始める。



「これはな、私が造った私専用の最高ケッサクだ。ちょっと手を加えれば現世へと繋がる穴を作ることができる。もちろん他の奴が通る間もなく消すこともできる。」



自慢げに話しただが、それを日番谷は素早く取った。あ、と声をあげる彼女に黒崎が呆れたように、馬鹿、と零す。こんなに凄いものを造れるというのに、どうしてこんなに抜けているのだろうか。



「これがなかったら現世には戻れねぇんだな。」

「あ、こら、返せ!」

「返せと言われてすんなり返すか馬鹿。」

「ば、馬鹿言うな馬鹿!」



拳銃を奪ってしまえば彼女は現世へと戻ることもできないだろう、日番谷はそう思ってまだ暴れているを担いだ。馬鹿正直な彼女に呆れつつ、黒崎もこうなってしまえばどうにもできない。尸魂界には尸魂界の規則がある、現世に憲法があるように。



「放せ、下ろせ!」

「俺はお前みたいな馬鹿じゃねぇからな、頷けねぇな。」

「放せ、下ろせー!」



ジタバタと暴れる。それでも日番谷の腕の力が緩むことはなかった。彼は窓に足をかけてそこから出ようとしていた。尸魂界へと繋がる門を開くには黒崎の部屋では少々面積が足りないからである。その間もはジタバタと暴れる。足が日番谷の背中に当たったが虚との戦闘に慣れている彼がそんなダメージに苦痛の表情を浮かべるわけもない。呆れた表情の黒崎は担がれているの肩をポンと叩いた。



「向こうで死神すれば美味いものが沢山食えるぞ。」



その言葉にのジタバタがピタリと止まった。相変わらずの彼女に黒崎は空笑いを零した。動きを止めたに黒崎は日番谷に今のうちにと目配せをした。彼としては彼女に自由に会えなくなるのは正直寂しいところではあるが、日番谷に見つかってしまった以上、いつかは尸魂界に戻されてしまうだろう。複雑な表情で彼は日番谷らの後をついていく。広めの道で日番谷は尸魂界へと繋がる門を開いた。



「や、待て、もしかして今すぐ帰るのか?」

「当たりめーだろ。」

「いや、ちょっと待て、心の準備が。」

「大丈夫だって、美味いものにありつけるって。」



黒崎の言葉に、戻ってもいいかな、と彼女の気持ちはグラグラする。だが、そんな彼女に日番谷はフッと小さく、それでいて意地悪そうに笑ってみせた。



「ただし働かざるもの食うべからずだけどな。」

「え…。」











門が完全に閉じるまで叫び声が聞こえてきたのは。

言うまでもないだろう。





死神と死神もどきから死神になった人のお話。











コメント

始まりのお話がすっごく長かったですね。
何だか新しい形の主になりました。
恋愛要素が全然ないですね。
これから隊長に愛が芽生えると…いいですね。
まぁ、芽生えているのは芽生えているんですけど。
シリーズ話では。