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鳥の可愛らしいさえずりが聞こえる。 窓からはハラリと落ちていく葉っぱが見える。 十番隊舎の執務室にいるは窓から見える景色を眺めた。 飽きないのか、彼女は変わることのない景色をずっと見ている。 手元にある筆は一向に動く気配はない。 まるで本でも見ているかのように、彼女はそれを眺めている。 コツン そんな彼女は微かな痛みを頭に感じた。 彼女の頭に当たったらしい何かは床に落ちてコロリと転がった。 どうやらそれは小さく丸められた紙のようだ。 それを拾い上げ、それが飛んできた方向を見る。 自分の方を見ず、いかにも自分じゃない。 そういう雰囲気を出している人物を少しだけ睨んでみた。 「隊長、ゴミはゴミ箱にお願いします。」 「すまねぇ、ゴミ箱に投げたと思ったんだが。」 「どこをどう見たらゴミ箱ですか、人権侵害で訴えますよ。」 「へぇ、どこに。」 「…ちゅ、中央四十六室…。」 返答に困り答えた彼女に彼は意地悪そうに口の端をあげた。 尸魂界の最高司法機関である中央四十六室。 そんな機関がそんなくだらないことを受けるわけがない。 それはもちろん、彼女も分かりきっている。 だからこそ逆に彼の意地悪そうな笑みに頬を膨らませ拗ねた。 「だいたい、が仕事を真面目にしねぇからだろ。」 「だいたい、日番谷隊長が私に仕事を押し付けるからです。」 「仕方ねぇじゃねーか、松本が置いていきやがったんだ。」 「仕方ないじゃないですか、たい…。」 仕方ないじゃないですか。 そのあとに何か言葉が続きそうだったが。 日番谷は急に黙ってしまったを不思議そうに見た。 彼女は別に怒っているでも呆れているでもない。 ましてや哀しそうなわけでもない。 それでもやはり急に黙ってしまうと心配になる。 彼が慌てて立ち上がったときだった。 ぱん と、両の手を打つ音がした。 彼女も立ち上がった。 何かが自分の中で決まったような仕草。 立ち上がり自分を見ている日番谷には言った。 「隊長、休憩しましょう!」 彼女は日番谷の答えなど聞かずに給湯室に向かった。 おい、という彼の声は聞こえなかったのか、無視なのか。 話は途中で半ば強制的に終了されてしまった。 日番谷は呆れたように溜息をつくと、ストンと座った。 「隊長、お茶ですよ。」 「見たら分かる。」 「もー隊長、可愛くないですよ。」 「可愛くなくていい。」 ああ言えばこう言う。 は日番谷をジトリと見た。 いつものことであるけれど。 彼には口でも勝てそうにない、が。 彼女にとってはそれがちょっと癪に障る。 日番谷の湯のみを彼の机に置き、自分は持ったままソファに座る。 心落ち着けるためにも彼女はそれを一口飲んだ。 有名な銘柄だけあって美味しい。 「一人でソファ占領すんなよ。」 まったりしていると急にソファが沈んだ。 驚いた表情では隣を見た。 さきほどまで自分の(机の)椅子にいたはずの日番谷が隣にいる。 自分の分のお茶は早々飲み終えたらしい。 距離が近い。 おもわずは体をずらした。 「何だよ。」 「いえ、ちょっと距離を。」 「別にとって食やしねぇよ。」 ニッと笑う日番谷には微かながらも熱を持ったことを自覚した。 掌にじんわりとした汗をかく。 お茶は熱いわけではない。 気候を考えてお茶は冷たいものに変えている。 それに今日はそれほど暑くない。 それでも暑さを感じる原因を、彼女は分かっている。 「…あ、そろそろ仕事を…。」 「やる気ねぇだろ。」 即答に近く、的確な答えを言われる。 は困ったように眉を寄せた。 その間にも日番谷はその表情を変えず、彼女を見ている。 「ま、今は仕事つっても逃がしはしねぇけどな。」 不意に湯のみを持っていない方の手を掴まれた。 それに驚いては湯のみを落としてしまう。 割れはしなかったが、少し残っていたお茶が零れてしまった。 慌てたはそれを拭こうと思い立ち上がろうとするが。 手が掴まれている所為で立ち上がれない。 視線を日番谷に向けると、彼はやはり笑っていた。 「手、放してくれません?」 「放せるもんなら放してみろよ。」 そう言われても…。 男である日番谷の手など易々放せるはずがない。 は一応力任せにしてみたものの、無理だと悟った。 頭を働かせなければどうにもならない。 あーあっちに空飛ぶ豚が、と言ってみる。 けれども、そんな低レベルなものでは話にならない。 雛森副隊長が、と言ってみる。 けれども、へぇ、と言うだけで平然とされる。 距離は近いは手を掴まれるはでは心臓がもたない。 彼女は深呼吸をすると、真剣な表情で彼の方を向いた。 「私、一年前から日番谷隊長のこと好きなんですよ。」 紡いだその言葉は素直な気持ち。 顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。 けれど出来るだけの平然さを装って彼女は言った。 少しでも驚いて彼の力が緩んでくれれば手から逃れられる。 逃れたら、冗談ですよ、などの言葉でまた逃れればいい。 (本当のことだけれども) そう思っていた。 「俺なんて三年も前からのこと好きだけど。」 計画は上手くはいかなかった。 手の力なんか弱まるどころか強まった。 それどころか距離さえも近付いてしまっている。 は目を丸くして日番谷を見た。 冗談ですよね、と言いたかったが、言いかけて終わる。 心臓がバクバクと早鐘を打っている。 彼は、してやったり、という表情を浮かべている。 無防備な状態の彼女の腕をグィッと引くと小さな体を包んだ。 あ、え、う、い、お…っ。 声にならない声を出すを彼は可笑しそうに笑う。 力を入れるとしっぽを掴まれた猫のような声をあげた。 「た、隊長っ。」 「何だよ。」 「床、床、染みになっちゃいますよっ。」 「別にいいだろ。」 「た、隊長っ!」 「何だよ。」 「あ、きゅ、急用、私がありました!」 慌てたように言うの嘘なんてバレバレだ。 それよりも言葉が言葉になっていない。 それは自覚している。 だが、今の状況をどうにかせねば、と思っていた。 「と、ととということで私は外に…!」 「駄目だ。」 日番谷は故意にに顔を見せる。 そして今日で一番意地悪そうな笑みを浮かべた。 それさえも彼女には眩しく思えてしまう。 我慢できずには頬を真っ赤に染める。 そんな彼女に彼は満足そうだ。 彼は、手も、体も、放す気なんてない。 |