
尸魂界<ソウルソサエティ> いわゆる"あの世" つまり、そこに存在するは霊魂である。 そこには死神という魂を司る者が存在する。 そして、 此処は、十番隊舎。 「あら、隊長、任務ですか?」 「あぁ、現世へな。」 隊長と呼ばれたのは、呼んだ女性より幼げな少年。 彼はいかにも面倒だ、というような顔をした。 それでも任務は任務。 彼は十番隊の隊長であるが、その上の人物もいる。 総隊長からの命は絶対なのである。 「珍しいですね、余程の事ですか?」 「いや、大した事件じゃなさそうなんだけどな。」 そう言いながら彼は頭をかいた。 それでも、行くしかない。 現世への扉はゆっくりと開かれた。 ----- 「何で俺が現世見回りなんだ、一種の嫌がらせか。」 彼はブツブツ言いながらも現世を見ている。 霊体の姿ゆえに彼の姿は誰にも見えていない。 そうそうに死神の姿を見える人物などいないのだ。 彼はそれを知っているので死覇装<しはくしょう>のまま平然と人が行き交う道を歩いている。 「現世にて不可解な霊圧を一瞬だけ感じ取った、 そこでだ、 お主に現世へ赴き様子を伺ってほしいのじゃ。」 何で俺が。 と、思ったが総隊長である山本元柳斎の命。 正当な理由なしに断れるはずもない。 思い出して彼は眉間に一層深い皺<しわ>を寄せた。 そんなときだった。 妙な違和感と同時に、圧迫感を感じた。 「…なっ!?」 この息苦しさは何だ。 彼は思わず拳を握った。 若くしても彼は護廷十三隊の隊長である。 その辺の死神なぞ束になってかかっても敵わない。 その彼が現世に存在する者の霊圧に息苦しさを感じる。 これは、どういう事だ。 「そう、遠くはないっ!」 彼は物凄い勢いで霊圧を発する場所へと向かう。 屋根と屋根を飛び越え、小さな森を抜ける。 だんだんと近くになる。 それにつれ、体が少しずつ重たく感じる。 まるで軋<きし>むかのように。 「な、にっ!」 そこには巨大な化け物がいた。 それを虚<ほろう>という。 それは現世にも現れる。 その為、死神が現世へ赴くことも多い。 舌打ちをする彼の視界に入ってきたもの。 「なっ、子ども!?」 巨大な虚と対峙しているのは、小さな少女。 背中には赤いランドセルを背負っている。 少女は虚を見、虚は女の子を見ている。 それは、間違いない。 つまり、少女には虚を見るだけの霊力があるという事。 「もしかして…この霊圧、あのガキのか!?」 ガキといっても、見た目は彼とあまり変わらない。 最も、死神である彼は年齢と見た目が全然違う。 彼女と比べ物にならない程生きている。 「だが…コントロールが出来てねぇ!」 それは当たり前といえば当たり前だ。 一般の死神でもこんな霊圧コントロール不可能だ。 ましてや、彼女は人間の子ども。 よく霊圧に潰されないと、彼は思った。 「大虚<メノス グランデ>!コイツの霊力を喰らいに!?」 「…君は、だぁれ?」 ゆっくりと少女は少年の方を向いた。 真正面から彼女の顔を見たとき。 何か、を感じた。 シンパシーに近かったのかもしれない。 少女も、瞳を密かに揺らした。 が、少年はハッとした。 「っ、馬鹿!そんな事言ってるばぁ…!」 〔オオォォォォォォオォォオオオォォ〕 「泣いてる。」 「おい。」 「あの子、辛い、苦しい。」 「おい!」 少年は少女の腕を引いた。 「あれは虚だ、人間の手に負えない!」 「でも、あの子はわたしに会いにきました。」 「それはお前の霊力を…ぅあぁぁ!」 少女の事を気にしていた少年は虚の腕に弾かれる。 木に衝突したことで背を少し打ったようだが、彼はすぐさま立ち上がった。 それを見た少女は虚へと近づいた。 慌てて少年は彼女に止まるよう叫んだ。 しかし、立ち止まらない。 虚は少女を大きな手で掴んだ。 しかし、少女は悲鳴すらあげない。 「わたしを食べるの?わたしは…毒ですよ。」 少女は目を瞑り、すぅっと息を吸い込んだ。 そして、次の瞬間。 歌声が聞こえてきた。 歌というよりも音の繋がりに近い。 歌詞というものがない、不思議な歌。 虚は悲鳴をあげた。 「霜天<そうてん>に坐<ざ>せ、氷輪丸!」 虚が怯んでいる隙に、少年は刀を振り下ろした。 水で出来た竜が現れ虚は音をたてて凍っていく。 少女が捕われている手が凍る前に彼女を救出し腕に抱くと、彼は地面へと足をつけた。 虚は、粉々に砕け、姿は完全になくなった。 「ありがとぉございます。」 「いや、お前のお陰で楽に倒せた。」 礼儀正しくお辞儀をする少女。 少年は刀をしまった。 「霊圧…おさまってる。」 「れいあつ?」 「さっきまで…って、人間にゃ説明難しいよな。」 「君は人間じゃあないんですね。」 「あぁ、死神…ってやつ。」 いつの間にか、月が空に昇っていた。 月の光が少女の姿をハッキリと見せる。 今日は満月である。 少女はにっこりと笑った。 「はじめまして死神さん、です。」 「俺は…冬獅郎、日番谷冬獅郎だ。」 名前を聞き、はまた笑った。 そして、もう一度お辞儀をした。 「それでは、さよぉなら死神さん。」 「え。」 「はお家に帰ります。」 ひき止めようとする日番谷を他所に、彼女は何も気にしていないように背を向けて歩き始めた。 彼にだって、何故ひき止めたいのか分からない。 伸ばした手は彼女に触れる事は出来ず、気づけば。 の姿はもう見えなかった。 何とも珍しい出会い。 そして。 何とも淡白なお別れ。 「…何なんだ。」 伸ばした手は引っ込みがつかず。 ただ、少し冷たくなった風が吹いた。 空が完全な暗闇色になる頃。 ようやく手を戻した日番谷は、左手の親指の爪を噛んだ。 それに気づいて苦笑する。 「癖…治ったと思ったんだけどな。」 |