- vol.10 歪曲な想い抱き病む -

















彼女にすれば尸魂界は不思議なところだった。
は十番隊舎の窓から外を眺めていた。
変わらない空。
変わらない風。
変わらない時間の流れ。
1人でいれば、ときに此処が死後の世界である事さえも、忘れてしまいそうになってしまう。
それでも微かではある光を失わないのは。



、飯食うか。」

ー、食べに行きましょ!」



彼らがいたからだった。
彼女は2人の姿を見ると、安心したかのように笑った。
その笑みに2人は一瞬時間を止めると、松本の方は勢い良くに抱きつき、日番谷は頬を人差し指でかいた。
松本は、あの夜の事は嘘だったかのように笑っていた。
彼女のあのときの哀しげな表情を。
2人は知らない。



「私、お金持ってません。」

「いーのいーの!私達は隊長の奢りよぅ!」

「何で俺がてめーの分まで奢らねーといけねぇんだよ。」

「やだなぁ、優しい隊長なら…「奢らねぇ。」



は2人のやり取りが好きだった。
まるで現世にいたときの友人達のやり取りのようで。



「いいよ、悪いし。」

「お前には霊力がある、霊力ある奴は腹が減るだろ。」

「いや、別にお腹減ってな…きゅるるぅ



なんてこったぃ。
彼女は顔をしかめた。
黒崎は生死が問えない状態で。
ルキアは罪人として連れて行かれ離れ離れになり。
自分は人間でなく、元々死神と告げられて。
お腹が減るなんて。
そう思うものの、2人の顔を見ると、暗いモヤモヤした気持ちは不思議と晴れた。
そして、ただ、恥ずかしいという感情が生まれる。



「「…。」」



有無を言わさず食堂へと連行される
彼女は恥ずかしさのあまり、顔を赤らめ、そのまま抵抗をせずに連れて行かれた。
道行く死神達が彼女を見た。
彼女は赤い顔を戻し、少し顔を俯けた。
彼女が現世から連れてこられた事。
彼女が山本総隊長の孫である事。
既に瀞霊廷中に広まっているのだろう。
隊長、副隊長が歩いている事もあるだろうが、彼らはに対しても頭を深く下げた。
自分に対しても含まれているのが視線から分かった。



「(私の祖父だと言った人…何だか偉い位の人っぽかったもんね、何だか、ずっと前を思い出すなぁ)」



現世に住む彼女の祖父。
彼は息子夫婦を先に失ったものの。
大きな会社を立ち上げた社長であり、一歩下がった立場である今でも社員達から尊敬を抱かれている。
つまり、孫である彼女は社員達から見ても特別な存在。
幼いといえど敬語、会釈は当たり前。
じゃ、堂々としておればよい。」
優しい声が聞こえた、気がした。
それと同時にじわり、と何かが浮かんだ。



「な、ま、またかよっお前!」

「隊長!女の子を泣かせてはいけませんよ。」

俺じゃねぇ!どう見たらそうなるんだよ!」



そう言いつつも、日番谷はアタフタしながらも彼女を宥<なだ>めようとしている。
そんな彼を見て、松本は静かに笑った。





何だかんだ言いながらも、やはり日番谷に昼食を奢ってもらってしまった
日番谷も松本(何故か)も気にする事はないと言ったが。
やはり気にしないわけにもいかず。
彼女は自分が子どものように泣いてしまった事にも反省しながら、何か出来ないかと考えていた。
彼らは書類に負われているらしく皆必死な顔つきだ。
サボり上手の松本(と、日番谷から聞いた)も。



「隊長っ、期日が今日の書類が届きました。」

「なっ、またか!」

「誰かこの書類五番隊に持ってってー。」

「松本、周りを見ろよ…手一杯だろ。」



何だろう、この忙しさ。
夏休みの宿題だってこんなに溜めれやしない。
は目をパチパチさせながら状況を見ていた。
が、何かを思いついたように手を打った。



「私、行きます!」



満面の笑みで左手をあげただが、勿論、日番谷がいい顔をするわけがない。
彼女はつい先日尸魂界へ来たばかり。
実は元々死神だとか、随分前に亡くなったとか。
彼には何の話だか分からないけれど。
仮にも世話を頼まれているし、尸魂界の右も左も分からない彼女を1人で歩かせるわけにもいかない。
が、泣虫女、と思っていた彼女は、頑固女でもあった。




















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「えっと…五番隊、五番隊っと。」



地図と書類を持ち、彼女は今まさに冒険へと旅立った。
わけではあるが。
冒険には何かと危険がつきもの。
迷子…とか。
同じような隊舎と同じような道。
は今やっと自分の無謀さを痛感した。
幸いなのは、今日中に渡せばいい書類だという事だ。



「何ウロウロしてんだ?」



さして聞き覚えがあるわけではない。
けれども、何処かで聞いた声。
彼女はゆっくりと振り向いた。
自分に話しかけてきた人物を見て、彼女は手にあった書類を見事に落としてしまう。
それを気にせず、彼女は身構えた。
目の前にいる人物…それは。



「何だ、総隊長の孫娘じゃねぇか。」

「一護ちゃんに酷い事した死神…!」



赤い髪の男。
阿散井恋次。
黒崎を地面に伏した死神の内の1人。
の脳裏に鮮血を流す彼の姿がフラッシュバックした。
彼が血を流す映像<記憶>はあまりにも生々しく、彼女は咄嗟<とっさ>に口元を押さえた。
吐き気がする。
それでも必死に彼を睨んだ。



「おい、大丈夫かよ!」

「さ…触らないでっ。」



ルキアは捕らえられた。
日番谷達がいるからこそ救われたものの、彼女が捕われていると思う事には変わりはない。
たとえ、尸魂界の人間だと言われても。
吐き気を意地で堪え、彼女は阿散井の体を押した。
不意に押された彼は2,3歩下がった。



「おい!」

「触らないでっ、一護ちゃんを、ルキアちゃんを…っ。」

「…ッ。」

「ルキアちゃんを…っ、ぅぐ。」



突如口を塞がれる。
そのままは阿散井に引きずられた。
空き部屋であろう部屋に引きずり込まれる。
殺されるのか。
黒崎みたいに傷を負わされるのか。
そう思ったが、恐怖はなかった。
生まれるのは…つい先日に初めて感じた憎悪。
無意識の内には霊圧を上げていた。
が。



「俺だってルキアを死なせたくねぇんだよ!」



目の前の、必死な、今にも泣きそうな、怒っているのか、よく分からない表情を浮かべる阿散井に、の霊圧はまたも無意識に下がっていった。
一緒だ、一緒なんだ
そう思うと同時に、彼女の手が伸びた。
しゃがみ込んだ阿散井の頭にそっと触れる。



「ごめんなさい。」



彼は護廷十三番隊の隊員であるが故に守らなければならぬルールがあって、助けたい想いと遣る瀬無さに己を責めるしか出来ないのが現状。
それを彼の一言で分かったは、申し訳なさそうに阿散井に対して深く頭を下げた。
それを見た彼は自分の言動に苦笑し彼女の頭に触れる。



「何やってんだお前ら。」



が。
突然現れた日番谷により、その手は一瞬で離れたが。
廊下に散らばっていた書類を拾い集めたのだろう。
彼の手には書類があった。
は自分が届けると言った書類をばら撒いてしまった事を思い出し、慌てて日番谷に謝る。



「急にの霊圧が上がったから何かと思ったぜ。」

「霊圧…上がってました?」

「お前、コントロール下手だな、相変わらず。
(限定霊印を打たれてるのに何だ異様な霊圧の高上は)」

「う。」



少々落ち込んだらしいの頭をポンと軽く叩いた。
そして、阿散井の方を向く。
彼の声も日番谷には聞こえていた。
幸いなのは、彼以外には聞こえなかった事だろう。
尸魂界の決まりに逆らうものには罰を。
それが隊長であろうとも副隊長であろうとも。



「阿散井…馬鹿な真似はすんなよ。」



彼の耳に。
自分よりも幼い隊長の声が残った。



























無力さ、

遣る瀬無さ、

自分に力を…。






[ 己に対してついていた嘘 ]



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阿散井を改めて登場させました。
サブタイトルは阿散井使用。
無駄に長い尸魂界編、奪回編じゃ御座いません。
話は全然進んでいません。
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