- vol.12 歯痒さともどかしさと -

















!」



彼女の名前を誰かが呼んだ。
その声にはゆっくりと振り向いた。
目を見開いた。
そして次の瞬間、雫が落ちる。



「一護…ちゃん!」



目の前にいるのは紛れもなく彼。
身にまとっている死覇装が風に揺れる。
手には大きな斬魄刀を持っている。
立っている。
生きている。
彼女は無我夢中で駆け寄った。
彼女より随分と身長の高い彼は彼女の頭に優しく触れ、グシャグシャと髪の毛を乱した。



「迎えに来た…一緒に現世に帰ろうぜ。」

「うん!」



が。
突然空が暗くなる。
黒崎の手を握っていたはずの自分の手。
何か、違う。
彼女は目の前の人物を見た。



「…冬獅郎ちゃん?」



目の前には銀髪の少年がいて。
彼は酷く哀しげな表情で彼女を見ている。
彼の隣りには松本がいて、彼女もまた同じ。
思わずが何かを言おうとしたとき。
またも違和感を感じた。
目の前にいる人物は、またも変わっていた。



「そらあかんなぁ、
 ちゃんは尸魂界<こっち>の人間やろ。」




















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…!」

「…ん。」



重たい瞼<まぶた>をゆっくりと開けると、目の前には未だ見慣れない天井と、松本の顔が映った。
彼女は酷く心配そうにを見ている。
まだボンヤリとする意識のまま、体を起こした。
そうだ、さっきのは夢だったのだ。
彼女はそう思い、小さく笑った。



「大丈夫、うなされてたのよ?」

「ん、大丈夫です。」



は立ち上がると、布団をきちんとたたんだ。
此処は日番谷の家である。
尸魂界に来てから彼女は居候をさせてもらっている。
身内だという山本の家に行くつもりはないようだ。
もしも、行ってしまったら。
彼女がこれからも此処で生きると言うようで。



「冬獅郎ちゃんは…。」

「隊長なら…「おい、飯だ。」



額に青筋を浮かべた日番谷が現れる。
どうやら朝食は彼が作ったようだ。
よりも先に声を上げたのは松本だった。
実は…。



「俺はお前まで居候させるつもりはねぇんだが。」

「嫌だな隊長、女の子1人じゃ危ないじゃないですか。」

「何が危ないってんだよ。」

「隊長ったら、野 暮 で す よ ?」



松本も一緒に居候していたりする。
何というか、彼女はにべったりだ。
も松本の存在に安心しているようだし。
家主も強くは言えなかったらしい。
しかし、自分が松本の朝食まで作るのは不本意らしい。



「若い男女ひとつ屋根の下なんて!」

「は?」

「ねーー男は狼なのよ、気をつけなさい。」

「なっ、誰が狼だ誰が!」

「隊長ですよ、小さくても男は男。」

「だっ、誰が小さいだと!」

「…つい本音が、まぁいいじゃないですか、ご飯っと。」

「お前に食わせる飯はねぇ!」



2人のやり取りは相変わらずで、彼女は夢を忘れた。
いや、最後の部分だけを忘れたというか…。
嫌な事を忘れてしまう事。
嫌な事を覚えてしまう事。
それは人間にとってよくある事だが。
彼女は前者だった。
黒崎の顔が、夢であれ見えた。
"一緒に現世に帰ろうぜ"
その言葉が、やけに鮮明だった。



「うん。」

「ん、どうした?」

「いや、独り言です。」



黒崎は生きている。
彼はきっと来てくれる。
ルキアを助けに。
自分を連れ戻しに。
彼女はふわりと微笑んだ。





"迎えに来た…一緒に現世に帰ろうぜ"





「乱菊ちゃん、この書類は?」

「あー、えっと、十三番隊にお願い!」

「分かりました、行ってきます!」



彼女の書類運び屋は板についてきた。
ようにも見えた。
が、地図を見ないとよく分からないようだ。
彼女は広い廊下の真ん中で立ち止まった。
さっきまで見ていた地図が、ない。
何処かに落としてしまったのだろう。



「…困った。」

「どうかしましたか?」



後ろから声が聞こえた。
どうやら、女の声のようだ。
それだけで警戒心がなくなった。
振り向いて見ると、一度見た事ある人物だった。
五番隊副隊長、雛森桃。



「あれ、ちゃん。」

「えっと…雛、雛、雛鳥…「雛森だよ。」



雛森に笑われて、彼女は恥ずかしそうに笑った。
初めての書類運びで向かった先が五番隊。
途中阿散井と出会い一悶着あったものの、日番谷と一緒に五番隊へと無事書類は届けた。
そのとき、受け取ってくれたのが雛森だった。
雛森はどうやら日番谷の幼馴染らしく。
はそれだけで雛森を警戒する事はなかった。



「すみません雛森さん、こんにちは。」

「そんな畏まらなくても…呼び捨てでも何でもいいよ?」

「えっと…じゃあ、雛ちゃん…で?」

「…うん、有難う!」



雛森は嬉しそうに笑った。
何でお礼を言われたのか分からない。
それ以前に何故自分がそう呼んだのかも分からない。
不思議と自然と出てきた言葉…。
そう思いつつもは微笑み返した。
雛森はどうやら今は休憩中らしく、暇していたとの事。
迷っていたと分かると一緒に十三番隊に行くと言った。



「…で、冬獅郎ちゃんが…。」

ちゃんは"ちゃん"付け許されてるんだ。」

「え。」

「私がね、シロちゃんって言うと怒るんだよ。」

「…呼ぶ前に私がちょっと泣いてたから…。」



きっと怒れなかったんだと思う。
はその日の事を思い出して、顔を赤くした。
雛森はそんなを穏やかに微笑んだ。
松本といい、雛森といい。
どうして彼女達は自分をこんな穏やかな目で見るのか。
には少し不思議だった。



「雛ちゃん?」

「あ、ごめんね!そういえば、丁寧語で喋るんだね。」

「癖かも…面倒見てくれた人が丁寧語だったんです。」

「へぇー。」

「でも、ごちゃ混ぜで…逆に悪いような気が。」

「そんな事ないよ。」



まただ。
雛森の微笑みに何処かホッとする。
その後に胸が締め付けられる。
松本も同じ。
これが何を意味しているのか分からなくて。
歯痒いと感じる。
それでも、雛森の横を歩くのは心地良かった。



「有難う御座いました、雛ちゃん。」

「いえいえ、どういたしまして。」

「それじゃ。」

「うん、今度一緒にご飯食べに行こうね!」

「うん!」



無事に十三番隊に書類を届ける事が出来た。
は嬉々として帰路辿っていた。
ふと、自分が小さなお菓子を持っている事に気がついた。



「(そういえば、十番隊の人に貰ったんだった)」



数個貰った小さな甘そうなお菓子。
無事に十三番隊にたどり着けたのは雛森のお陰。
彼女はもう一度来た道を戻った。
お礼にお菓子を、と思ったからである。
しかし。



「五番隊副隊長さんの事も忘れてはるんやねぇ。」



密かな霊圧を感じた。
それも、あまり好ましいとは思えない。



「市丸…さん。」



振り向くと、そこには市丸が立っていた。
彼は変わらず笑みを浮かべている。
日番谷の言うように、何故か近づきたくはない。
が、彼の紡いだ言葉は気になる。



「僕の事も、あぁ哀しいなぁ。」

「…。」

「なぁに、少しずつ思い出したらえぇやないか。」

「…私は…。」



知りたい。
知りたくない。
わけが分からなくなり。
自分の存在すら疑ってしまう。



「何なら、僕が教えましょか?」



"市丸には近づくな…"
日番谷の言葉が脳裏に浮かんだ。
はペコリと頭を下げると前に歩いた。
すると、素早い足取りで一瞬にして彼の前から消えた。
市丸はそれを見て、更に口の端を上げた。



「瞬歩…流石、と言うべきやろなぁ、ちゃん。」



























知りたい、

知りたくない、

歯痒くもどかしい気持ち。






[ 後悔するのはどっち ]



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今更ですが。
市丸隊長の言葉が分かりません。
関西弁、京都弁?
偽者ばっかりですみません。

隊長は一軒家ではなさそうな気が…。
まぁ、そこは見逃してくださいませ!
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