
十番隊舎。 未だ書類に埋もれるように仕事する隊員達。 それは隊長、副隊長も例外ではない。 が、隊長である日番谷は仕事出来ずにいた。 何故かというと…。 「、これじゃ書けねぇだろ。」 「うぅ。」 「…はぁ。」 物凄い勢いで隊舎に戻ってきた。 それかと思うと、彼女は奥に進み、日番谷に一直線で彼の右腕をぎゅぅっと握り締めた。 最初は目を見開いていた彼だが。 このままでは仕事が進まない。 と、思い、彼女の腕を離そうとした。 しかし、彼女の表情が何処か辛そうに見えた為、無理矢理離す事はやめておいた。 こういうときに限って松本は出ている。 彼は小さな溜息をついた。 「、俺は休憩する、お茶を淹れてきてくれないか。」 「…はい。」 「自分のも持って来いよ。」 彼らは窓から出て屋根に上る。 その方が彼女も落ち着くだろうと彼は思ったからだ。 十三番隊の隊長である浮竹から貰った茶菓子も忘れず。 青い空が広がっていた。 隣りには、何も聞かないでくれる日番谷がいる。 少しずつの心は落ち着いていく。 「聞かないんですね。」 「ん。」 「冬獅郎ちゃん、優しい。」 「んな事ねぇよ。」 日番谷は、どうでも良さそうな顔をあからさまにした。 それを見ては小さく笑った。 けれども、彼女はすぐに顔を俯けた。 心は落ち着いた。 けれども、忘れる事は出来ない。 自分が人を哀しませてる、という事を。 「私は、何で此処にいるんだろう。」 「…。」 「何で私が死神だった事を強く否定出来ないんだろ。」 「…。」 「何で、人を哀しませちゃうのかな。」 泣きそうで。 でも、泣かまいと。 そんな彼女が見ていられない。 それでも、日番谷には良い言葉が思い浮かばない。 彼の手は反射的に動いた。 「ムガッ。」 口の中に無理矢理茶菓子が詰め込まれる。 突然口の中を占領され、は苦しそうに声を上げた。 しかし、日番谷は茶菓子を詰め込んでいるその手を退けてくれそうにはない。 「暗ぇんだよ、んな事考えたって仕方ねぇだろ!」 「ムゥ。」 「特に最後の!」 「ムググッ。」 「お前はお前だろ、死神でも人間でも…堂々としてろ! お前が苦しんだって、他の奴が嬉しいわけないだろ!」 そこで、日番谷の手は茶菓子から離れた。 口に収まりきらなかった菓子は、屋根に落ち、そこから重力に従うように地面へと転がっていった。 その転がっていく様子が、やけにゆっくりに見えた。 雲の間から太陽が顔を覗かせた。 "はじゃ、堂々としておればよい" 同じ言葉だった。 「な、また泣く気かよ!」 「ううん、泣かない。」 笑顔を浮かべるに。 日番谷はホッとした。 「美味しいですね、このお茶菓子。」 「まぁまぁだ…「隊長酷いですよー!」 和やかな雰囲気だったはずだったのだが…。 日番谷は半ば押しつぶされている。 突如現れた松本の、その…胸によって。 小柄な彼にはかなり苦しそうだ。 はどうする事も出来ず、ただ、苦笑いを浮かべる。 が、このままだと日番谷は圧迫死しそうだ。 胸に押しつぶされ圧迫死なんて…。 「私もとお茶、ってか休憩したいですよー。」 「ら、乱菊ちゃん、やばい、し、死にますよ!」 「え?」 「下、下下下ぁ!」 「あらぁ?」 松本が笑って日番谷の上から退いたときだった。 ガン ガン ガン ガン 緊急警報が鳴り響いた。 瀞霊廷の空気が一気にピリピリとし始める。 押しつぶされていた日番谷も体制を立て直し、そして、屋根から瀞霊廷を見渡す。 これは、何の警報だ。 「…。」 「?」 が一定方向を見ている。 それが日番谷は気になっているが。 そこに地獄蝶が現れた。 松本はそれを自分の指にとめた。 伝令が伝わる。 「各隊配置に着け…との事です。」 「よし、は隊舎に…おい、ッ!」 日番谷の言葉は聞こえてるのか、聞こえていないのか。 彼女は彼の腕をスルリと抜けるように駆けた。 その動きは死神の中でも使える者は限られる。 それは、瞬歩。 彼女はただ前に進む。 「瞬歩!?」 「松本、配置につけ。俺はを追う。」 「はっ!」 瞬歩なら彼も使える。 しかし、距離は縮まりそうにない。 「(この霊圧は、この霊圧は…)」 "迎えに来た…一緒に現世に帰ろうぜ" 待ってる。 待ってた。 けれども、待ってるだけではいられない。 生きている。 生きていた。 だからこそ、待っていられない。 「一護…ちゃんっ!」 ----- 「悪りぃ、潰すぜ、その斧。」 瀞霊門の門番、じ丹坊と戦っているのは黒崎だ。 彼は朽木に負けた後、浦原に助けられた。 一命を取り留めたのだ。 そして、ルキアとを助ける為、朽木に勝つ為、彼は短い間ではあるが修行を積んだ。 その成果が、今、発揮される。 ド オ ォ ォ ン 巨体が見事に倒れた。 そして、手に持っていた斧は見事に壊れている。 それを知った途端、じ丹坊は泣き崩れた。 その凄まじい泣き声に黒崎を初め、石田達も呆然。 「え…えっと…わ…悪かったな…何も2本とも壊す事なかったよな俺も…なっ?」 「うう…お…お前え…いい奴だなぁ…!」 今度は違う意味で泣き始めた。 何とも賑やかな大男だ。 そう思いながらも彼は呆然として話を聞いていた。 何て話が長いんだろう。 そう思いながら、半分聞き流しながら。 「完敗だっオラは戦士とすでも男とすでも!」 じ丹坊は涙を拭った。 彼が門番になって300年。 彼が負けた事は一度もなかったらしい。 自分を負かした黒崎達を、彼は通すと言った。 「気ィつげろや一護、お前ぇが何の為にごの門をくぐるのが知んねぇが…ごん中は強ぇぇ連中ばっかど!」 「分かってるさ。」 黒崎の返事を聞き、彼は門に手をかけた。 そのあまりにも巨大すぎる門が、最初は少しずつ、そしてその後は一気に開いた。 黒崎達は驚嘆の声を上げる。 しかし、次の瞬間。 「あぁ…こらあかん。」 じ丹坊は呟いた。 三番隊隊長、市丸ギン、と。 彼は相変わらずの笑みを浮かべ、立っている。 しかし、その笑みとは裏腹にその霊圧は凄まじい。 そして。 「門番は門開けるためにいてんのとちゃうやろ。」 門を開いていた彼の片腕が切り落とされた。 その動きはあまりにも速く。 黒崎達には見えない。 じ丹坊は門を苦しくとも支える。 それは彼の意地なのかもしれない。 「負げた門番が門を開げるのは…あだり前の事だべ!」 「何を言うてんねや?分かってへんねんな。」 ザッ 市丸は静かに歩み寄る。 「門番が負けるゆうのは…死ぬゆう意味やぞ。」 斬魄刀はじ丹坊めがけて振り下ろされた。 …はずだった。 しかし、それを黒崎が止めた。 「来いよ、そんなにやりたきゃ俺が相手してやる。」 「はっ。おもろい子やな、僕が怖ないんか?」 「ぜんぜ…「こらーもう止せ一護!」 彼の言葉を猫が割って入った。 まぁ、猫の姿をしているがとても強い。 井上と茶渡を強くした者だ。 「君が黒崎一護か。」 「知ってんのか俺の事?」 「なんや、やっぱり…。」 言葉の途中で市丸は上を見上げた。 黒崎も動きを止めた。 懐かしい霊圧を感じた。 そんなに日にちは経ってないのに、それがやけに遠い昔の事のように感じた。 「よぉ、迎えに来た…一緒に現世に帰ろうぜ。」 建物の屋根の上に立っているは、今にも泣きそうな顔で、それでもそれを堪え、何度も、何度も頷いた。 黒崎がいる、井上が、石田が、茶渡がいる。 ルキアと自分を助けに来てくれた。 夢は、現実になった。 「そらあかんなぁ。」 突然腕を引かれた。 油断をしていたにしても、その動きはあまりにも速い。 は市丸に右腕を捕まれていた。 痛い程強く掴まれているわけではない。 それでも、何故か彼から逃れられない。 「ッ!」 「ちゃんは尸魂界の人間やろ。」 市丸の言葉に、は目を見開いた。 その言葉も。 その言葉も聞いた事がある。 は額から冷や汗を流した。 嫌だ、いやだ、イやだ、イヤだ、イヤダ 彼女は必死に手を振り払おうとした。違う、ちがう、チがう、チガう、チガウ それでも、その手は振り払えない。 「この子を渡すわけにはいかんのや。 射殺せ、神鎗。」 「一護ちゃんッッ!」 伸びた斬魄刀が一護を襲う。 それはまたも一瞬の出来事。 黒崎へ駆け寄ろうとしただが、腕を掴まれている力が急激に強くなり、それが出来なかった。 弾き飛ばされた黒崎がじ丹坊に衝突し、門が、閉じる。 「一護ちゃん、一護ちゃんっ!」 「大人しくしてやちゃん…。」 「…ッ。」 「綺麗な腕に傷つけとない…それに…。」 市丸はゆっくりと振り向く。 そこには人影があった。 「十番隊長さんが睨んではるし。」 「…冬獅郎、ちゃん…。」 いつの間にかは日番谷の腕の中にいた。 それでも市丸は笑みを崩さない。 日番谷は彼女の腕を見た。 市丸に捕まれたところが酷く赤くなっている。 眉間の皺を一層深いものにすると、市丸を睨んだ。 「すんませんなぁ、思った以上に力が強かったんで…せやけど、ちゃん奪還されるよりはえぇでしょう?」 確かにそうだ。 総隊長からを頼むと言われている以上。 奪還などされたら…後がどうなるか。 いや、それよりも。 「(が…いなくなったら、俺は…?)」 |