
「なぁ、本当にこっちであってんのか?」 民家はどんどん少なくなっていく。 確実に田舎要素が上がっている。 どんどんどんどん歩く。 人気がなくなってきた。 「なーってば!」 「煩いな!」 痺れを切らした黒崎に石田が鬱陶<うっとう>しがった。 市丸の攻撃は黒崎の斬魄刀、斬月で受け止めた為、彼は怪我ひとつ負わなかった。 が、門を閉められてしまい、尚且つ警戒されたであろうという事で他門からも入る事は難しくなった。 そんなわけで彼らは門以外の方法で瀞霊廷に入る方法を求め、とある人物を探していた。 (もともと夜一は門から入るつもりはなかったのだが) 目の前にいたのにの手を握る事が出来なかった。 彼は拳を強く握った。 「その空鶴って人門をくぐらずに瀞霊廷に入る唯一の手段を知ってる人なんだよね?もっと街の真ん中でチヤホヤさて暮らしてても良さそうなもんなのにね。」 「うん…それは確かにそうなんだけどね…。」 井上と石田の会話を聞き、猫…夜一が話に入った。 それはない、と否定をした。 「奴の性質でなこういう場所を好むのじゃよ。」 人気のない。 閑散<かんさん>とした。 そんな土地を好むという。 「案ずるな、儂が見れば一目でそれと分かるやつじゃ。」 「一目で…?」 「あぁ…お、見えてきたぞ。」 次の瞬間、彼らの口は大きく開いて静止した。 見えてきたもの。 それはあまり趣味が良いと言えない程のオブジェ。 地面から両手が生え、その手には"志波空鶴"と大きく描かれた旗が握られている。 ちなみに、家はその少し後ろにある。 「(人気のないとこが好きとかいうのも多分嘘だ)」 「(いくら言ってもあんな家建てちゃうもんだから街中に住ませて貰えないだけだ)」 「「(絶対そうだー!)」」 黒崎と石田の心の声は何故か通い合っていた。 いつもは全く通い合わないのに。 「今回の旗持ちオブジェは腕か…中々良い出来じゃの。」 「「(毎回モチーフ違うのアレー!)」」 「ほれ、どうした早く来ぬか。」 「(今から俺達あの恥ずかしい家に入るのかー!あーこの家が人気のない場所に建ってて本当良かったよ!)」 敷地内に踏み込もうとした彼らの前に、巨体の人間が2人、立ち憚<はばか>る様に現れた。 しかし、彼らは夜一の姿(猫)を見るとすんなりと彼らを(恥ずかしい)家に招きいれた。 何はともあれ、家に入る事は出来たのだ。 彼らは階段を下り、ある部屋に通される。 「よぅ、久しぶりじゃねぇか…夜一。」 部屋の奥に座っているのは1人の女。 黒崎達は捜し求めていた人物が女だった事に驚く。 空鶴という名前もあり、男だと思っていたようだ。 「実はの…頼みがあって来たのじゃ。」 「お前が来る時は大概そうじゃねぇか…面倒事か。」 「恐らく。」 本当に少しの沈黙の末。 空鶴は口を開いた。 「いいぜ話せよ、面倒事は大好きだぜ。」 ----- ルキア ショケイ マデ ノコリ 14ニチ 罪状 霊力の無断貸与 及び 喪失 滞外超過 「…。」 は居た堪れない空気の中にいた。 隣りには日番谷がいる。 しかし、この場にはいたくない。 とてつもなく逃げたい気持ちだった。 が、逃げられるわけはない。 彼女の周囲には数人の死神達がいる。 別に囲まれているわけではない。 瀞霊廷、護廷十三隊、隊長による隊首会。 黒崎の霊圧を感じ、単独行動をとった事が山本に分かった為、彼女は意思関係なく日番谷と行く事となった。 「さぁ!今回の行動についての弁明を貰おうか!」 最後にやって来たのは三番隊長の市丸だった。 明らかに彼を問いただす為の隊首会である。 それでもやはり、彼は態度を変える事はなかった。 数人の視線が彼にいっても。 「何ですの?尸魂界を取り仕切る隊長さん方が僕なんかのために揃いも揃ってまぁ…でもないか。」 十三番隊長の姿がない。 どうやら彼は病欠のようだ。 「そらお大事に。」 「フザケてんなよ、てめぇ、一人で勝手に旅禍と遊んできたそうじゃねぇか。」 ドスのかかった声で言ったのは十一番隊長、更木。 彼は護廷十三隊の中でも最も血の気が多い。 主に現地での戦闘を担う十一番隊だ。 隊長の彼は誰よりも戦闘狂と見ても間違いとは言えず。 現に隙あらば彼は強い相手と戦いたいのが本音。 「しかも殺し損ねたってのはどういう訳だ?」 「あら?死んでへんかってんねや?アレ。」 「何!?」 「いやぁ、てっきり死んだ思うててんけどなぁ。」 一見人間離れの容姿をした者が小さく笑った。 涅…十二番隊長だ。 それじゃなくても、市丸の言葉など、その場にいる誰もが信じていないであろう。 彼は三番隊長である。 それだけの器量と力量を持っているからこその位置。 「我々隊長クラスが相手の魄動が消えたかどうか察知できないわけないだろ、それともそれが出来ないほど、君は油断してたとでも言うのかネ?」 「そうかもしれませんなぁ…何せ。」 市丸は日番谷の傍にいるを見た。 その視線に彼女は一瞬体を振るわせた。 そして、日番谷の袖を密かにきゅっと握った。 「の事がてめぇが油断する理由になるのかよ。」 「十番隊長さんが責任負わされんねんやろ?」 「てめぇには関係ねーだろ。」 「そうだぞ市丸。」 「まるで僕がわざと逃がしたみたいな言い方やんか。」 「そう言っているんだヨ。」 「煩せぇぞ涅!今は俺が喋ってんだ!すっこんでろ!」 いつの間にか、日番谷は蚊帳<かや>の外だった。 彼はそれはそれで別段気にはならないだろうが。 むしろ、その方が面倒くさくなくて良いと思っているのかもしれないけれども。 ただ、顔を少し俯けているを見た。 彼女の表情にも頷ける。 ただ、手を差し伸べる事は出来ない。 今回の事に関しては。 「ぺいっ!」 その二文字に凄い威圧感を感じる。 彼らは言い合いをやめ、発声者、山本を見た。 勿論、もだった。 「今回のおぬしの命令なしの単独行動、そして標的を取り逃がすという隊長としてあるまじき失態!それについておぬしからの説明を貰おう…その為の隊首会じゃ。」 は山本と目が合った。 が、彼女がすぐに逸らした為、それは一瞬だった。 山本も視線を自然に戻し、口を開いた。 「何ぞ弁明でもあるかの。」 窓の隙間から月光が差し込む。 夜の静寂。 その場にいる者は市丸の答えを待った。 少しの沈黙の末、彼は口を開く。 「ありません!」 「…何じゃと?」 「僕の凡ミス、言い訳のしようもないですわ。」 彼の口から出たのは信じられない答え。 五番隊長の藍染は、何かを思ったのか一歩前に出た。 「ちょっと待て市丸…ガァンッ 藍染の言葉を遮るように警報が鳴った。 緊急警報。 瀞霊廷内に侵入者有り、とそれは伝える。 もはや、隊首会でも、市丸の処置どころではない。 しかし、それはあまりにもタイミングが良すぎた。 「何だと!?侵入者!?」 「まさか…例の旅禍か!?」 騒がしくなる瀞霊廷内。 その中で、一人心を落ち着かせる人物がいた。 だ。 彼女は、あれで黒崎が死んだとは思っていない。 そう、最初から。 彼の霊圧を感じる。 微かながらでも分かる。 制限された力では非常に感じ取れ難いが。 彼女は左手で口元を押さえた。 「おいっ!待て剣八、まだ…!」 止める言葉も聞き入れず、更木は飛び出していった。 愉快そうに口の端をあげ。 こうなっては、隊首会も解散する他ない。 各隊は即時廷内守護配置につくよう命が下された。 ただ一人。 日番谷を除いては。 「現世での事は全て忘れるのじゃ、。 旅禍は…護廷十三隊が全力を持って排除する。」 山本の言葉が、強くの胸に突き刺さる。 月が厚い雲に隠れるように、彼女の心は真っ黒に染められていくように…。 彼女の視界さえも黒く、黒く奪った。 夜は…まだ、明けない。 忘れられるわけない。 これ以上何を忘れる。 歯痒さも。 もどかしさも。 これ以上いらない。 力が。 欲しい。 日番谷の袖からの手が離れた。 それを見た彼は。 誰にも見えないように、唇を噛んだ。 |