
「随分と都合良く警鐘がなるものだな。」 「…よう分かりませんなぁ、言わはってる意味が。」 「それで通ると思ってるのか…僕を甘く見ない事だ。」 明け方。 日番谷は薄らいでいく月を眺めていた。 書類は全て済ませた。 は眠っている。 仕事は終わった為、彼女は仮眠室に移動させた。 白いシーツに彼女の長い黒紅色の髪が映える。 彼はそっとそれに触れた。 配置命令から数時間が経過している。 「(結局旅禍は発見されたとの情報はない…その割に藍染の言うように、都合良く警鐘がなったな)」 が意識を失う前の出来事。 彼女は彼女で精一杯だったのだろう。 場所的に日番谷の横にいたけれども彼らの会話はまったく聞こえなかったようだ。 彼は彼女の髪を放し、腕を組んだ。 五番隊の藍染と三番隊の市丸。 彼らは別段仲が悪いというわけではない。 元々彼らは同じ隊の隊長、副隊長をしていた時があった。 それから市丸は出世して隊長となったけれども。 「(藍染にしちゃ珍しく感情を露わにしていたな)」 それは、市丸の行動をにらんでいるからなのか、もしくは、市丸の行動が本当に許せなかったのか。 ただハッキリといえる事は。 当人である市丸が何か企んでいる事は間違いない。 戦闘に関してかなり長けている彼が、旅禍1人をみすみす逃がすはずは絶対にあり得ないのだから。 そんなとき。 空から物凄い音が聞こえてきた。 ゴ オ ォ ォ ォ ォ ォ やけに空が眩しくなる。 いくら夜明けの時刻といえど、何か可笑しい。 日番谷は仮眠室の窓から空を見上げる。 「なっ、何だあれは!?」 ----- 空鶴と岩鷲の力を借り、遮魂膜<しゃこんまく>をくぐり抜け再び瀞霊廷に踏み込んだ黒崎達。 が、彼らはその衝撃が渦を巻き破裂した事で四方、バラバラに飛ばされてしまった。 黒崎と岩鷲、井上と石田、茶渡、夜一、というように。 「「ぶっはーっ!」」 岩鷲の石波のお陰で黒崎達は地面との衝突は免れた。 が、大量の砂が口の中に入ってしまったようで、彼らは盛大に咽<むせ>かえしている。 助かったというのに、遂には言い合いにもなった。 そこへ近づいてくる人影。 幸いな事に、奇襲はかけられなかった。 「いよッホォ!ツイてるぅ!」 彼らの前に下りてきたのは、男2人。 スキンヘッドとおかっぱの死神だった。 彼らは配置につくのが面倒なので隅の方でサボっていたようなのだが、そこへ黒崎達が落ちてきたらしい。 何やら目の前でスキンヘッドは踊り始めた。 意味も分からず、黒崎は唖然としている。 そんな彼を岩鷲が呼んだ。 「隙を見てとっとと逃げるぞ!」 「に…逃げるだぁ!?この状況で何言って…。」 「分かんねぇのか!こいつらそこらの雑魚死神じゃねぇぞ!」 結局2人の意見は噛み合わず。 岩鷲は1人その場から脱出した。 彼を弓親と呼ばれたおかっぱの方が追いかけた。 これで黒崎と死神の一騎打ちという事になる。 逃げなかった彼に、どうして逃げなかったと問う。 「あんたの力が下なら、倒して進みゃあそれで済む。」 「成程…どうやら馬鹿じゃないらしい。」 始まりの合図などなく、戦いは始まる。 何度かお互いの斬魄刀が振り下ろされた後。 彼らの額に同じような傷が出来た。 彼らは見合った。 「一応、名前を聞いとこうか。」 「…黒崎一護。」 「一護か…いい名前じゃねぇか。」 「そうか?」 「俺は、十一番隊第三席副官補佐、斑目一角だ!」 斑目は刀の柄の部分にある血止め薬を額に塗った。 そのため彼の額の傷からの血は止まる。 しかし、黒崎の傷は血が止め処なく流れる為、片目がほとんど開けていられない状態だ。 それでも、負けるわけにはいかない。 そんな黒崎に斑目は言った。 「師は誰だ一護。」 「…十日程教わっただけだから師と呼べるかどうかは分かんねぇけど、戦いを教えてくれた人ならいる。」 「誰だ。」 「浦原喜助。」 浦原の名前を聞いて、斑目の表情が変わった。 そして、彼の霊圧が異様に高まる。 手を抜くのは失礼だった、と呟いた。 「延びろ!鬼灯丸!」 斬魄刀の形が変わる。 それは刀ではなく、まさに槍。 しかし、それはただの槍ではなく…。 三節棍に変わったのである。 それは黒崎の腕を深く斬り、そこから血が滴る。 しかし彼はそれを気にせず、斬月の柄に巻いている晒<さらし>で自分の腕をぐるぐると巻いた。 強く圧迫すれば止血も短時間なら可能だ。 「こっからだぜ、今度はあんたが剣握れなくなる番だ。」 「上等な口を聞くじゃねぇか…餓鬼が。」 十数分の戦闘の末。 勝敗はついた。 斑目の胸部から腹部にかけて、それと利き腕。 黒崎により深く斬られてしまう。 彼は遂に地面へと伏した。 「ちっ…ツイてねぇや。」 「…ツイてねぇのはお互い様だ、ちくしょうめ。」 黒崎の身体から止め処なく血が流れる。 勝ちは得たが、痛みわけにも近い状態。 こんなところで立ち止まってるわけにもいかない。 それでも、この出血量では次の敵に会ったときに無事に勝ち進めるかどうか…。 黒崎は苦虫を潰したような表情を浮かべた。 が、斑目の斬魄刀を目にして思い出した。 血止めの薬が、ある。 斑目が目を開けると、青い空が目の前に広がっていた。 痛みはあるが、死んだ感じはしない。 自分は生きている、と驚いた。 それもそのはず、黒崎により血止め薬を施された彼が出血多量が原因で死ぬはずもないのだから。 「助けられて永らえるとはとんだ恥さらしだぜ!」 「そんな事言われんなら助けなきゃ良かったぜ。」 黒崎は不貞腐れたような表情を浮かべたが、すぐに戻し、立ち上がり斑目の方へ歩いた。 「まぁ、こっちは質問がしてぇだけだ。」 「そんなとこだろうと思ったぜ、ツイてねぇや…何が知りたい?誕生日でも教えてやろうか。」 そうは言うものの、自分の誕生日など知りたいわけではない事は彼も百も承知だ。 彼には黒崎が何を聞きたいのか、皆目検討がつかない。 戦う事だけが目的であった彼は詳しく事情を知らない。 黒崎の口から出てきた言葉に、目を見開いた。 「と朽木ルキアの居場所。」 「…朽木は例の極囚か?お前ら何の用だ?」 「助けに来た!」 「あぁ!?助けにってお前ら何人で来た!?」 「5人と1匹だ。」 「何だ1匹って、ってか本気でその人数で助ける気か!?」 「そうだ!」 黒崎の答えを聞いて斑目は思い切り笑った。 笑いすぎて血が吹き出す程に。 が、笑った後、何かを思い出したようだ。 彼は表情を戻すと、静かに口を開いた。 「じゃなくて山本じゃねぇか?」 「は…。」 「朽木と一緒に連れてこられた女、実は死神で護廷十三隊の中の一番隊隊長の孫娘だと聞いたが。」 実際、斑目は自分の目で現世から尸魂界に連れて来られたを見た事はまだない。 "ちゃんは尸魂界の人間やろ" 黒崎は市丸の言葉を思い出した。 ドクン ドクン ドクン 心がざわつく。 「(違う、違う、はこっちの人間だ)」 しかし…。 「でもどういう事だ、40年くれぇ前に死んだはずだ。」 「…。」 「同一人物かは見てねぇから知らないが、総隊長の孫の""は元十番隊の隊長で…ドンッ ぱらぱら、と凹んだ地面から粉が待った。 黒崎の拳から血が滲<にじ>み出る。 「違う…は…ッ!」 "そこの女は尸魂界へ連行ってわけだ" 「は…っ。」"ちゃんは尸魂界の人間やろ" 俺達と同じだ。 そう言いたいのに何故か声が出ない。 現世に一緒に帰るんだ。 そう言いたいのに何故か声が出ない。 黒崎は拳を強く握り締めた。 そんな彼の表情を見た斑目は、溜息をついて口を開く。 「朽木なら各隊詰め所の西の端にある真っ白い塔だ…なら、確か、十番隊長の所だったか。」 「十番隊長の所…?」 「あぁ、もしも連れ戻す気なら気をつけな。 山本総隊長は何があっても帰さねぇつもりだぜ。」 |