- vol.17 夢が赤く浸される -

















「斑目が負けた?」



日番谷は少し驚いたような声をあげた。
各隊の配置が落ち着き、一時的に松本が現状を報告しようと十番隊舎に戻ってきていた。
最も、血気盛んな十一番隊が自分の配置以外も確保している為、落ち着いているとは言い難いが。



「はい。」

「斑目を倒すとは…相当な手練<てだれ>のようだな。」

「私もそう思います。」



松本は横目で未だ眠っているを見た。
何処か魘<うな>されているようにも見える。
彼女は眠り続けていた。
まるで、眠りの世界に捕まっているように。
深く、深く、堕ちているかのように。





「隊長、隊長、待って下さい。」



誰かが瀞霊廷内の廊下を足早に歩いている。
困ったように呼ぶ声が聞こえ、彼女は振り向いた。
ぜぃぜぃ言いながら追いかけてくる死神。
彼女は口の端を上げた。
貴女は…だぁれ。



「相変わらず鈍いな、お前は。」

「た、隊長が早いんですよ。」

「アタシは隊長だからな、トロトロしておられん。」

「それなら溜まった書類も早急に頼みますよ。」

「それは嫌だ。」



その答えに部下らしき死神さんは顔をしかめた。
彼女はそれを見て、楽しそうに笑った。
ここは何処…。
尸魂界…瀞霊廷?
隊長と呼ばれた女の人の羽織には"十"とある。
あれ、可笑しいな。
十番隊の隊長は冬獅郎ちゃんのはずなのに。



「隊長。」



聞き覚えのある声が聞こえた。
隊長と呼ばれた人のところに駆け寄る女の人。
長いあめ色の髪の…あれは、乱菊ちゃん?
どうなってるの。
十番隊の隊長は冬獅郎ちゃんじゃなくて。
それでも乱菊ちゃんは隊長と呼んでいて。
分からないけれど。
2人はとても楽しそうに話していた。



「書類…溜まってるんスけど。」



次もまた、聞き慣れた声だった。
銀髪で、背が小さくて。
今まで見た彼より、もう少し小さくて。
深い碧色の瞳をした、冬獅郎ちゃん。



「とーしろー!」 「日番谷副隊長!」



どうやら、冬獅郎ちゃんは副隊長らしい。
彼は思い切り眉を寄せた。



「俺は"とおしろお"じゃなくて"とうしろう"」

「まぁまぁ気にするな、隊長命令だ。」

「そういうのを職権乱用て言うんスよ。」



思い切り嫌そうな顔をした彼。
隊長さんは気にしていないようで、頭を撫でた。
彼女と冬獅郎ちゃんの身長差は十分にある。
お姉さんと弟さんのようにも見える。
それを嫌がる彼も、別段本気じゃないように見えた。
乱菊ちゃんも笑っている。
何だか、幸せそうだ。
が、そのとき一瞬暗転した。
場所が…変わった?



「こんな力いらない。」

「隊長っ!」

「どうして、どうしてアタシは…ッ。」

「隊長…、貴女の所為じゃ…!」



自分の両手を見た。
赤。
赤。
赤。
その色は。
あまりにも鮮やか過ぎた。





!」



強く名前を呼ばれ、彼女は体をビクリと強く震わせて見開くように、目を開けた。
見えるのはもう見慣れ始めた天井だった。



、大丈夫か?」

「うん、だいじょう…!」



少し落ち着いてきたは、話しかけてきた声の主が日番谷だという事も分かっている。
彼女は体中酷い汗をかいていたが、何もなかったかのように、いつもの笑みを浮かべて答えようとした。
が、それは出来なかった。
黒い死覇装に赤いものがついているように見えた。
実際にはついていない。









「ひっ…い、嫌ぁぁぁッ!

「おいっ!」



自分の手が赤いのではないか。
自分の体が赤いのではないか。
返り血を浴び、自分自身が赤いのではないか。
彼女は一心不乱に自分の体を払うように手を動かした。
もはや視界が全て赤く染まったような。



っ!」



日番谷は必死に彼女の名を呼んだ。
しかし、彼女にその声は届いていないのだろう。
何が起こったのか分からない、彼は眉間に皺を寄せた。
それと同時にどうしたら良いのかと冷や汗を流した。
そんな彼を制して、に近づいたのは松本だった。



、しっかりしなさい!
 貴女の体に血なんてついていない!
 貴女は赤く汚れてなんていないのよ!」



肩を強く掴まれ。
強い口調で叫ぶように言われ。
はようやく前を見た。
目の前には、真っ直ぐに自分を見る松本がいた。
自分の体を払う手を止め、その手で松本に触れた。



「ほん…と?」

「えぇ、本当よ。」



松本の言葉に、は安心したかのように涙を零した。
ぎゅっと強く、それでいて優しく抱きしめる彼女の温もりが、何処か懐かしく感じ、は静かに目を瞑った。
松本はの異変に勘付いた。
彼女は一度見ている。
が、こんな風に取り乱した場面を。
そう、たった一度の姿を。



「ごめん、ごめんなさい…乱菊ちゃん。」

「いいのよ…。」



この言葉の意味も。
松本には伝わっている。
彼女は静かに頷いた。



「無理に思い出さなくても、いいの。」



を日番谷は見た。
しかし、彼は眉間に一層深い皺を寄せた。
"彼女は亡くなったはずだ"
誰が言ったのかは覚えていない。
けれども、誰かがハッキリとこう言った。
それを思い出して彼は孤独を感じた。
そして、少しずつ疑問に思っていた事が露わになる。
もどかしい気持ち。



「(俺は…何かを忘れている…)」



























それぞれの想い、

決して交わらぬ。






[ 赤の世界へと誘われるのか ]



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わけのわからないお話。
もどかしいくらいに進まず。
いや、進んでるのかもわからないっと。
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