
「お前を奪い返されるわけには行かねぇんだよ。」 その言葉に深い意味がある事。 それは、にも、発した本人も知らない。 ただ、日番谷に募る想い。 黒く禍々しく突き刺さるような想い。 それを人は…嫉妬という。 それ故に彼は今、切羽詰まっている。 今黒崎を逃してはは奪い返されてしまう。 そんな気がしてならなかった。 「もう一度言う…退け。」 「嫌です。」 日番谷は霊圧を上げた。 逃がさない。 逃がしはしない。 脳裏に、が黒崎と去っていく映像が流れた。 それを振り払うように彼は頭を振った。 「俺はお前を攻撃したくない。」 「私もです。」 「それならっ!」 「でも、私は一護ちゃんを守ります。」 は箒星を地に突き刺した。 彼らの周囲半径数m程を蒼白い光が包んだ。 日番谷はそれに触れる。 コンコン、と音がする。 それは半透明だが、何か壁のような強度があるようだ。 「閉じ込めたのか。」 「私は攻撃しません、時間稼ぎ、させて下さい。」 ----- 「え…ちゃんが?」 話を聞いた雛森は耳を疑った。 しかし、彼女に話した人物。 松本が冗談を言っているようには見えなかった。 雛森は眉を寄せた。 その話が信じられなかった。 「日番谷くんがちゃんを牢に入れるなんて。」 「…あの方にはあの方の想いがあるのよ。」 あの後。 黒崎の霊圧が遠ざかったのを感じ取ったは、箒星をいともあっさりと鞘に戻したのだった。 彼女の目的は黒崎が遠くに行くまでの時間稼ぎ。 目的を果たした後。 斬魄刀を日番谷に向ける必要などなかった。 「でも、日番谷くんはちゃんの事…。」 「雛森…きっと隊長は心の底で憶えているの。」 「心の、底で?」 「そう…。」 心配そうな表情を浮かべる2人。 そんな彼女らに歩み寄ってきた人物。 各隊の隊舎には罪人を収容する牢がある。 それは十番隊とて例外ではない。 十番隊、隊舎牢。 は今、そこにいた。 暗く、閉鎖的な場所、牢であるから仕方のない話だ。 彼女は端の方で膝を抱えて座っていた。 日の光も差し込まない牢。 「(十番隊長である冬獅郎ちゃんに斬魄刀を向けたんだもん、こうなっても仕方ないよね)」 そう思う反面、彼女は膝を強く抱えた。 そうしないと膝がガクガクと震えてしまう。 そんなとき、斬魄刀が淡い光を帯びた。 次の瞬間。 何かが現れた。 〔何でアイツに攻撃しなかったんだよ!〕 それは小さな小さな男の子。 まるでお話に出てくる妖精のような。 彼は何やら怒っている様子。 その小さな体で一生懸命に訴えている。 彼を見て、は呆然とした。 「妖精?」 〔馬鹿だろお前、俺だ、箒星だ!〕 「ほうき…ぼし?」 箒星は刀を指差した。 どうやら彼は、斬魄刀の具象化のようだ。 彼はの周りをヒュンヒュンと回ってみせた。 その姿は、やはり御伽の世界の妖精に見える。 〔やっと俺を呼んだかと思うと、何だあの使い方〕 「はじめまして、ですよね?」 〔違う…と言い切れないか、ある意味別人だもんな。〕 「え。」 の目の前で止まると、彼は腕を組んだ。 〔でもお前は奥底で憶えてた、だから俺を呼んだ。〕 「どういう事でしょう?」 〔俺は随分と前からお前を知ってるぞ。〕 「それは…。」 それは、死神としての自分を知っているという事。 彼女が山本達の言う通り、は本来死神であり、尸魂界に存在する者だという事だ。 は少し前に見た夢を思い出した。 十の文字を背負う者。 松本と日番谷と話をしていた人物。 彼女は体を乗り出した。 「教えて箒星、私は昔此処にいたんですか?」 真剣な表情。 箒星は頭をかいた。 〔あぁ、いた。〕 「じゃあどうして私は現世にいたの…私は…。」 〔俺も、よく知らないんだよ。〕 「え。」 〔斬魄刀が鞘から出てないとき俺は大体眠ってるから。〕 「ねむ、ってる?」 〔大虚との戦闘中、突然俺を戻したと思えば…それから俺は長い眠りから覚めなくなった。〕 は頭を活動させ、話を要約する。 つまりは、最後に斬魄刀を解放したのは大虚との戦いであり、そのときに自分は命を失ったのだ。 "彼女は亡くなったはずだ" けれども。 そう結論を出すと可笑しい。 "元々死神である"霊魂"をわしが義骸に入れた" 命を失ったはずの自分が何故義骸に入っている。 義骸は、死神の仮の肉体だとルキアは言っていた。 「もしかして"私"は死んでなくて…〔誰か来た!〕 話の途中ではあるが。 誰かの気配、霊圧を察知した箒星は斬魄刀に帰る。 突然の事には慌てて斬魄刀を揺さぶったが、彼は出てくる気はないようだ。 そのとき、草履が地に擦れる音がした。 箒星が言うように誰かが来たのだ。 は体事そっちに向いた。 聞き覚えがあるような、ないような。 それでも、心の何処かで安心できるような。 そんな優しい響きがした。 彼女はその声に顔を上げた。 その顔を見た事はあった。 確か、と、彼女は思い出す。 初めて十番隊の書類を運ばせてもらったときの事。 途中阿散井に出会い一悶着あったが、その後駆けつけた日番谷と共に彼女は五番隊に顔を出している。 「えっと…五番隊の「藍染惣右介。」 さり気なく、自然に。 彼女が名前を言う前に言われてしまう。 そんなに藍染は微笑んだ。 「雛森くんが言ってたよ、名前を間違えて憶えてたと。」 「あ…間違えました、確かに。」 「だから間違われる前に言ってみたんだ。」 意地悪だったかな。 と、彼は少し面白そうに笑った。 別にその笑みは嫌ではなかった。 目の前に立っている人物は大人で、優しくて。 堂々と立っている。 「ところで、私に何か用でしょうか。」 五番隊の隊長がこんな所まで何の用なのか。 皆目検討がつかない。 しかし、用がなければ此処に来るはずもない。 そもそも藍染と彼女は初めて顔を合わせたときも、挨拶程度しか言葉を交わしていないのである。 は不思議そうに彼を見た。 藍染はそんな彼女を見て、優しく微笑み、それから、手に持っていた鍵で牢の扉を開けた。 静かに中に入る。 「日番谷くんが君を牢に入れたと聞いたから。」 「心配して下さったんですか、有難う御座います。」 「それも勿論あったのだけど…信じられなくてね。」 藍染は何やら考えるように腕を組んだ。 「私は彼の邪魔をしてしまいましたから。」 「それでも…彼が君を牢に入れるなんて…。」 彼の表情は、本当に真剣なもので。 もつられるように表情が固くなった。 「日番谷くんは君を大切に想ってるから。」 藍染の言葉は彼女の予想にはないものだった。 それ故には瞬きを数回した。 「…確かに冬獅郎ちゃんは優しいです。けど、私と彼はそんなに長い時間いるわけではありませんし…。」 「君は、本当に全てを忘れてしまったのかい?」 「え…あの…。」 "相変わらず鈍いな、お前は" "書類…溜まってるんスけど" "まぁまぁ気にするな、隊長命令だ" "そういうのを職権乱用て言うんスよ" 夢で見た映像。 肩より少し長い髪の彼より背の高い隊長と。 今よりも少し背の低い日番谷。 それを思い出して、また心がユラユラ揺れた。 ワ ス レ テ ル ? ス ベ テ ワ ス レ テ ル ? 違う 思い出さないだけ は顔を上げて藍染の袖を少し引っ張った。 それに気づき彼も改めて彼女を見る。 彼女は真剣な顔を向けている。 静かに、言葉を紡いだ。 「昔の"私"の事、教えて下さい。」 |