
その日、戦時特例が出た。
その特例は五番隊副隊長の雛森の耳にもすぐ届いた。 勿論、彼女の隊舎寮に寝泊りさせてもらう事になったの耳にも、その言葉は入ってきた。 戦時全面解放、旅禍に対する警戒の強化。 つまり、黒崎達に全力で立ち向かうという事。 席官が部屋から出て行った後。 雛森はを見た。 その視線に気づき、は雛森を見た。 彼女は顔を俯けた。 「藍染さんの処に行って下さい。」 「え。」 「雛ちゃん、行きたいんでしょう?」 何故分かったのだろうか。 雛森は驚いたようにを見た。 彼女は穏やかに笑っていた。 は知っている。 彼女が藍染を慕っている事。 もしくは、それ以上の感情を抱いている事を。 「私は此処から逃げません。」 自室を出て行った雛森に不安はなかった。 がこの隙に逃げてしまえば、自分は山本から相当な罰を受ける事は避けられない。 それでも、彼女はの言葉を信じる事が出来た。 あの瞳<め>は、嘘をつかない。 それはずっと前から知っていた事なのだから。 ----- 先に寝てていい、そう言われたはお言葉に甘えて出された布団でぐっすりと眠った。 朝は自然に目が覚める。 相変わらず小鳥のさえずりが聞こえ、彼女は笑った。 ここで祖父の声が聞こえてきたら。 そう思った後、ゆっくりと首を振った。 「雛ちゃん…帰らなかったのかな。」 そう思っただが、机の上に1枚の紙があった。 "副隊長の定例集会に行きます、一時間程したら戻るね" その書き残しを見て彼女はふっと笑う。 最後の辺りが少し斜めに走っている。 きっと急いでいたのだろう。 ふと、机の下にあるものが目に付いた。 手を伸ばして取った。 「副…隊章?」 それには鈴蘭が刻まれている。 紛れもなく雛森の物である。 きっと急いで副隊長定例集会に向かった彼女は、副隊章をつけるだけでなく、持って行くのも忘れたのだ。 は慌てて雛森の部屋から出て行った。 何処でするのかなんて分からないけれど。 道行く人に聞くなり任せるなりしよう。 そう思って。 そんなときだった。 「いやあああぁぁあぁ!」 突然聞こえてきた悲鳴。 慌ててはその声のした方へと駆けた。 瞬歩に近いスピードで。 「どうしたんだ雛森くん!?」 「何が…!」 「…あ…ああ…あ…。」 定例集会の為、集まっていた副隊長達が駆け寄る。 雛森は一点を見て体を震わせていた。 その視線を追い、上を見上げる。 そこには。 「藍染隊長、藍染隊長っ嫌だ…嫌です、藍染隊長!」 血塗れで既に事切れている藍染の姿があった。 他の副隊長達もそれに呆然とした。 どうして藍染が死んでいる。 無残にも斬魄刀で体を突き刺されている。 どうして藍染が殺された。 「ひ、なちゃん、はぁ、ハァッ、どうしま…!?」 副隊章を手に持ち、悲鳴を聞いて駆けつけた。 彼女が現れた事に松本や他の副隊長は驚いているようだったが、最早それ所ではなかった。 は目の前で殺されている藍染に気づき、目を大きく見開き、小さく声にならないような悲鳴をあげた。 雛森の副隊章が手から落ちる。 「何や、朝っぱらから騒々しい事やなぁ。」 その空気に無理矢理割って入るような声のトーン。 その場にいる者は皆同時に振り向いた。 そこに現れたのは市丸だった。 雛森は数日前に聞いた幼馴染の言葉を思い出した。 "三番隊には気をつけな" "特に、藍染の奴が1人で出歩く時にはな" 次の瞬間、彼女に沸き起こったのは。 憎悪と殺意。 「お前か!」 彼女は腰にさした斬魄刀を手にし、もの凄い勢いで市丸へと襲い掛かろうとした。 が、それはある人物に止められる。 三番隊副隊長であり、彼女の同期でもある吉良により。 「吉良くん、どうして…!」 「僕は三番隊副隊長だ、どんな理由があろうと隊長に剣を向ける事は僕が許さない。」 両者の意見は合う事がない。 彼らは斬魄刀を構える。 雛森は斬魄刀を始解し、吉良を攻撃した。 彼も同じように斬魄刀を始解した。 力と力がぶつかり合う。 最早彼らは冷静さを失っていた。 藍染の死に呆然とし、その姿に胸を痛めるも、目の前で繰り広げられる2人の戦いに困惑した。 だが、声が出ない。 そんなとき。 「動くなよどっちも。」 吉良の斬魄刀は己の斬魄刀で。 雛森の斬魄刀は左足で止めた。 彼らを止めたのは、日番谷だった。 「日番谷く…。」 「捕らえろ、2人共だ。」 日番谷の言葉に、元々タイミングを見計らっていたであろう副隊長達が彼らを捕らえた。 彼は斬魄刀を鞘に戻す。 「総隊長への報告は俺がする!そいつらは拘置だ!」 彼の指示に2人は牢へと連れて行かれる。 副隊長達は定例集会どころではなく、そこには副隊長ではないと、もう1人、市丸が残っていた。 日番谷はその場に彼女の姿がある事には気づいていた。 預けられていた五番隊の隊長は死に、副隊長は拘置。 彼はに話しかけようとした、が。 「すんませんな、うちのまで手間かけさしてもうて…。」 市丸の存在を思い出し、足を止めた。 彼は、ゆっくりと振り向いた。 「雛森に血ィ流させたら、俺がてめぇを殺すぜ。」 「そら怖い、悪い奴が近付かんようによう見張っとかなあきませんな。」 彼はやはり笑みを崩さない。 そして、その視線は日番谷からへと映った。 自分へと視線が向けられている事に気づき、彼女は一瞬体をビクリと震わせてしまう。 「可哀想になぁちゃん、僕が面倒みようか。」 ゆっくりと、だが、彼は確実にに歩み寄っていく。 は逆にゆっくりと後退る。 日番谷は小さく舌打ちをし、彼女の前に立った。 市丸をこれ以上近づけさせないように。 「に何かしてみろ、今すぐその顔に風穴あけてやる。」 「そら、堪りませんなぁ。」 その言葉とは裏腹に、市丸は未だ笑っている。 だが、彼はそう言うとその場から去った。 その場に残った2人は暫く口を開かなかったが、微かに震えているに気づいた日番谷は優しく頭を撫でた。 思わず強く抱きしめたい衝動に駆られたが。 彼はそれを耐え、空いた左手を強く握った。 |