
溜まった書類の山々。 それを見て松本は驚嘆しているようだった。 確かに、今は旅禍騒動で仕事どころではない。 だが、それにしても多すぎないか。 そんな表情で彼女は日番谷を見た。 「もしかして、これ…。」 「あぁ、五番隊のも引き受けた。」 やっぱり、と彼女は肩を落とした。 最年少の隊長はこういう事には気が利くのだ。 いや、気が利きすぎと言っても過言ではない。 そう思うが松本は苦笑いを浮かべるだけで。 「ちょっと用事済ませて、すぐやりますから。」 「あぁ…すまねぇな。」 逃げるつもりじゃないのは、口調と声音で分かる。 隊舎から出て行く松本の背を見送ってから、その場に残されたは静かに立ち上がった。 五番隊は今、隊長格がいない。 の監視どころではないだろう。 市丸に任せるなんて事は出来ず、日番谷は再びを自分の傍に置くしか出来なかった。 「あの…。」 は恐る恐るという感じで彼に話しかける。 前に彼に拒絶されてしまった事は忘れられない。 それは彼の感情故なのであるが。 彼の感情は彼女が理解できる程分かりやすくはない。 どちらかというと不器用で分かりにくいもの。 「。」 「は、はいっ。」 「ごめんな。」 また拒絶されるのではないか。 そう思っていただが、返ってきたのは優しい声。 彼は申し訳なさそうな表情を浮かべて彼女を見た。 その表情にの胸が締め付けられた。 どうして彼は謝ったのだと。 「怖い思いをさせたな。」 「え、いや…。」 「俺があのとき感情的にならなかったら、あのまま俺がついていれば、あれを見なくてよかったんだよな。」 あれとは、藍染の死なのだろう。 死神はときに虚と戦い慣れている。 それはときに自分の血や仲間の血を見る事だってある。 酷ければ仲間や自分が死ぬ事も避けられない。 死も、また身近なものだ。 は首を振った。 「哀しいのは、みんな同じ。」 雛森の叫び声を。 副隊長達の驚愕<きょうがく>の表情を。 彼女は近くで聞いて、見た。 自分だって哀しかった、怖かった。 それは誰だって同じなのだ、彼女はそう思った。 「死は誰にでも平等。哀しみも恐怖も。誰が死んでも。」 ね、と日番谷に彼女は言った。 そう言われて彼は困ったような微笑を浮かべた。 死神は死を司る故に、死とは隣り合わせ。 たとえ誰が死んだとしても立ち止まる事は許されない。 それでも、哀しみがないわけではない。 彼女の言葉に自分の心が少し和らいだ気がした。 「でもね。」 「ん…。」 の言葉に日番谷は耳を傾けた。 醜い気持ちは今存在していなかった。 ただ、思うが侭に彼女に意識を集中出来た。 「冬獅郎ちゃんが死んじゃうのは、もっと哀しい。」 日番谷は思わず顔を上げた。 2人の深い碧色の瞳がお互いを映す。 「一護ちゃんだけじゃないよ、冬獅郎ちゃんも大事。」 「…。」 「ごめんね、刀を向けて、ごめんなさい。」 謝る事で全ての罪悪感が消えるわけではない。 それでも癒えるものがある。 にも、日番谷にも。 彼の手が重りを外したかのように軽く動いた。 その手はへと伸び、優しく抱きしめた。 ただ、優しく。 「俺の方こそ…ごめん。」 まだ自分の心の靄の正体は分からない。 それでも、素直に手を伸ばせた。 も日番谷を受け入れた。 ----- 「なぁ、そういや他の連中は大丈夫かな。」 岩鷲は思い出したように言った。 阿散井との戦闘で深い傷を負った黒崎だが、護廷十三隊の中救護的役割の四番隊の席官がいたお陰で今も瀞霊廷内を思うが侭探索できているようだ。 「石田も井上も俺の100倍頭がきれる。」 勝てない相手には喧嘩を売る事はない。 そう彼は言った。 つまり、自分は売っている…と。 「もう1人は?チャドとかいう…。」 「尚更心配ねぇよ。」 即答に近い答えだった。 「だってあいつなんてまだ生きてるかどうかも…。」 「感じるんだ、あいつの霊圧だけはずっとな、それに… チャドが負けるとこなんて俺には想像もつかねぇよ。」 一方茶渡は。 「懺罪宮って何処だ?」 吹っ飛ばした死神に彼は聞いた。 よく見れば周囲に何人かの死神が伏している。 これら全てを茶渡1人が倒したのだろう。 「せ…せせせ懺罪宮…?」 「朽木ルキアの居所を聞いたらさっきの奴はそこまで言って気絶した、場所が分からない教えてくれ。」 「あの…ず〜っと向こうに見える白い塔みたいなの…。」 恐る恐るという感じで死神は答えた。 その指差す方を見れば、確かに白い塔が見える。 「…そうか、あと、の居所を知らないか。」 「…?」 「そうか…山本というんだったな此処では。」 "山本"という名字を出すと、死神の目の色が変わった。 茶渡はそれを見逃さなかった。 もう一度彼の死覇装を掴んだ。 それに彼は思い切り怯えた様ではあるが。 「し、し知りません、平隊員は知らされていないので。」 「そうか…有難う。」 茶渡は礼を述べると背を向けた。 の居所は掴めないのでは追い様がない。 とりあえずは居所の分かるルキアの元へと向かうか。 そう思い懺罪宮のある方向に歩いた。 問われた死神は背を向けた茶渡にニヤリと笑い、不意打ちを狙って茶渡に刀を振るったが、彼には効果なく、逆に斬魄刀をねじ曲げられてしまった。 「ごごごめんなさ…こ…殺さないで…。」 「もう…向かってくるなよ…。」 「…はい?」 茶渡はそう言うだけで彼にはこれ以上危害を加えず。 懺罪宮のある方へと走った。 そんな彼を見る者がいた。 建物の中。 「来ました旅禍です。」 そう言ったのは女性の死神だった。 その声に気だるそうに反応したのは男で。 彼は派手な着物を死覇装の上に着ている。 「仕方ない、そんじゃ行くとしますかね。」 「本当に向かわれるのですか?たかが旅禍1匹私でも。」 「山じいの命令じゃ仕方ないでしょ。あの人はこれ以上旅禍に手こずってると思われたくないんだよ。」 彼は護廷十三隊、八番隊隊長、京楽春水。 彼女は同じく八番隊副隊長、伊勢七緒。 「あの人も必死なのさ、孫を奪われたくないが為。」 「それなら御自分でされた方が手っ取り早いのでは。」 「総隊長が我を貫いてちゃ示しがつかんでしょ。」 「…それもそうですね。」 京楽は困ったように笑った。 「あの人はあの人で、あの時に我を貫いてしまった事を悔やんでいるのかもしれないな。」 「え…。」 「いや、独り言さ。」 この後。 茶渡は圧倒的な差で彼に負ける事となる。 そして、黒崎は。 十一番隊の隊長と対峙していた。 |