
中央四十六室 尸魂界全土から集められた40人の賢者と、6人の裁判官で構成される尸魂界の最高司法機関。死神の犯した者はすべてこの機関で裁かれる。一度下った裁定にはたとえ隊長格といえど異論を唱えることは許されない。 「何を読んでいるんだ。」 書類を一通り済ませた日番谷は、やけに静かに、そして真剣に何かを見ているを不思議に思った。 珍しく、何かしたい、と言わないと思えば。 彼女は何やら分厚い書物を読んでいるようだ。 よくよく見ると、それは十番隊に置いてある本のようで、尸魂界の法学の本のようなものだった。 は1時間ぶりくらいに顔を上げた。 「ごめん、勝手に読みました。」 いいけど、と日番谷は言って本を見た。 本は既に3分の1は読み終わっているようだ。 小さな活字が詰められているというのに。 彼女はどうやら書物を速読出来るよう。 「…、もうそこまで読んだのか?」 「うん、本を読むのは苦手だけど。」 「それでか?」 普段なら、活字だらけの本を読むと彼女はどうしようもなく眠気に襲われて眠りの世界に誘われてしまう。 それなのに彼女が読み続けられたのは。 それだけ真剣であり、集中していたから。 尸魂界の法学。 これがルキアを助ける方法を見出せはしないか。 そう思ったからである。 「…朽木ルキアの為か。」 その問いに彼女は頷いた。 読んでいて可笑しく思った事がある。 ルキアの罪状とその裁定が不一致してしまう事。 彼女の罪状は、霊力の無断貸与及び喪失滞外超過。 第一級重禍罪となるのも極刑に処されるのも可笑しい。 だが、中央四十六室の決定は絶対だと記されている。 彼女は尸魂界の事はほぼ分からないと言える。 たとえ、昔此処に住んでいたとしても、此処に存在していたとしても、記憶はないに等しいのだ。 たとえ、昔の自分の存在を認めたとしても。 「(昔の自分ならどうにか出来たのかな…)」 そんな事を考えても仕方ない。 それでも、諦めるわけにもいかない。 黒崎も井上も茶渡も石田も。 皆が自分とルキアを助けに来てくれた。 一時は絶望に落とされ諦めていたけれど。 黒崎との約束を破るわけにはいかない。 「可笑しいなぁ。」 可笑しいといえば。 彼女はもうひとつ不思議に思う事がある。 藍染の死についてだ。 あれは黒崎達のした事ではない。 つまりは、尸魂界に存在する誰かが、旅禍の騒動に乗じてした事だと言っても強<あなが>ち間違いではない。 「冬獅郎ちゃん、藍染さんは…。」 「分かってる旅禍なんかじゃねぇよ。」 彼には犯人と思わしき人物が浮かんでいる。 証拠はないのだけども。 言動、行動、疑わしさは誰よりもある。 今思わば隊首会途中に鳴った警鐘。 あれも可笑しいのだ。 旅禍の侵入の為の警鐘だと誰もが思った。 だが、日出まで探しても旅禍の存在は見つからず。 その後別の警鐘が旅禍の侵入を知らせた。 「市丸の奴…。」 「え。」 「いや、何でもない。」 無意識に名前を出し、日番谷はハッとした。 これ以上彼女を深入りさせてどうする。 彼はそっとの頭に触れ、優しく撫でた。 日番谷の心には変化があった。 「心配するな、何があっても現世に戻してやるよ。」 「…!」 は驚いたように彼を見た。 "お前を奪い返されるわけには行かねぇんだよ" あの言葉は…。 日番谷の言葉に安心とそれとは逆の感情を抱く。 彼女は居た堪れない気持ちで恐る恐る口を開く。 「私…やっぱり邪魔?」 「はぁ、何言ってるんだよ。」 「だって、現世に戻してやるって…。」 彼女の言葉の意味を分かったのだろう。 日番谷は苦い笑いを浮かべ、首を横に振った。 「が帰りたいなら、それが一番良いと思えた。 (俺の我侭とよく分からない独占欲なんて…消えろ)」 ----- 「隊長。」 「何だ。」 用事を済ませた松本は仕事をしていた。 本当は、彼女は仕事の出来る死神である。 サボり癖があるのも本当だが。 彼女は顔を上げ、ちらりとを見た。 どうやら彼女は本を全て読み眠ってしまったようだ。 集中の糸が切れたのだろう。 寝顔にふっと微笑むと、視線を日番谷に移した。 「隊長、の事好きですよね。」 「…は?」 彼らしからぬ間抜けな声が出た。 それと同時に瞬きを数回した。 「だから、の事好きですよね。」 「誰が。」 「日番谷隊長が。」 「俺が?」 日番谷の表情と言動は、何だか子どものようで。 (いつも見た目の割に大人びた表情をしている) それが可笑しかったのか、松本は小さく笑った。 勿論、それを日番谷が気に入るはずもない。 彼女に留められた厚い書類が投げつけられた。 痛、と声を上げたが、やはり彼女は笑っていた。 彼の眉間の皺が増える。 「寝ぼけてないでそれやれ。」 「ちょ、これ厚いですよ!」 「煩せぇ、やれ。」 「ちょ、私寝ぼけてないですって!」 その書類の厚いこと厚いこと。 松本はそれを両手で持って日番谷に主張する。 だが、彼は眉間の皺を少なくする事もない。 その代わりに右手を上げた。 「これもやるか?」 彼の手にあるのは松本の元にある書類よりもぶ厚い。 それを見た彼女は力一杯首を横に振った。 「それは嫌ですけど…でも、隊長、好きですよね。」 「まだ言うか…そんな…「事はあり得ない、ですか?」 自分が言うつもりだった言葉を言われる。 ムッとした表情で松本を見ると、彼女は笑った。 分かってるなら、と彼は書類に視線を戻す。 それでも、松本は引き下がらなかった。 ただ、笑顔がなくなった。 「が現世に戻りたがってるからですか。」 「…。」 「例え、過去尸魂界にいたとしても。」 「…松本。」 「が自分から離れてしまうからですか。」 「…おい、松本。」 「後で傷つくのが嫌だから、気持ちを隠すのですか。」 「黙れ!」 突然、日番谷は怒鳴り声に近い声を上げた。 それと同時に彼の霊圧が急激に高まった。 一瞬松本が眉を寄せたが、すぐに表情を戻す。 だが、心拍数は確実に上がっている。 彼女は深呼吸をすると、また日番谷を見据えた。 彼はそんな彼女を苛立ちの他、不思議に思った。 いつもならば冗談ですぐ引き下がるはずだ。 「ん…冬獅郎、ちゃん…。」 ソファで眠っているはずのの声が聞こえる。 それに慌てて日番谷は立ち上がった。 それと同時に霊圧を無理矢理下げた。 彼女は未だ夢の中だった。 日番谷はそれにホッとして再び座った。 「隊長はずるいです。」 呟くように松本は言った。 そんな彼女に日番谷は目を一瞬見開いた。 松本が泣いているように見えたから。 彼女は泣いていない。 ただ、強く手を握っている。 「私より後で出会ったのに、私よりを知っている。」 「そうは言っても、俺がに会ったのは5年前…。」 「あのときだって…私じゃなくて隊長が…。」 「松本…(俺の声は耳に入っていないのか?)」 過去と現在が入り混じる。 そんな松本に日番谷だって気づいた。 ただ、自分は過去を知らない。 が関わった"過去"なんて…分からない。 日番谷は深い溜息をついた。 何に対してなのか、自分でも分からない。 「松本…お前、少し寝ろ。」 「…。」 「こいつは仮眠室に寝かせるから。」 日番谷はを抱き上げる。 松本は返事はしなかったが、小さく頷いた。 仮眠室の扉を両手が塞がっていた為足で開ける。 そこで、彼の足が止まった。 「俺はあのとき松本が羨ましかったけどな。」 が混乱したとき。 自分の言葉は耳に入っていなかっただろう。 そう思い、日番谷は苦い笑いを松本に向けた。 仮眠室へと入り、彼は再び足で扉を閉める。 布団の上にを静かに寝かせる。 ふと、小さな赤い唇に指先で触れた。 「図星じゃねぇか…俺。」 触れた指先を自分の唇へと寄せた。 自分の唇に触れた指先が少し冷たかった事に苦笑する。 シーツに広がる黒紅色の髪を撫でる。 長い柔らかい髪を一束手にする。 それに唇を寄せた。 「そろそろか…。」 |