
「まさかあそこで草鹿副隊長殿に拾っていただけるとは!この荒巻真木造、感激の極みでございます!」 荒巻は大袈裟<おおげさ>な程に大きな声とやけに高いテンションで自分の隊の副隊長である少女に目を向けた。 彼女の名前は、草鹿やちる。 一見幼子であるが、正当な護廷十三隊の中の十一番隊副隊長である(身長は日番谷やよりも低い) 証拠に副隊章も左腕につけている。 「しょうがないじゃん、あの子旅禍だからいっちーと霊圧が似てるんだもん。それに頼まれてたし。」 何を。 と、いうような表情で同隊員の男達が彼女に目を向けた。 その視線の意味を感じ取ったのか。 草鹿は続けて話した。 「ひっつんに噂の孫娘を頼むって言われたし。」 (実際にはそんな呼び方はしていない) "ひっつん"という単語が最初はよく分からなかったが、自分を頼むのは彼ぐらいだろうと、にはその人物が日番谷である事をすぐに理解した。 窓から飛び出したを彼は急いで追いかけようとした。 だが、彼には迷いがあった。 それは葛藤<かっとう> そこに旅禍を"旅禍"として扱わないであろう存在。 "いっちーが気になるの" とか言う護廷十三隊としては信じられない草鹿が現れた。 「冬獅郎ちゃんは…あの。」 「大丈夫、ひっつん怒ってなかったからー。」 彼女の言葉には少しホッとした。 が、やっぱり気がかりなのか妙にソワソワしている。 怒っていない事には安心する。 しかし、自分が窓から飛び出してしまった事で色々と迷惑をかけてしまったのではないか。 そう思っては、いやいや、と考え直してみたり、独りで百面相をしている事に彼女自身は気づいていない。 「あはは、みどりん面白い!」 「…み、みどりん?」 「うん、だって綺麗な碧色ぉ。」 草鹿はの瞳を指差した。 人を指差す事は現世では失礼に当たる事だが、此処は現世ではないし、貶されているわけでもない。 逆に褒められているのだ、自分の瞳の色を。 は素直にペコリと頭を下げてお礼を言った。 「(美しい)」 同十一番隊の第五席である綾瀬川(彼は岩鷲と戦った人物である)は密かに井上やに嫉妬心を抱くが、2人がそれに気づくはずもないだろう。 そんな相方の事など分かる由<よし>もなく(いや理解するつもりも毛頭ないだろう)同十一番隊の第三席である斑目は"そんな事よりも"と話を変えた。 彼は黒崎と戦って負けを認めている。 「一護の野郎は生きてんのか?」 「イヤ…そこまではちょっと…分かんないです…。」 井上は眉を下げ、曖昧に答えた。 今まで感じていた黒崎の霊圧は急に感じられなくなった。 彼女もそれに不安を感じていないわけではない。 密かな好意を抱いているならば尚更だ。 そんな彼女の袖をギュッと握り、は口を開いた。 「一護ちゃんは死んでません。」 それはとてもハッキリとした口調で。 彼女は自分の言葉に自信と確信を持っていた。 正直、黒崎の霊圧を辿れるか、と言われれば霊圧を限定霊印に加え藍染により術で抑えられてしまった為、普段ならば出来るであろう事も不可能に近い。 それでも、その答えは揺らぐ事はなかった。 「私と彼は約束を交わしましたから、今まで破られた事は一度もなかったんですよ?」 先程までの凛とした表情とは変わり、彼女は"ふわり"と柔らかく微笑んで見せた。 の言葉と表情に井上も笑って頷く。 自分が非力だと自責の念に駆られるよりも、まだ信じる方がずっとずっといいに決まっている。 「そいつの言う通りだぜ一角。」 別の声が聞こえた。 その場にいる全員が声の方を向いた。 更木剣八、黒崎との戦いで相打ち(いや、彼は黒崎の勝利を認めているが)をした死神である。 そして彼が十一番の隊長でもある。 更木は深い傷を負ったにも関わらず平然とした様子で面白いとでもいうように口の端を上げた。 「面白ぇ、手ぇ貸すぜ、てめぇらと一緒に動いてりゃじきに一護に遭えそうだ。」 そう言うと更木はに視線を向けた。 何故見られたのか、彼女は不思議そうに首を傾げた。 だが、彼はふっと笑っただけで何も言わない。 それが益々不思議なのだが、草鹿は彼の意図を分かったようで小さく笑っていた。 「私の顔に何かついています?」 「いや、えれー小さくなったなお前。」 更木はくっく、と小さく笑っての頭をわしゃわしゃとまるで子犬の頭を撫でるかのように触れた。 その行動も言葉の意味も最初は分からなかったが、は自分の見た夢の中での"山本"を思い出す。 そういえば身長が高めだった気がする、と。 そう思いながら彼女は更木を見上げた。 「…仕方ねぇ一護の言葉を守るか…チッ。」 「?」 ----- 1人の少女が空腹のあまり荒れた地に倒れる。 このまま果ててしまうのだろうか。 彼女がそう思ったときに何かが視界に入った。 それは日干しの果物のようだった。 差し出した少年はにこりと笑っていた。 「食べ。腹へって倒れられるゆう事は君もあるんやろ。」 霊力が。 尸魂界では空腹に倒れる事はない。 …普通の人間ならば。 ただし、霊力のある者は空腹を感じてしまう。 「君…も…?」 「あぁ、僕もや。市丸ギン、よろしゅうな。」 「…変な名前。」 そこで松本の夢は途切れた。 見慣れた天井が視界に入る。 彼女はゆっくりと体を起こし、周囲を見た。 「起きたか松本。」 「…隊長…何してんですあたしの部屋で?」 「馬鹿野郎執務室はお前の部屋じゃねぇ。」 彼の言う事は最もだ。 日番谷は青筋を浮かべ、残っている書類を見せる。 「起きたんなら代われ、俺はもう疲れた。」 「そんなの、隊長が五番隊の引き継ぎ業務を全部引き受けてくるからでしょ。」 「煩い、とっととコレ持って自分の机につけ。」 彼は眉間に皺を寄せ、残った書類を松本に渡す。 その書類の少なさに彼女は唖然とした。 山ほどあった書類が今では数枚程度になっている。 「これだけなんですか?あんなにあったのに…。」 「うるせぇっつってんだ、さっさとやれ!」 あれだけの量を済ましたのだ。 相当な時間がかかったに違いない。 そう考えると、自分が相当な時間眠ってしまっていたに違いない、そう松本は分かった。 彼女は目を伏せた。 今も夢が鮮明に脳裏に残っている。 「あたし…随分眠ってたみたいですね…。」 お茶を飲んでいた日番谷は若干低めの声で話す松本に、また眉間に皺を寄せ、湯飲みを机に置いた。 目まぐるしい程一気に事件が起こった。 彼女が表情を暗くさせるのも仕方のない話だ。 彼にだってそれはよく分かっている。 「構わん…同期と後輩があんな揉め方すりゃ、お前もそれなりにきつかったろう。」 幼馴染であり同期である市丸。 後輩である雛森。 「隊長はギン…市丸隊長の事を…「失礼します!」 突然の声に松本の声は遮られた。 十番隊の第七席である竹添は、執務室の扉の前で隊長格である彼らの所在を確かめる。 日番谷は何事かと思い早急に中に入れる。 「申し上げます!」 竹添から発せられた言葉は。 彼らに更なる衝撃を与える事となる。 「阿散井副隊長、雛森副隊長、吉良副隊長の三名が牢から姿を消されたとの事です!」 その言葉を聞き、日番谷と松本は急いで雛森を入れていた牢へと向かおうとする。 が、松本はの存在を思い出し、日番谷の名を呼んだ。 「隊長、を置いていくのは!」 「あいつなら今頃十一番隊の奴らの処だ。」 「え?」 それだけ言うと日番谷は瞬歩で牢へと向かう。 松本も遅れをとらないよう、瞬歩を使った。 寝ている間の出来事で彼の言う事は正直理解出来ない。 それでも日番谷が平然としているという事は、彼女は大丈夫なのだろう、そう思った。 今は、何が起ころうとしているのかを知りたい。 彼女の脳裏に幼馴染の顔が過ぎった。 |