
陽は落ち、空は闇に染まり、月が浮かぶ。 十一番隊舎のある部屋。 は窓から見える三日月を見上げていた。 隣では井上が静かな寝息をたてて寝ている。 慣れない場所と精神的なものにより酷く疲れている。 それはだって同じだった。 だが、何か胸騒ぎのようなものを感じた。 黒崎がどうしているか心配なのか。 それもあった。 日番谷や松本、雛森の事も考えていた。 そして。 自分がどうするべきなのかも。 「寝ないの?」 突然の声には振り向いた。 自分よりも小さな草鹿がそこに立っていて、きょとんとした表情で首を傾げて自分を見ている。 は草鹿に控えめな笑みを浮かべると静かに立った。 「眠れないんです。」 「…そっか、何かあったかいのいる?」 「ううん、気持ちだけで。」 断ったに草鹿は、ふぅんと答えて隣に寄った。 「みどりん、喋り方違うねぇ。」 「昔と…?そうみたいですね。」 「前は背高かったしお口荒かったし、変なのー。」 「…そうでしょうね。」 それでも。 草鹿はに満面の笑みを浮かべて見せた。 「でも、根っこは変わってないよね!」 「根っこ?」 「根本的には、だろうが。」 男の低い声が会話に入る。 その声にも草鹿も振り向いた。 声の主である更木は呆れたような顔をして部屋に入る。 あー、と草鹿が声を上げた。 「剣ちゃん、女の子の部屋には勝手に入ったら駄目!」 「うるせぇなぁ。」 「あ、じゃ、じゃあちょっと出ましょうか!」 近くでは井上が寝ている。 慣れない世界に来て尚更疲労が溜まっているだろう彼女の安眠を妨害するわけにはいかない。 は自分の口に人差し指を当てて、静かにして欲しい、というように柔らかく訴えた。 「お前、本当に前の記憶ねぇのか?」 最初に口を開いたのは更木だった。 その言葉には少し困ったように笑う。 何処の世界でも夜方は昼間より涼しくなるようだ。 そんな風を受け、彼女は静かに目を瞑った。 記憶は…戻ってはいない。 夢や藍染から教えてもらっただけで。 「ないです。」 「そうか。」 少しだけ、更木の声が小さかった気がした。 それに少し目を伏せたが。 は柔らかく微笑んで言った。 「少し、私の過去を教えてくれませんか?」 彼女の言葉に、更木は眉を一瞬寄せた。 過去(死神時代)のである"山本"と彼は一切関わりがなかったわけではない。 総隊長である山本が自ら養子を強く求めた人物であるだけではなく、真央霊術院を今までにない特例の1年で卒業し(させられ)入隊時はかつてない第三席の座に就かされたを誰もが特別で見たのは言うまでもない。 彼にとっては天才も特別もどうでもよかったのではあるが、ただ女も男も関係なく強い者と戦いたいという欲求は今と変わらずにもっていたのである。 「あー、何度か俺が戦いを求めたな。」 「私、更木さんと戦ったんですか?」 「いや、毎度毎度、面倒だとか何とか言いやがった。」 思い出したのか更木は舌打ちをした。 そんな彼を見て草鹿は面白そうに笑った。 「みどりんはねぇ、滅茶苦茶だったよ。」 「お前に言われたかねぇだろう。」 「ぶぅ。」 「どんな風に滅茶苦茶だったんですか?」 「あのねぇ…。」 ----- あまりにも美しすぎる三日月が牢の鉄格子から見える。 特別拘禁牢、そこの牢番は低く低く頭を下げた。 大きな穴が開けられている。 それは雛森がやったとは思えぬ程の破壊だった。 松本は目を疑った。 「雛森は元々鬼道の達人だ、本気で閉じ込めておくつもりなら霊圧を封じておくべきたった。」 日番谷はそう言い穴を見た。 誰も雛森がここまでして脱獄するとは思わなかった。 「処刑される訳でもないのに何で…。」 「そんなもん…理由はひとつしか無ぇよ。」 彼女は何を求めて護廷十三隊に入った。 彼女は今まで何の為に必死になっていた。 考えれば答えは自ずと分かる。 雛森は、藍染の仇を討とうとしているのだ。 「松本先に帰ってろ、俺は…雛森を助けに行く。」 日番谷は斬魄刀を強く握った。 雛森の向かう先は分かっている。 一番怪しいと疑われる市丸ギンに違いない。 そう思い、日番谷は市丸の霊圧を探った。 彼が何を考えているのかは分からないが、吉良を脱獄させたのは市丸に間違いないだろう。 霊圧を探ると、案の定2人の霊圧を同じ場所に感じた。 「(は十一番隊にいるだろう…大丈夫だ)」 彼女の身の安全は保障できる。 今は雛森の安全を確保する事が一番だろう。 彼には一抹の不安はあるものの、真っ直ぐに市丸と吉良の元へと瞬歩で急いだ。 雛森が駆けつける前に、やるべき事がある。 三番隊舎へと続く廊下。 そこを市丸と吉良は歩いていた。 日番谷は先回りして、彼らの前に現れた。 吉良は驚いているようだったが、市丸は相変わらず良く読めない笑みを浮かべている。 吉良が入っていた牢の鍵は外側から外されている。 それを言っても市丸は未だ余裕の笑みを浮かべていた。 「こっそり逃がすつもりなら甘かったんじゃねぇのか?」 「わざと分かるように…したつもりやってんけど。」 「…雛森より先に来れて良かったぜ…。」 彼は背中の斬魄刀を握る。 空気が一気に重たくなった。 「あいつが来る前に俺がてめぇを殺す。」 氷輪丸を解放しようとしていた日番谷だが、その前に彼らの間に誰かが現れた。 日番谷はその人物を見て驚き、そして眉間に皺を寄せる。 "あいつが来る前に" 何としても阻止したかった。 その人物、雛森が現れたのだった。 「やっと…見つけた…。」 雛森は腰を上げた。 市丸の方を向き、斬魄刀を握る。 それを見て日番谷は慌てて駆け寄った。 力の差は歴然だ。 「お前の敵う相手じゃねぇ!俺に任せて下がってろ!」 だが。 雛森の抜いた斬魄刀は。 事もあろうが日番谷に向けられたのだ。 「雛…森…?」 日番谷は目を見開いた。 心臓を鷲掴みされたような感覚だった。 目の前にいるのは、幼い頃からよく知っている人物。 それなのに自分は何故刀を向けられている。 雛森はゆっくりと言葉を紡ぐ。 「…藍染隊長の…仇よ。」 |