- vol.31 訪れたのは変化か -

















彼女は眠っていた。
深いのか浅いのか、それは誰にも分からない。
彼女は眠っていた。
そして。
再び夢の世界で記憶を探っていた。





「隊長、至急これらの書類に判子お願いします!」


あぁ また昔の夢見てるんだ
ちょっと慣れてきたのか、彼女は結構余裕だった。
昔の自分を見るのも、昔の日番谷達を見るのも。
自分の机に沢山の書類が置かれる。
嘘みたいにドンッと積み上げられた山のような書類達。
はジトリとそれを置いた人物を見た。



「…。」

「逃げちゃ駄目ですよ。」



目の前にいるのは十番隊第四席の亘理だった。
今や上司と部下ではあるが同期で入隊した事もあり、彼らは話をよく交える方だった。
そんな相手であるの扱いには若干は慣れている。
が、彼女に困らされる事は多い。



「日番谷副隊長は魂葬、松本第三席は非番、という事で今日は僕が山本隊長のお世話をしますから。」

「おい…動物の世話みたいな言い方するなよ。」

「はい、では溜まった書類をさくさくして下さい。」

「無視かよ。」



鶏か馬か牛か、などブツブツ文句を言いながらもは墨のついている筆を手に取った。
そういえば報告書も提出しておかないと、なんて思い出して珍しく彼女は頭を抱え込んだ。
隊長格が面倒な事くらい彼女は分かっている。
だが、これは彼女が望んだ事であり仕方のない事。
たとえ、その感情が一時の気の迷いだとしても。



「判子を忘れずにお願いしますね!」

「…。」



とうとう文句も言わなくなったに亘理は心の中で"今日は勝った"とガッツポーズをした。
いつも何だかんだで最終的には負けてしまうのだ。
気の強いに気の(少々)弱い亘理、勝負は見えてる。
だが今日は違う、そう思っていたときだった。



「今日中に終わったら久里屋の高級羊羹買って来い。」

「はぁぁ!?」

「よし、俄然<がぜん>やる気になった!」

「ちょっ山本隊長!」



僕の給料じゃあ余裕が…。
隊長の方が裕福なのに…。
などの言葉は彼女は総無視である。
意地悪な笑みを浮かべて書類を片付けていく。
もともと能率はいい方なのである。
それというのも五番隊である藍染の直属部下をしていた時期が少なからずあるのだから。
悲鳴に近い声を上げる亘理には笑った。



「さぁてと、今日は何を食うかなぁ。」



それから時間は過ぎて就業時間。
は片手に羊羹の入った袋を持ち(やる気で山積みの書類を全て終わらせた人)ご機嫌で岐路を辿っていた。
そんな彼女は廊下である人物に出会った。



「おーい!」

「あー、隊長じゃないっスか!」



あれ この人は誰?
黒髪の何とも快活そうな男。
彼はを視界に入れると右手を思い切り振った。
お互いが歩み寄る。
廊下の真ん中だというのに立ち話を始めた。
彼らはどうやら仲が良いらしい。



「何持ってんスか?」

「久里屋の高級羊羹だ!」

「マジ!流石は隊長食べるもんが違いますねぇ!」

「ふふん、亘理に買わせたんだ。」

「…。」



亘理の落ち込んだ様子が脳裏に浮かんだのか、彼は明後日の方向を一時的に向いた。
そんな彼の心情を知ってか知らずか、は笑う。
そしてその袋を開けた。



「食うか、海燕!」

「はいっ!」



志波海燕、護廷十三隊十三番隊副隊長。
快活で気持ちのいい程の奔放さの持ち主。
それ故に疎まれる事も意外になく、人の中心にいた。
彼らの性格が合ったのだろうか。
彼らの会話はとても弾んでいるように思える。
そこで、背景がぶれた。
あ 時間が進んだみたい



「山本隊長!」



焦ったような、戸惑ったような声。
それは亘理の声だった。
同じ執務室にいる日番谷もと同時に振り向いた。
その切羽詰まったような声に彼女は名乗らずともすぐに入って来るように亘理に言った。
何だか嫌な予感がして堪らなかった。
そして…予感は当たってしまう。



「…海燕が…死んだ…?」



し ん だ ?
伝えられた言葉は何とも残酷な事実だった。
彼女は手に持っていた湯のみを床に落とした。
湯のみは見事に割れ、その破片が散った。
その音に正気を取り戻したは慌ててそれを拾おうとして破片で手を思い切り切ってしまう。
手の平に赤い血が滲み出てきたのに気づいた日番谷は腕を引き、破片を拾おうとする彼女を止める。



「奥方を殺した虚に一人戦いを…「分かった。」



亘理の言葉を遮り、は言った。
彼の性格上その続きは言われずとも分かった。
彼は彼の信念を貫き死んだのだ。
彼女は静かに目を瞑り、心を落ち着かせる。
死神は生と死を隣り合わせに生きている。
死なない保障など何処にもないのだ。
は自分の手の傷を心配する日番谷が目に入った。
心は痛むが…自分には拠所<よりどころ>がある。



「(せめて手の届く距離にいる者達だけでも…)」



彼女は切実に祈るような気持ちを込めて、自分の手を持つ日番谷の手をぎゅっと握った。




















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「海…燕…。」



小さく名前を呟き、彼女はゆっくりと目を開ける。
自分の頬に何かが伝っているのが分かった。
それが涙だと気づくのにそう時間はかからなかった。
彼女はそれを拭い、体を起こした。
繋がれている点滴は既に終わっている。
はそれを抜く。



「私って、昔から冬獅郎ちゃんに助けられてたんだ。」



夢なのに彼の温もりを感じた。
彼女は自分の手をゆっくりと握った。
まるで先程まで握っていたような感覚がする。
そこで彼女の思考は完全に働き始めた。
どうして自分は眠っていた。
どうして自分は此処にいる。
そして彼女は思い出す、自分が日番谷を追って行き、そこで串刺しにされてしまいそうな雛森を見て思わず庇った事、そんな自分を松本が助けてくれた事。



「冬獅郎ちゃん…雛ちゃんッ!?」



雛森は地に伏せていた。
何らかの怪我か症状があったのだろう。
彼女は慌ててベッドから飛び下りると自分が眠っていた部屋から出ようとした。
だが、何かに邪魔されて出る事が出来ない。
その壁をドンドンと叩いてみる。
色も形もない、透明だがそれは存在するのだ。
は焦った。
嫌な予感がしてならない。
逸る気持ちを押さえ、彼女は大きく息を吸った。



「君臨者よ!」



彼女は無意識に言葉を紡いでいた。
不思議と違和感を感じなかった。
意識はせずとも言葉は浮かんでくる。



「血肉の仮面 万象 羽ばたき ヒトの名を冠する者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!」



は手をかざした。
自分が何をしているのかは分からなかった。
ただ、そのままでいい。
そう思っていた。



破道の三十三…蒼火墜!



音と共に何かが壊れた。
自分のした事に彼女自身少し驚いたようだ。
だが、立ち止まっている暇などない。
は自分の頬をパンと叩くと隣の部屋を見た。
そこには彼女が寝ていたのと同じ医療用ベッドがある。
だが、ベッドだけだった。
雛森は…いない。



「温かい…雛ちゃん此処に寝ていたんだ。」



そのまま自分の隊に戻ったのだろうか。
最初はそう考えた。
けれども、そんな気は全くしない。
彼女は神経を集中し霊圧を探る。
抑えられているのは分かっている、だが、このまま何もせずに諦める事は出来ない。
全神経を研ぎ澄ました。



「ぅ。」



突然、身体が重たくなった。
骨が軋むかのように痛めつける。
それは何処かで経験した事のあるような、は今にも崩れてしまいそうな意識を保ち考える。
…なんでお前…。」

「一護ちゃん、何で…。」
そうだ、と彼女は理解した。
あれは自分が死神化したときの事だった。
霊力を失ったはずの自分が再び霊力を取り戻したとき。
とびそうになる意識を必死で保ち、神経を研ぎ澄ませる。
今なら探れると確信が出来た。



「…あった。」



























確実に、

彼女の何かが変わっていく。






[ 変化か進化か ]



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日番谷隊長が出てこない…実際には。
本当はルキアも出したかったんですが。
話が長くなりすぎてしまうので…ふぅ。
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