
「な…何だこいつは…?どういう事だ…?」 中央四十六室に入った日番谷、松本。 彼らは目の前の惨事に驚愕<きょうがく>させられた。 40人の賢者と6人の裁判官がそこにはいるはずだった。 いるのはいる。 だが、彼らは生きてはいない。 皆惨殺されていたのだ。 「中央四十六室が…全…滅…。」 尸魂界全土から集められた40人の賢者と6人の裁判官で構成される尸魂界の最高司法機関。 尸魂界、現世を問わず死神の犯した罪咎は全て中央四十六室で裁かれ、必要と判断されれば武力の指示も出る。 一度下さった裁定には誰であろうと異を唱える事は…。 許されない。 「…血が乾いている…。」 それだけではなく、血は黒く変色しひび割れるくらい。 それから考えると殺されたのは昨日今日ではない。 此処は阿散井が黒崎に倒され戦時特令が出て以降は完全隔離状態に入っているはずだった。 誰一人として入れるはずはない。 それに、日番谷達が強行突破するまで防壁は全て閉ざされたままであり、侵入の痕跡はない。 つまり、彼らが殺されたのは隔離状態に入る前である。 「俺達に伝えられた四十六室の決定は全て…偽物か!」 あまりにもおかし過ぎる処刑。 あまりにもおかし過ぎる処刑の早まり。 彼は緊迫した空気の中考える。 やったのは誰だ、市丸か? 色々な事が脳裏を回る。誰にも気づかれずそれ程の事を奴一人で? 他にも協力者がいるのか? そんなとき、背後から声が聞こえた。 「いらっしゃると思っていました、日番谷隊長。」 突然聞こえてきた声に彼らは咄嗟に反応した。 聞き覚えのある声だが、市丸の声ではない。 口調も違うのだからそれは分かるが。 奥の階段の上に立っている人物。 「吉良…!」 それは思わぬ人物だった。 三番隊副隊長吉良イヅル、三番隊隊長の市丸の直属の部下であり普段から彼は市丸を慕っている。 強ち予想外とも言えないかもしれない。 それでも、彼がこれだけの人数を惨殺出来るとは…。 日番谷は目を見開いた。 「まさかてめぇがこれをやったのか…?」 「…。」 吉良は答えなかった。 すぐさまその場から去る。 彼を逃がすわけにいかない。 日番谷達もすぐに彼を追った。 彼らは内心焦っていた。 自分達の知らないところで何が起こっているのか。 首謀者は誰だ、首謀者の目的は。 それ故に彼らは気づかなかった…背後にいる人物に。 「追うぞ松本!」 「はい!」 吉良は四十六室から外へと出た。 彼の表情に焦りは感じられない。 追われているという感覚はあるのだろうか。 それとも…。 「四十六室をやったのはてめぇか!?」 「…いいえ。」 彼は冷静であった。 まるで"追われる"それが役目であるかのようだ。 「僕はただ…日番谷隊長が来られる少し前に内側から鍵を開けて地下議事堂に入れて貰っただけです。」 「入れて貰っただと…誰にだ!」 「…決まっているでしょう四十六室にですよ。」 「ふざけてんのかてめぇ…!」 四十六室が自ら隊長でもない吉良を招き入れるだと。 日番谷は彼の答えに苛立ちを覚えた。 そんな事あるはずがない。 ましてや隔離状態になっていた四十六室だ。 「そんな事より…良いんですか日番谷隊長?僕なんかを追いかけるより雛森くんを守っていてあげないと。」 彼の思わぬ言葉に日番谷は息を呑んだ。 言葉の意味が分かりそうで分からない。 「何言ってやがる…雛森は今…。」 「いませんよ、十番隊舎にはもう。」 「な…!?」 日番谷は彼女が眠っている部屋に高等結界である鏡門(外からの攻撃を反射する)を張っている。 だが、それは内側からだと案外簡単に破れる。 それに加えて雛森は鬼道の達人であり結界を破るのなんて難しい事はないのである。 そう言い、吉良は続けた。 「気づいてなかったんですか? 雛森くんずっと隊長達の後をついて来てましたよ。」 日番谷は自分の愚かさを呪った。 雛森は未だ自分が藍染を殺した犯人だと思っている。 目を覚ませば自分を追ってくるのは間違いない。 どう思っているにしても。 内心ショックを受ける彼に、吉良は追い討ちをかけるようにゆっくりと言葉を紡いだ。 「そして、山本元十番隊長はどうでしょうね…。」 彼に追い討ちをかけるには十分な言葉だった。 市丸との戦闘時、彼の斬魄刀から雛森を庇おうとしたの姿が脳裏に思い出された。 それは躊躇<ためら>いのない行動。 彼は拳を強く握った。 「松本!任せていいか!」 「どうぞ!」 日番谷は限界に近い瞬歩で彼女らの元へと向かう。 吉良はまるで日番谷がそうするのを待っていたかのように、彼の姿が見えなくなると立ち止まった。 松本の方を見る。 「何、逃げるのやめたの?」 「僕の役目は貴女をここで止める事です松本さん。」 ----- どうして気づかなかった! 雛森は俺を藍染殺しの犯人と信じ込んだままなんだ! 俺が動けば追ってくるのは当たり前じゃねぇか! 藍染の為なら例え動けなくても追ってくる。 そういう奴なんだ雛森は…分かっていた筈だ。 それに。 「馬鹿やろぅ…早まるなよッ!」 注意深く探せばの霊圧を感じる事は出来た。 彼は彼女の微弱なそれを辿る。 ただ、雛森はそれに気づいていないだろう。 日番谷はそう思った。 きっと彼女は四十六室の惨劇を目の当たりにしている。 それどころではないだろう。 そして。 これだけ微弱な彼女の霊圧を辿れるのはきっと自分だけだろう、と彼はそう確信していた。 随分前の出来事が脳裏を過ぎる。 決して平和ではないが幸せだった日々。 「間に合えっ!」 |