- vol.33 姿を現した事実と広がる赤 -

















清浄塔居林、四十六室の為の居住区域。
彼女は市丸によって其処に招かれた。
完全禁踏区域に彼女は戸惑いつつも足を進める。
そして雛森は目を疑った。
だが目の前にいる人物は、間違いなく求めていた人物。
彼女は引き寄せられるように歩み寄った。



「藍染…隊長。」

「久しぶりだね、雛森君。」

「本当に藍染隊長なんですか、亡くなられたはずじゃ。」

「生きているよ、この通りさ。」



彼女の瞳に涙が溜まる。
藍染の言葉を一字一句聞き逃さないように、彼女は頭が真っ白になりそうになりながらも必死に耳を傾ける。
生きている。
その言葉が彼女の傷を癒していく。



「藍染隊長、藍染隊長…私は…。」

「すまない心配をかけただろう。」



藍染は申し訳なさそうな表情を浮かべ、手を伸ばした。
その手で雛森の頭をいつものように優しく撫でた。
ずっと憧れていた、恋焦がれていた。
その人物の手の温もりを感じる。



「(藍染隊長の手…優しくて大きくていつもと同じ心を洗い流してくれる藍染隊長の匂いだ、本当に藍染隊長だ)」



堪えきれずに彼女は涙を零した。
そして、藍染の胸に体を預ける。
涙を止め処なく流す彼女に彼は穏やかに微笑んだ。
そして手を彼女の背に回した。



「少し痩せたね、本当にすまない。君をこんなに傷つけることになってしまって…でも君なら分かってくれるだろう、君しかいなかったんだ、僕にはやらねばならない事がありその為に死を装い君に…「もういいんです。」



彼の言葉を遮り、雛森は言った。
目の前の愛しい人に傷ひとつ存在しない。
温もりと優しさを感じられる。
彼女は目を瞑り静かに微笑んだ。



「隊長が生きていて下さっただけで私はもう何も。」

「有難う雛森君、君を部下にもてて本当によかった。」



彼女はもう市丸の存在など気にならなかった。
前しか見えなくなっていた。
だから市丸が意味有り気な微笑を浮かべている事に気づくはずなど毛頭なかったのだ。
彼女は気づかなかった。
"彼"の変化に。



「有難う雛森君、本当に有難う…さようなら。



それは突然の出来事だった。
痛みや苦しみは感じられなかった。
感じたのは違和感だった。
胸を貫かれた、それに気づいたのは彼の持つ斬魄刀が彼女の視界に入ったときだった。



「…うそ…。」



その刀を持つ手は間違いなく藍染の手で。
向けられた冷たい表情に彼女は何もいう事は出来ず。
そのまま、地に伏した。



「行くぞギン。」

「はい、藍染隊長。」



倒れた雛森に再び目をやる事もなく、藍染は市丸を引き連れてそこから立ち去ろうとした。
だが、彼らは足を止めた。
そして目の前に現れた人物を見て口の端を上げた。



「意外に早かったね…。」



雛森の意図的に隠された霊圧を探り、彼女は限界にも近い瞬歩で彼女を追ってきた。
彼女の傍にある霊圧に嫌な予感はしていた。
だが、誰のものであるかまでは分からなかった。
彼女は雛森の霊圧にのみ集中していたのだから。



「…藍染…さん?」



まるで雛森のように、は目を見開いた。
雛森や他副隊長達と同じく、彼女も藍染が刀で貫かれ命を失っている場面を見ているのだ。
彼は確かに死んでいた。
だが、その藍染が何故此処に立っている。
混乱に近い疑問が沸くと同時に背後の市丸に目をやる。
雛森を貫こうとした斬魄刀は市丸のものだ。
もしかしてと、はハッと息を呑む。



「…藍染さん…雛ちゃんは…。」



気になる事があった。
微かであるが感じ取れていた霊圧が。
藍染は柔らかい微笑みをに向けた。



「彼女なら死んだよ。」



紡がれたのはその表情とは裏腹に残酷なものだった。
藍染はその笑みを浮かべたまま笑う。
何故、何故笑っている。
微かながらに感じ取っていた霊圧が消えた。
まさかと思い彼女は駆けつけた。
だが、既に遅かった。



「嘘…。」

「嘘やないよちゃん。」



背後からの市丸の声。
油断していたとはいえ、彼の動きは素早すぎた。
彼女は背後から市丸に捕らえられる。
振り解こうにもその力は強く、振り解けない。



「ほら、見てごらん?」



瞬歩により階段を上る。
そこの惨劇を目の当たりにし、は言葉を失った。
地に伏しているのは間違いなく雛森だった。
大量の鮮血を広げ、意識は既にない。
体がガクガクと震える。



「い…や、嘘…うそ…雛ちゃあぁぁん!

「止めないかギン、悪趣味だ。」

「すんません、可愛い子は苛めたくなる性分で。」



彼らの声などには聞こえない。
目に入るのは雛森の無残な姿。
耳に入るのは自分の、悲鳴。
誰がこんな酷い事を。
そう思ったのは一瞬だった。
藍染の静かな笑い声が思い出された。
市丸と藍染は共犯者だったのだ。



許せない…。

「どうするんだい、君は霊圧を抑えられてるんだ。」

「藍染隊長こそ意地悪やないですか。」

「ギン程じゃないさ。」



精一杯力を入れるが市丸の腕を振り解けない。
彼女は肩が痛むのも気にせずに抵抗し続けた。
狂っている、狂っているのだ。
どうして命を簡単に消す事が出来る。
そう思うと彼女の瞳から一筋の涙が零れた。



ッ!」



聞こえてきた声には声の方を向いた。
そこには息を切らせた日番谷が立っていた。
彼は死んだはずの藍染がそこにいる事に驚いた。
だが、が市丸に捕らえられている事に気づき、すぐに表情は険しいものへと変わる。



「藍…染…!?どういう事だてめぇ…本当に藍染か?」

「勿論、見ての通り本物だよ。それにしても予想より随分と早いご帰還だね日番谷隊長も。」

「すんませんイヅルが甘かったみたいですわ。」



日番谷は眉を寄せた。
彼らがどうして一緒にいる。
そして彼らの会話の内容。
まるで、自分が吉良によって引き付けられていたのが藍染の指示であるかのような言い方だ。



「何の話をしてんだ、てめえら…。」

「戦術の話さ、敵戦力の分散は戦術の初歩だろう?」



穏やかにものを言う藍染に彼の不安は募る。
話が少しづつ読めてくる。
だが、最も先に優先すべきは。



を離せ市丸!」

「それは出来ない相談ですわ。」



市丸はニッと口の端を上げて笑うと、腕を少し動かし、まるで背後からを抱きしめるようにした。
それに日番谷はカッときたが、今の状況を考え、その感情を無理矢理押し殺した。



「冬獅郎ちゃん…雛ちゃんがッ、雛ちゃんが!」



彼女の涙と悲痛の声に日番谷は一筋の汗を伝わせた。
そして足を動かす。
藍染と市丸の横を凄い速さで駆け抜けた。
そこで雛森の姿を目にし、彼は呆然とした。



「雛…森…。」

「残念、見つかってしまったか。」



そう言った割に彼は落ち着いているように見える。
それが日番谷の怒りや憎しみを高めていく。
殺された雛森、捕われた
彼らの目的こそ、改竄された手紙の内容。



「すまないね、驚かせるつもりじゃなかったんだ。見つからないように粉々に切り刻んでおくべきだったかな。」



変わらず穏やかな口調の藍染。
彼の言葉には涙を床に落とした。
"どうしてこんな事になったの"



























広がる鮮血、

広がる憎悪。






[ 刻まれた赤色 ]



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主が相変わらず働いてません。
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