
「…兄…様…。」 貫かれると思った刃は彼女らを貫く事はなかった。 小さな2人を抱きかかえ、現れた彼は自分の体に刃を受ける事で彼女らを守ったのである。 現れたのはルキアの義兄である、朽木。 が無傷な事で安堵入り混じった、内心複雑な気持ちを抱きながらも市丸は斬魄刀を戻す。 抜かれた瞬間、朽木の体から止め処なく血が溢れた。 「に、兄…様…どうして…兄様、兄様…。」 ルキアは必死に彼に問いかける。 だが、朽木は答えはしなかった。 ガクリと膝は折れ、倒れかけた彼を彼女は支える。 藍染は確実にこちらへと歩み寄ってきている。 朽木を守るようにルキアは彼の頭を抱いた。 はその光景に眉を寄せたが、立ち上がった。 このままでは皆…。 「お願いだよ箒星…君の力を貸して下さい。」 彼女の小さな呟きにも近い声に、斬魄刀"箒星"は答えるように自身を淡い光で輝かせた。 その光に頷くと、彼女はゆっくりと斬魄刀を抜いた。 蒼白い光をまとう刀身が見えると同時に何かが現れた。 それは、箒星の具現化された姿。 〔最初から俺を頼れば良かったんだ。〕 「ごめんなさい、でも、頼ってばっかりじゃ…。」 〔お前は昔から自分で何でも背負い過ぎなんだよ!〕 拗ねたような口調で彼は言った。 彼女は箒星を見て小さく笑うと、頷き刀を地面に刺す。 次の瞬間。 薄い水色の光がルキアと朽木、黒崎、阿散井を包む。 日番谷と対峙していたときにした技とは少し違う。 彼女の霊力はもうほとんど残ってはいなかった。 それを箒星自身の力を借りている状態だ。 藍染達に攻撃を仕掛けるような力は今ない。 だが、彼女は何かを感じて静かに待った。 「…これはまた、随分と懐かしい顔だな。」 斬魄刀を抜こうとしていた藍染の動きが止まる。 いや、止められる。 両腕を拘束され、刃を突きつけられている。 「動くな、指1本でも動かせば…。」 「即座に首を刎ねる。」 現世では猫の姿をしていたが、本体の姿は元隠密機動総司令官及び刑軍統括軍団長である四楓院夜一。 そして、昔は彼女の部下であり、護廷十三隊二番隊隊長、兼、現隠密機動総司令官である砕蜂。 彼女らにより藍染の動きは完全に止められる。 だが、藍染は笑っていた。 突如大きな音と共に何かが現れる。 南以外の門番をしていた3人。 「馬鹿な…こやつらまで手懐けておったというのか!」 「いくら君達でも僕を捕らえたまま彼らとは戦えまい。」 「ちっ…。」 形勢逆転か。 だが、は動かなかった。 彼女は目を瞑り静かに待っていた。 そして。 またも大きな音がした。 現れた者達に夜一は笑みを浮かべた。 「空鶴!」 「あんまり暇だったからよ、散歩がてら様子見に来たぜ!」 現れた空鶴は目を瞑っているを見た。 少しだけ驚いたような表情を浮かべたが、それも本当に少しですぐに口の端を上げた。 彼女は前を見据えると、南門の番人であるじ丹坊と共に次々と門番を倒していく。 大きな音と共に大地が揺れる。 市丸は少し離れた場所で相変わらずの笑みを浮かべて飛んでくる破片を避けていたのだが。 突然その腕を誰かに捕われた。 「動かないで。」 背後からではあるが、その声に誰かは分かった。 幼馴染の声は姿を見なくても分かる。 松本は眉を寄せ、それでも彼の喉元に刃を突きつけた。 市丸は一瞬だけの沈黙の後、藍染を見た。 「すんません藍染隊長、捕まってもた。」 「これまでじゃの。」 「…何だって?」 「分からぬか、最早お主らに逃げ場はないという事が。」 はそこでようやく目を開ける。 感じられた霊圧はこれで全部。 今動ける護廷十三隊の隊長格が上から下りてきた。 残っていた東仙も部下であった檜佐木が捕らえた。 静かに風が舞い、彼らの髪をなびかせる。 「…藍染…。」 「藍染隊長…!」 「…終わりじゃ、藍染。」 丘の下ではじ丹坊が番人達を倒していた。 藍染も市丸も東仙も捕らえられた。 これで彼らは一網打尽のはずだ。 それなのに、藍染は静かに口の端を上げた。 静かなはずなのに、その笑みがやけに目についた。 夜一は目の前で笑う彼を不審に思った。 「どうした、何が可笑しい藍染。」 「あぁすまない…時間だ。」 彼の言葉に夜一はハッとして空を見上げた。 そしてすぐさま砕蜂を見た。 「離れろ砕蜂!」 彼女の声とほぼ同時。 藍染の周囲を囲むように光の柱が下りてきた。 あのまま彼の元から離れなければ確実にその光の柱にその身を焼かれていただろう。 突然の光の柱。 その場にいる者は驚嘆の表情で空を見上げた。 空の割れ目から現れるものは…紛れもなく虚。 「大虚!」 大群の大虚が空の割れ目から姿を現す。 それはあまりにも禍々しい。 は目を見張った。 現われしもの、大虚ギリアン。 それはもっと彼女が幼かった頃にも見たことがある。 "あれは虚だ、人間の手に負えない" 何故藍染の元に虚が現れる。 どうして、と疑問と同時に昔の映像が過ぎった。 現世の記憶ではなくて…。 「藍染た、いちょう…もしかして、私の最後の…。」 彼女の言いたい事を早々理解したのか。 彼は微笑みを浮かべて頷いた。 ドッ ドッ ドッ 心音が早まった。 藍染の言葉には短く声をあげた。 声にならない悲鳴のような声を。 失われる命。 流される赤い血。 涙を零す…少年。 風が彼女に同調したかのように一瞬強く吹いた。 そんな彼女を見て、藍染は笑みを消した。 「君を殺すつもりはなかったんだよ、すまない。」 彼の表情には思わず静止してしまう。 だが、そのとき空の割れ目から新たな光の柱が下りる。 ひとつは東仙。 ひとつは市丸。 市丸は下りてくる直前に松本の手を払った。 「もうちょっと捕まっとても良かったのに…。」 振り向いた彼は、何処か哀しげな表情を浮かべていた。 払われた手は少しも痛くなかった。 それなのに松本の胸がズキッと痛んだ。 「さいなら乱菊…ごめんな、ちゃんにも謝っといて。」 どうしてそんな顔をするの。 松本は思わず手を伸ばしそうになった。 "あんた一体何処へ行きたいの" だがその手をぐっと我慢する。 彼のした事は決して許せはしない事。 「浮いた…!?」 やがて彼らは瓦礫<がれき>と共に空へと上っていく。 確実に虚達の元へ行こうとしているのか。 死神達は驚嘆の表情を露わにする。 上っていく中、藍染は真っ直ぐに視線をに向けた。 彼女は真っ直ぐにその視線を受け止め彼を見る。 「逃げる気かい、この!」 「止めい。」 「総隊長!」 「あの光は反膜<ネガシオン>というての、大虚が同族を助けるときに使うものじゃ。あの光に包まれたが最後、光の内と外は干渉不可能な完全に隔絶された世界となる。光が降った瞬間から、藍染には最早触れることすらできん。」 山本は静かに上っていく藍染達を見た。 こんな結末を誰が予想していただろうか。 きっと藍染達以外は夢にも思っていなかった。 浮竹は下から藍染を睨みあげた。 「大虚とまで手を組んだのか…何の為にだ。」 「高みを求めて。」 即答にも近い答えに浮竹は更に表情を歪めた。 だが、藍染は気にするでもなく彼を見ている。 「地に堕ちたか、藍染!」 藍染は既に大虚達の目と鼻の先にまで来ていた。 彼は冷めたような表情を浮かべる。 「最初から、誰も天に立ってなどいない。 君も、僕も、神すらも。」 彼は髪をかきあげ、眼鏡を外すとそれを粉々に砕いた。 「だが、その耐え難い天の座の空白も終わる。」 上から皆を見下ろす。 まるで。 本に描かれた"神"のように。 「私が天に立つ。」 |