
彼女が目的地へと着いたとき。 既に彼女の身には異変が起こっていた。 全然見えなかったものが、ぼんやりと見えた。 そして、其れは今、完全に見えていた。 其れは、昔見た化け物。 虚、だった。 「ほろう…。」 銀髪の少年の顔が不意に浮かんだ。 声が思い出された。 "あれは虚だ、人間の手に負えない" それならば。 目の前で闘っているのは、誰。 彼女は目を見開いた。 「邪魔しないで。」 に襲い掛かろうとする虚を彼女は振り払った。 其れは悲鳴をあげ、姿を失くす。 既に、彼女には…。 「一護ちゃん!」 彼女は力の限り叫んだ。 その大きな声は。 戦闘の最中でもある彼にも聞こえていた。 彼は信じられないというような表情で振り向いた。 彼は、今死神の姿、つまり霊体。 霊力の弱い、ましてやない人間に見えるはずがない。 「…なんでお前…。」 「一護ちゃん、何で…。」 続きを言おうとした口からは何も言葉が出ず。 鉄の味が口の中に広がった。 意識を保つ代償の痛みが今、やっと感じられた。 「ーっ、危ねぇ!」 に襲い掛かろうとする虚を、黒崎は斬った。 頭に流れ込んでくる不安と疑問。 "全然見えなくなったし、感じなくなったし" 虚、死神が見える人間。 霊力は、並大抵ではない。 「一護ちゃん!」 「だから、一護ちゃん言うなっての!」 どうして彼女に霊力が戻ったのか分からない。 それでも、分かる事は。 守るべき人間が1人増えたという事。 彼は斬魄刀を構えた。 一向に減らない虚に正直焦っていた。 がその場に同じクラスの石田がいる事に気がついたのは、少々遅れてからだった。 滅却師<クインシー>と死神の話を彼は明かす。 魂を滅却する滅却師と昇華する死神。 対極する、存在。 が。 「話が長げぇッ!」 石田の頭を足蹴にし、黒崎は叫んだ。 虚と石田の頭がガチンコしたが、気にしていない様子。 「死神と滅却師は正反対!大人数相手の喧嘩なんてのは…背中合わせの方が上手くやれるもんだぜ!」 何だかんだ言いつつも、2人は力を合わせている。 ように見えた。 はそう思い、胸の奥でホッとした。 周囲に虚がいても、恐怖はなかった。 何故か、其れの存在に違和感を感じなかった。 「…何でお前がっ。」 「朽木…さん?」 驚嘆のあまり素を出してしまった事に気がつき、朽木は慌てて口を押さえた。 ハッキリと聞いていたはずなのに、は笑う。 別段気にしていないようだ。 「…。」 「…。」 「死神さんかぁ。」 「…!」 少しの沈黙の末。 先に口を開いたのはだった。 「お前、死神がっ!?」 「見えますよ、5年前にも一度だけ、見た事ある。」 「…なっ。」 「君も本当は死神なんでしょう?」 虚が見える。 死神が見える。 の霊力は、失われてなんていない。 今や、完全に戻っている。 彼女は前を見据えた。 虚に斬りかかる黒崎が、5年前の光景と重なった。 「な、何故そ…「一護ちゃん!」 朽木の言葉を遮り、は叫んだ。 石田を庇おうとした黒崎が虚の手に弾かれた。 斬魄刀は宙に舞い、地面に突き刺さった。 丁度、たちの位置から少し離れた位置に。 「…下がってろ!」 「でも!」 「霊力が強いお前は虚の恰好<かっこう>の餌食だ!」 死神の黒崎でも、斬魄刀がなければまともに闘えない。 彼女に迷いはなかった。 黒崎の斬魄刀を取る為、走った。 彼女を狙おうと虚が彼女目掛けて飛んでくる。 石田もそれに気づき弓を構えたが、時既に遅し。 が斬魄刀に触れるのと同時に虚は飛び掛った。 次の瞬間、眩い光が周囲を照らした。 何が起こったのか。 その瞬間は誰にも分からなかった。 固く目を瞑っていたは、ゆっくりと目を開いた。 微かな違和感を感じた。 「…なに、これ…。」 自分の身体が前方に横たわっている。 服装も違う。 黒い…まるで黒崎と同じような、死覇装。 そして、何処からともなく沸く、力。 「そんな…が…死神化?」 「馬鹿な、人間が独りでに死神化など…。」 しかし。 彼女の姿はどう見ても死神であり。 その証拠に、彼女の腰にあるもの。 それは、紛れもなく刀である。 斬魄刀 死神の証 「私が…死神…?」 眩い光と共にに飛び掛った虚は消えた。 が、死神化した彼女を目掛けて次なる虚が飛び掛る。 躊躇<ちゅうちょ>もせず。 彼女は斬魄刀を抜き、振り下ろした。 不思議な事に。 違和感はなかった。 「一護ちゃん!」 「あ、あぁ!」 黒崎に彼の斬魄刀を投げた。 彼女の変化に戸惑いながらも彼は構える。 油断をすれば殺られてしまう。 今はそんな事を考えている場合ではない。 2、3体の虚を一気に斬った。 黒崎は石田を見た。 「どんな理由があってもこの勝負は山程人間を巻き込むやり方だ、まで巻き込みやがって…フザケんじゃねぇ。俺はてめーを許さねぇ。」 黒崎の言葉に石田は黙った。 確かに、やり方としては非道すぎる。 だが、彼にも譲れないものがあった。 強い思いと…。 「けど今はそんな事言ってる時じゃねぇ、だから仕方ねぇ! 組みたくもねぇ手を組む!殴んのはその後だ!」 バシュ 石田の放った矢が黒崎の頬をかする。 そして、彼の背後の虚が消された。 「やれやれ…君もいい加減話が長いね。」 何だかんだで話はまとまったようだ。 手にしたばかりの斬魄刀を構え、は笑った。 自分が何故こうなったのか分からない。 それでも、恐れている場合ではない。 闘える力があるのなら、闘うしかない。 守られるだけでは駄目だ。 「(追い払うだけの力じゃなくなったし)」 「!」 飛び掛ってきた虚を斬ったに黒崎は呼びかけた。 彼女は心配そうな彼を見て、Vサインを見せた。 霊感は強いが、彼女は普通の女子高校生。 だったはずだ。 そんな彼女がどうして果敢に虚に立ち向かえる。 困惑は完全に隠す事は出来ない。 それでも、彼は彼女に笑いかけた。 「無理すんじゃねぇぞ。」 「了解です。」 黒崎、石田、、3人の周囲を囲む虚達。 彼らを見ていた虚に異変が起こった。 皆、空を見上げている。 空を割って現れたのは、巨大な虚。 「何だよ、あれ…。」 「周りの虚を相手にしながら戦えるのか!?」 「うるせぇな!とにかくやるしかねえだろ!」 「じゃあ、私が周りの虚の相手をしてるから2人で。」 「んな無茶な事させられっか!」 「無茶かもしれないけど…。」 「お前はついさっき死神化したばっかだろうが!」 「でも。」 「でもじゃねー!意味分かんねぇ死神化しやがって!」 「…言い合いしてる場合ではなさそうだ。」 石田の言葉に彼らは目線を移す。 周囲の死神が彼らを見ている。 少しでも油断は禁物だ。 「くそ…ッ!」 ガガガガガガガ 大きな爆発音がした。 虚が倒されていく。 現れたのは、小さな少女。 そして…。 「黒崎サーン!助けに来てあげましたよーン♪」 帽子にゲタの青年と筋肉マッチョ、少年。 どうやら黒崎の知り合いのようだ。 と、いうよりも。 彼の言葉からすると朽木の知り合いのようだが。 「あら、1人死神サンが増えてますねぇ。」 「はじめまして、…「状況分かれアホ!」 自己紹介をしようとしていたところを止められる。 彼の判断は正しい。 今は、目の前に現れた巨大な虚をどうするか、だ。 大虚<メノスグランデ> 朽木は信じられない、という表情で言った。 王族特務の管轄であり、普通の死神では手に負えない。 「ごめん一護ちゃん、どうやって倒すか…ぁれ。」 の視界が歪んだ。 ぼやぁと景色がぶれていく、薄くなる。 足に力を入れているはずなのに、やけに重力を感じる。 彼女は、薄らいでいく意識の中、斬魄刀を握った。 「!」 「大丈夫スよ、突然の力の目覚めに身体がついていけなかった、眠ってるだけですよ。」 ゲタ帽子、浦原の言葉に黒崎は安心したようだった。 彼女を横抱きにし、浦原の横に下ろした。 が意識を取り戻す頃には。 この戦いの決着は、おそらくついているだろう。 ----- 「大虚が現世に出現した、だと?」 数人の死神達が集まっている。 これは、隊首会である。 各隊の隊長が召集される。 「隠密機動によると何者かが追い払ったとの話じゃ。」 「それは誰だ、そんな奴がいたか?」 口々に疑問を発する。 ざわざわと騒がしい中。 何やら神妙な顔で考えている者が1人。 日番谷は眉間に一層深い皺を寄せた。 もしかして、と。 「護廷十三隊には存在しない死神。」 「なっ。」 それはどういう事だ。 周囲の騒がしさは拍車をかけた。 しかし、日番谷は未だ己の中で考えている。 脳裏に浮かんだのは、5年前の少女。 "あの子はわたしに会いにきました" あの深い碧色の瞳。 前をしっかりと見据えている。 あの霊力は、普通ではなかった。 その場を静止する総隊長山本の声に彼はハッとした。 命が下される。 命とは…罪人朽木ルキアの捕縛若しくは殺傷。 そして…。 |