
「…。」 「隊長。」 「…。」 「日番谷隊長!」 「わっ!」 バサバサバサバサッ 大きな音をたてて机の上の書類が落ちていった。 日番谷は慌てて落ちた書類を拾う。 その光景を、松本は呆れたような顔で見ている。 「どうしたんですか隊長、この間から。」 すっと屈むと、日番谷を手伝う。 幸い、書類はある程度留められていたので、被害は最小限に留まった様である。 拾い終わると、日番谷は顔を上げて溜息を漏らした。 「隊長らしくないですよ?」 「…だろーな。」 「もしかして、恋煩いですか?」 「ばっ…!」 思いも寄らない松本の発言に日番谷は咽<むせ>る。 そんな彼を苦笑しながら背をたたく松本。 「俺が恋煩いなんぞするわけねーだろぅが!」 「分からないですよー、そう見えていい年齢ですから。」 「遠まわしにチビって言ってんのか、あぁ?」 「やだなぁ、そこまで言ってないじゃないですか。」 「…お前今日残業。」 「ひ、酷いですよ隊長!職権乱用!!」 後ろで横暴だの非道だの言っている松本を気にする様子もなく、日番谷は自分の場所に戻った。 目の前にはやらなければいけない書類の山。 それでも、頭は違う事を考えてしまう。 「この少女も連れて来て欲しい。」 映像庁からの提供されたもの。 そこには朽木と黒崎、石田、そして。 一瞬だけであるがが映っていた。 総隊長である山本は自分の髭に触れた。 あのときの表情が日番谷の頭から離れない。 いっその事、任務を与えられたのが自分だったら…。 この靄<もや>を晴らすことが出来るだろうか。 「(…何、考えてるんだ、俺)」 ----- 「背面適合113、神経結合率88.5!」 満月の闇夜。 空に浮かぶ2人。 赤髪の方はにぃっと口の端を上げた。 彼らの視線にあるものは…。 「朽木ルキア…見ィーつーけた!」 朽木は眉を寄せた。 彼女は逃げていた。 黒崎の家から黙って出た。 勿論、にも話していない。 行く当てなどない。 それでも、このまま彼らの傍にはいられなかった。 脳裏に、黒崎との顔が浮かんだ。 「私は…少しこちらの世界に長く関わりすぎたのか。」 「分かってんじゃねぇか!」 頭上から聞こえてきた声。 彼女はハッとして見上げた。 次の瞬間、刀が振り下ろされる。 それにより、傷を負うことはなかったが。 ビリビリと空気が震える。 現れたのは、死神。 「尸魂界からの追手が背後に迫ってるのに、考え事に夢中で声かけられるまで気付かねぇってか?」 朽木は死神の1人を阿散井恋次と呼んだ。 顔見知りのようだが、空気は重い。 「吐けよ、てめーの能力を奪った人間は何処にいる?」 「な、何を言っておるのだ…?義骸に入っておるからといって力を奪われたとは限らぬし…ましてその力を奪った相手が人間だなどと…「人間だよ!」 阿散井は遮るように言った。 その表情からは憤りを感じた。 彼は、確かに怒っていた。 「でなきゃそんな人間みてーな顔をしてる筈がねぇ!」 「…!」 「俺と同じ流魂街の出でありながら大貴族の朽木家に拾われ、死神としての英才教育を施された朽木ルキアともあろう者がぁ!そんな人間みてーな顔していい筈がねぇんだよ…なぁ、朽木隊長!」 朽木は振り向いた。 そこには、義理ではあるが、兄が立っていた。 朽木は呟くように言った、白哉兄様、と。 困惑と混乱の表情が見える。 そんな彼女を見て、阿散井は刀を振り上げた。 そんなとき。 「なっ!?」 彼女の体を押した人物。 朽木は驚嘆の声をあげた。 紙一重で刀から逃れた。 自分の目の前には、昼間会っていた人物がいた。 だ。 「あー、怖かった。」 は苦笑いをしながら、彼らを見た。 黒崎と自分と同じ死覇装と刀を持っている事から、彼らが死神である事は確実だ。 それならば、何故同じ死神である朽木を狙う。 そんな疑問が浮かんだものの、今はとやかく考えている場合でもなさそうだ。 「!」 「大丈夫ですか、ルキアちゃん。」 「ば、馬鹿者ッさっさと逃げろ!」 状況は分からない。 それでも、今にも殺されそうな朽木を放っておけない。 は首を横に振った。 能力を奪った人間は彼女ではない。 しかし、邪魔立てすればどうなるか。 それに加え、彼女は死神化する事が出来る。 「でも。」 「でもじゃない!」 「一護ちゃんと同じ言い方しなくても…。」 2人の会話に入る事は出来ない。 それ故に苛々は募る、阿散井。 とうとう堪忍袋の尾は切れ、刀を振り上げた。 しかし、その刀は2人に振り下ろされる事はなかった。 朽木白哉の声により。 「総隊長の言っていた少女、この娘ではないのか。」 そう言われ、改めて阿散井はを見た。 黒紅色の長い髪に深い碧色の瞳。 山本に下された命のひとつ。 少女を尸魂界に連れて来い、との事。 「そういえばそスね。」 「な、何の事だ恋次!」 朽木の必死の表情とは逆に、阿散井は笑った。 何の事だか、も分からない。 「お前とこの女の連行、これが俺らに下された命令だ。」 「ちょ、待て!こやつは私の能力を奪った奴では!」 「それとは関係なしに、総隊長からの命令なんでな。」 阿散井はの首根っこを掴んだ。 突然の出来事にわけもわからず、話も分からず。 ただ、捕らえられたと気付いたは抵抗する。 すぅっと息を吸い込んだ。 「これは…歌…?」 歌というよりも音の繋がりに近い。 歌詞というものがない、不思議な歌。 彼女の体に触れていた阿散井の手に痺れが走る。 「…っ。」 「やっぱり虚じゃないとあまり効かないですね。」 彼が手を離した隙に彼女は手から逃れた。 死神化しようとも、その方法が分からない。 困った、と彼女は頬をかいた。 それでも、諦めるわけにはいかなかった。 「よく分からないけど。 ルキアちゃんを連れてかれる気も、 私が連れて行かれる気もありませんので。」 その辺よろしく。 と、彼女はペコリとお辞儀をした。 |