「阿部くんって手、意外に大きいんだねー。」 放課後、教室。委員会の仕事を強制的にさせられている俺ら。二人しかいない教室(そう言うと俺らが恋人とかそういう類に思われるかもしれないが、違う)ホッチキスで資料をとめながら、が呟くように言った。突然のことに俺は短く声をあげる(だって、暫く無言で作業していたわけだし)は自分の発言に対してあまり意味はなかったのか、視線は再び自分の手元に戻っていた。だが、俺はなぜか引っ込みがつかず、口を開く。 「意外って何だよ。」 「え、声に出てた?」 出てたよ、思い切りな。俺がそう言うとは視線を俺に向けて、苦笑いをこぼした。どうやらは声に出すつもりはなかったらしい。一応俺も男だ(いや、一応じゃなくて正真正銘男だけど)意外、なんて言われてちょっとムッとしてしまう。そりゃあ、身長の割には体重がないなぁって自分でも思うけど。でも、これは体質だからどうしようもねぇ。ムカムカしてきたからか、ホッチキスで資料をとめる作業もどこか大雑把になってきたような気がする(どうしてこんなにムカムカしてるのかは、分からないけど) 「ごめんね、バカにしたわけじゃないんだよ。」 「バカにしてたら怒ってるぞ。」 「うぅ、そりゃー勘弁デス。」 パチン、パチン、とホッチキスをとめる音は止まらない。喋りながらでも作業できる俺と。は未だ苦笑を浮かべたまま、俺を見ている。 「もう怒ってるじゃんかー。」 「怒ってねぇよ。」 「え、声に出てた?」 出てるよ、思い切りな。本日二度目の言葉を伝えてやった。市ノ瀬はさすがに慌てたのか、肩をすくめている。そんな姿が可愛い、と思ったのは一瞬で、俺は慌てて自分の思考回路を振り払うかのように頭をブンブンと振った(可愛いってなんだ、可愛いって!)そんな俺を驚いたような表情で見ている。ヤバイ、なんだこれ、俺って、変な奴じゃねーか!嫌な目で見られるかと少しだけ構えてみたが、は意外にも笑っていた。 「あはは、阿部くんって結構面白い人なんだねー。」 「面白くねぇよ。」 「委員会一緒になれてラッキー、色んな面が見れる。」 やはり発言に深い意味はないのか、はパチンパチンとホッチキスで資料をとめている。俺としては、少しキたんだけど(は天然か?) 「色んな面、知りてぇの?」 しまった!俺は思わず手で口元を塞ぐ(でも、とき既に遅し、というやつだ)なんだそれ、なんだそれ。なんか俺、に自分のこと知ってほしいみたいじゃねーか?なんだこれ、なんだこれ。なんか俺、のこと…。密かに激しくなる心臓の動きを自覚してしまう。はキョトンとしていたが、また笑顔を浮かべると、首を縦に振った。 「知りたいよ。」 「え。」 「阿部くんはクラスメイトで、同じ委員会で、野球部のキャッチャーってことしか知らないもん。あ、今日、手が意外に大きいってこと知ったけど。」 あぁダメだ。俺はもう完璧に自覚してしまった。手が意外に大きいって言われてムッとしてしまったのも、引っ込みがつかなかったのも、ちょっとした仕草のを、可愛いなんて思ってしまったのも、俺がを好きだからに間違いない。自覚して、俺は自分の顔が赤くなっていないかが心配になった。なるべく顔を見せないように、俺はそっぽを向いてみる。 「阿部くん?」 「もういっこ…教えてやるよ。」 こうなったら仕方ない。天然で鈍い(たぶん)を手中におさめるためには、必死になって自分から動くしかない。こうなった以上、俺は何が何でもを手に入れてやる。 「明日は俺の誕生日。」 自己宣告が卑怯だなんて言うなよ。俺は必死なんだからな(こんなこと、野球部の連中にはぜったいに言えないけど)呟く程度の俺の言葉は、ちゃんとに届いていたのだろう。市ノ瀬は柔らかく笑った。 「じゃあ、お祝いしようね。」 「…サンキュな。」 いつか、の言う"意外に大きな手"での手を握ってやる。それはいつになるのかは分からないけど、ぜったい!ガキじゃないから、そこまで思っていなかった明日の誕生日が、の言葉で、まるで魔法にでもかかったかのような特別なものに思えた(明日、早くこねーかな) |