あたしは中学三年生のとき、ひとつ罪を犯しました。 (別にここは懺悔室ではありませんが) ある日の放課後、眠っている彼にちゅーをしました。 (小心者なのでホッペにですが) 夕日が差し込む教室で、彼があまりにも綺麗だったので。 (だからってちゅーするなって話ですが) それでも何もなかったように生活している今日この頃です。 (だって彼がぜんぜん気づいてなかったので) 「おはよう、阿部。」 「うっす。」 あたし、は高校生になりました。 夕日の彼…こと、阿部と同じ県立西浦高校です。 別に探りをいれていたわけじゃなくて偶然なんです。 友達にはからかわれましたけど、本当に偶然なんです。 探りをいれるとかそんな勇気、ありませんから! 「今日の一時間目なんだっけ。」 「えっと、確か、古文だったよーな。」 「…古文か。」 今日の阿部に変わった様子はないです。 どちらかというと、あたしの方が可笑しいかもです。 だって、だって、だって、今日は阿部の誕生日なんです! 12月11日 阿部の日! あ、ちょっと間抜けな感じになっちゃいました。 誰かからもうプレゼントもらってるのかなー、とか。 誰かからもうお祝いしてもらってるのかなー、とか。 もしかして、お祝いの言葉ついでにこ、告白なんてッ! 「おーい、起きてんのかー。」 「ぅあっはい!起きてます!」 「なら良かった。古文の宿題見してくんない?」 「いいけど、阿部がやってないなんて珍しいね。」 「…忘れてたんだよ。」 そう言って阿部はあたしのノートを受け取りました。 わぁなんて素敵な出来事、宿題忘れてくれて有難う阿部! こんなことで大袈裟に喜んでいるあたり、小さい奴です。 でも、同じクラスでよかったー。 斜め後ろの席でノートを写している阿部を見てたりします。 やっぱり阿部の字は綺麗です。 その間、答え間違ってたらどうしようかと思いつつ。 「あ、阿部。」 「ん?」 今のうちに言ってしまいましょうか。 どうせ放課後まで待ったって告白なんてできません。 そんなに大きくて頑丈なハートは持ってないので。 それならどうしてちゅーできたのかって? それは、火事場の馬鹿力、窮鼠<きゅうそ>猫を噛む。 そういうもんじゃないでしょうか。 「おーい席についてー、HR始めるよー。」 と、いう先生の声に遮られ、結局は言えませんでした。 でも、まだまだ! 放課後までまだ時間はあるのですから。 あたしはノートを戻してもらって席につきました。 …阿部、書くの早いですね。 時間はまだあるのに…。 あるのに…。 あるのに…。 あるの…え、ない? 「はい、お馬鹿さーん。」 「うぅぅ、酷い。」 「だって朝から構えて言えないなんてお馬鹿。」 「本当のことだけど、酷いよー。」 友達の言うとおり。 時間はあるあると思っていたら、もう放課後! 阿部と話をしていないわけじゃないのですが。 気づいたら、放課後なわけです。 朝からずっと、おめでとう、って言いたかったのに…。 これじゃあ去年とまったくもって変わってません。 あの日も、朝から、おめでとう、って言いたくて…。 それでも言えないまま放課後になってしまって…。 そのあと、言葉よりも手が出てしまったわけですが。 手、というよりも、口? 「阿部は部活に行っちゃうし、ってばー。」 「どうせあたしはチキンですよ。」 「こうなったら…野球部待ち伏せる?」 「め、目立つし、阿部が困るよ絶対!」 結局、あたしは言えないまま帰路につくわけです。 情けないったら、本当。 メソメソしながら門を抜けたとき、あたしは気づきました。 携 帯 電 話 が な い ! これは大事です、今の世の中携帯ないなんて。 あたしは友達に言って校舎に走りこみました。 友達は急ぎの用があるそうで先に帰ってもらいました。 確か、机の中に入れっぱなしになっているはずです。 やっとクラスまで行くと、ガラリと扉を開けました。 「あ。」 開けてビックリしました。 だって、そこにはいつか見た光景があるのですから。 夕日の光が窓から差し込んでいて…。 阿 部 が 寝 て る ! あたしはおそるおそる自分の机に近付きます。 なるべく阿部を見ないように近付きます。 だっていつかの出来事を思い出しちゃうじゃないですか。 今になって思えば、どうしてあんなことしちゃったんだか! あたしはホッペが熱くなるのを必死で冷まします。 冬で寒くて手が冷たくてよかった。 携帯電話をとって、あたしは阿部に背を向けました。 よし、このまま静かに帰り…ましょう? 違うよ、そうじゃないよ、あたしは葛藤しました。 今なら(また寝込みだけど)言えるじゃないですか! 「阿部、お誕生日おめでとう…。」 そっと、耳打ちするくらいの声であたしは言いました。 確かに言えました。 大袈裟だけど、体が嬉しさで震えました。 これで言い残すことはない(死なないけど)帰りましょう! そう思っているときでした。 突然、腕に衝撃がはしったのです。 ! ! ! ! ! 「起きてるときに言えよ。」 ! ! ! ! ! 阿部が起きてましたぁ。 あたしはビックリして尻餅をついちゃいました。 腕をもたれてたので腕が伸びて少しつりそうです、痛い! 阿部は驚いたようでしたけど…。 すぐにムスッとした顔に戻ってしまいました。 あたしは尻餅をついたまま、阿部を見上げました。 顔は真っ赤、こんなの、気持ちがすぐにバレちゃいそう! 「去年も、寝てるときだったんだよなぁ。」 「な、なんですと!」 もしかして阿部、去年も、去年のこともご存知で! 恥ずかしくなって立ち上がって逃げようとしました。 が、阿部の手の力は思ったよりも強くて逃げられません。 自己嫌悪、自己嫌悪です! 寝込みにちゅー、寝込みにお祝い! こんな女、気持ち悪いとしか言いようがないです! 「て、はなして。」 「無理。」 「むりって…。」 「なぁ…誕生日のプレゼントのつもりでさぁ。」 「(誕生日のプレゼントのつもりで?)」 「あの日何で俺のほっぺにキスしたのか教えてくんない?」 「!!!!!」 思わぬ言葉にまた熱が上がったもようです。 必死に手を放してもらおうとするけれど、無理っぽいです。 阿部、華奢なのに、男の子としては華奢なのに。 どうしてこんなにも力が強いんですかー! それに、どうしてそんなに強い眼差しで見るんですかー! 「え…っと。」 「俺さ、期待してたんだけど。」 「…え。」 阿部の瞳が揺れた、気がしました。 「だけど、それから別に変わった様子ないし。」 「(必死に隠し通そうとしてたから)」 「俺に、おめでとう、も何もないし。」 「(一日過ぎたら結局…)」 「と両想いと思ってた俺、すげー間抜けじゃん。」 え。 「俺の片想いじゃねーかもって期待してたのに。」 「え、まさか…。」 「まさかじゃねーよ、俺はー。」 「うそ、うそうそうそうそ。」 「うそじゃねぇ、聞け!」 うそだ。 これはゆめだ。 目が覚めたら。 また言えなかったって落ち込んじゃうんだ。 うそだ。 これはゆめだ。 目が覚めたら。 またただの友達で"おはよう"って言ってるんだ。 「俺はが好きなんだっつの!」 ほろり、と、なにかがこぼれました。 そんな気がしました。 冷たいような、温かいような。 そんな気がしました。 目の前にいる阿部は少し困ったような顔をしてました。 それでも、あたしの腕を握っている手は温かくて…。 空いてた左手であたしのホッペに触れました。 「は?」 「あたしは。」 「うん。」 「阿部が好きです。」 ほろり、と、またなにかがこぼれました。 だけど、今度は温かい手がそれを受け止めてくれました。 それを拭ってくれました。 それでもあたしのそれはとまらなくって…。 阿部は少し困った顔で、それでも優しく笑ってくれました。 だから、また、ほろりと落ちていきました。 「あたしは君を幸せにしたいです、辛いことがあっても哀しいことがあっても、どんなときでもあたしが君を支えてあげたいです。嬉しいことや楽しいことがあったら君に分けてあげたいです。この言葉と想いが誕生日プレゼントでもいいですか?」 あたしが勇気を出して言ったプレゼント(言葉)に…。 阿部は可笑しそうに笑って、それから頭を小突きました。 それは俺の台詞だろって、笑ってくれました。 |