隆也が好きだと気がついたのは、カッコよく野球をしているときじゃなくて、授業中真面目な顔して黒板見てるときでもなくて(そもそも、クラス別だから見えないし)休憩時間に本を静かに読んでいるときでもなく、昼休みに水谷くんらとけっこう楽しそうにしているように見えたけど怒ってる振りをしたときでも、なかった。ただ、なんのへんてつもない時間。幼馴染の私たちだからこそ、おかしくもなんともなかった出来事。隆也が、偶然忘れたらしい数学の教科書を私に借りに来たときだった。 「じゃあ、また後で返しにくるな、。」 「落書きしないでねー。」 「俺が落書きなんて低レベルなことするわけないだろ?」 そう言って、普通の人じゃあ滅多に見れないかもしれないし、そうでもないかもしれない笑い顔を浮かべて、ヒラヒラと数学の教科書を持ったまま手を振った。私は、実は火照ってるんじゃないかと思うほっぺたを思わず両手で押さえた。なんで今さら。そう思わずにはいられなかった。だって、隆也は幼馴染だ。それこそ十年以上けっこう近くで見ている。なんで隆也なんだろう、なんで今頃自覚したりするんだろうか(友達が言ってたカッコいい先輩にも興味わかなかったくせに) 「ー、阿部戻ってったの?」 「ひぎゃあ!」 突然、肩をポンとたたかれてしまって、驚きのあまりすごい声を出してしまった。心臓をバクバクしながら振り向くと、そこには田島くんが立っていた(私は1年9組だ)さっきまで教卓のところで泉くんたちと遊んでいたと思うけど、もう飽きたんだろうか。 「うん、教室戻ってったよ、数学の本持って。」 「数学の本借りにきたんだ?」 「うん、忘れたんだって、珍しいよね。」 ほっぺはまだ火照ってたりするんだろうか。ちょっと、いや、本気でもとに戻ってほしいんだけど(一刻も早く!)私の心情を知ってか知らずか、田島くんは私をじぃっと見る。これは、恋を自覚した次の瞬間ほかの人に気づかれてしまうんだろうか…!相手が田島くんといえど、やっぱり男の子だから恥ずかしい。私は慌てて、なに?と聞いてみる。 「いや、の方が俺らより遠くにいたのになぁって。」 「ん?」 「の席、窓際じゃん?」 「うん、そうだねぇ。」 「俺らの誰か呼んだ方が手っ取り早いだろ?」 「田島くんらが本持ってなさそうに思えたんじゃない?」 そう笑いながら言うと、田島くんは、ひでー!と笑いながら声をあげた(ごめんごめん、でも田島くんが真面目に本を開いているところなんて滅多に見ないから)私も笑っていると、田島くんは今度は自慢気な顔をした。 「でも俺、本は全部置き勉してんだー!」 「うわ、全部!?」 「そう全部!だから俺から借りれない本はない!」 …それは、自慢することじゃないと思うけど。私は苦笑に変えて、ある意味、自信満々に言う田島くんを尊敬した。 「阿部も知ってんだよなー。」 「置き勉のこと?」 「そっ!」 「(堂々と置き勉宣言してたんだ)」 「あ、そっか!阿部はから借りたかったんだ!」 なるほどなるほど!と自分だけ納得したような、スッキリしたような表情を浮かべる田島くん。数学の本を私から借りたかった、と田島くんは言うけど、それがよく分からない。首を傾げていると、田島くんがにやぁと笑う(なんだかイヤラシイ笑みだ)そして、バンバン!と大袈裟なほどのスイングで私の背中をたたいた。 「にっぶいなぁ!阿部にはしか見えてなかったってことだよー、ゲンミツにッ!」 せっかく元に戻った(と、思う)ほっぺたが、田島くんのせいでまた火照ってしまった気がする!私は慌てて両手でほっぺを押さえた。原因の田島くんはなんだか愉快そうにゲラッゲラ笑って、またバンバンと私の背中を思う存分たたいて、それからまた泉くんたちの方へ戻っていった。教室の入り口で私は必死に心臓を落ち着かせようとする。でも、まだほっぺは熱い気がする。なんで隆也が好きだと気がついたのが、カッコよく野球をしているときじゃなくて、授業中真面目な顔して黒板見てるときでもなくて、休憩時間に本を静かに読んでいるときでもなく、昼休みに水谷くんらとけっこう楽しそうにしているように見えたけど怒ってる振りをしたときでもなくて、教室に来て名前を呼んで、本を借りていったときだったのか…今ならちょっと分かった気がする。 「(たくさんの人がいる中、迷うことなく、ほかの誰でもない、私の名前だけを呼んでくれたからだ)」 |