12月25日、冬休みに入ったばかりのクリスマス。野球部キャッチャーの阿部隆也は、野球部が集まってクリスマスパーティーを開いていた。彼には実は、先月できたばかりの彼女がいるわけではあるが、その彼女も部活仲間とのパーティーがあり、お互いの事情を話し、結論を出したところ、今年はクリスマスはお互い部活仲間で過ごそう…ということになっていたりする(ちなみに昨日は部活が遅くまであったため、もともと会うこともできない日であった)そういうわけで阿部は今、彼らの中で一番大きな家である、三橋の家にいるわけだ。 「花井ー歌えぇ!」 「田島とデュエットだぁ!」 「なっ、お前ら自分がやれよ!」 現場はひどく賑やかであり、笑いが絶えない。それは、ムードメーカーである、田島の活躍もあるだろう。そんなドンチャン騒ぎな彼らを見ながら、苦笑にも近い笑みを浮かべるものの、阿部もパーティーを楽しんでいた。けれど、やはり気になるのは彼女のことだったりする。不意に携帯を片手にとった。着信履歴には、パーティーが始まる30分前に連絡をとった彼女の電話番号が記されている。それからの履歴はない。誰にも見られないように彼は小さな溜息をついた。 「(にもの付き合いがあるからな…)」 だからこそ、お互い部活仲間で過ごそうという結論を出したのであるが…。それでも、幼馴染であるがやっとのことで先月に恋人となったのだ、が気にならないはずがない。野球部同士でクリスマスパーティーをするのも楽しい、けれど、キラキラと光るクリスマスツリーや大きめの美味しそうなケーキなどが、余計にでも彼女の顔を思いださせた。そんなとき、片手に持っていた携帯がブルブルと震えた。阿部は慌てて携帯を開き、そしてそこに記された名前に目を見開いた。 「阿部?」 「悪い、ちょっと電話!」 どうしたのか、と声をかける泉に短く言うと、阿部は廊下へと出た。田島たちの賑やかな声で聞こえにくくはあるだろうが、受話音量を最大にすれば、聞こえないことはないだろう。着信は、、そう、彼女からだった。 「もしもし!」 『もしもし、隆也?ごめんね、パーティー中に。』 「いや、別にいいけど。」 『ならいいんだけど…どう、パーティー楽しい?』 「まぁ…は?」 やっぱり賑やかな声がときおりの声を遮りそうにはなるけれど、下手に階段を下りたりなんかすれば、三橋の両親に迷惑をかけるだろうと思い、そのまま廊下で通話を続ける。 『クリスマスケーキは美味しいし、先輩の家のクリスマスツリーってかなり凄いの!パーティーも楽しいよ。』 「そうか…よかったな。」 『うん、でもね…。』 少しの間があった。その間を埋めるように、部屋の中から田島に制裁を加えているであろう花井の怒り混じりのような声が聞こえてきた。にも聞こえたのだろう、ふふっ、と小さく笑ったような声が聞こえた。この場にいないせいか、姿が見えないせいか、余計にもが愛しく感じた。その小さな笑いのあと、また少し間があって、それからまた彼女は口を開く。 『隆也に会いたくなっちゃった。』 クリスマスケーキもクリスマスツリーも隆也と一緒にがいい、その言葉を聞いて、阿部は思わず携帯を落としそうになった。慌てて握る力を強くすると、どこか心臓が跳ねたような気がするけれど、それに気づかない振りをした。部屋の中から、今度は泉の声が聞こえてきた気がするけれど、なんて言っているのかなんて彼にはよく分からなかったし、興味もなかった。一瞬だけ手を震わせて、彼はつむんでいた口を、開く。 「…今からそっちに行くから!」 『え?』 「会いに行く、だからその先輩ん家で待ってろ!」 『え、ちょっと隆也?』 「…っ、俺だってお前に会いたいっつってんだよ!」 そう言うと、阿部はの返事も聞かずに通話を切った。さらにボリュームのあがったような気がする賑やかな部屋への扉をあけて、彼女のいない彼らからはブーイングが出るかもしれないけれど、そんなことだって別にお構いなしで、それこそ鼻で笑い飛ばしてやろう、なんてことを考えながらも彼はギュウと携帯を握った。カバンの中には、今日は渡せないだろうと考えながらも、どうしても持ち歩いてしまっている、へのプレゼントがあったりする。靴だって、全力疾走できるような履きなれた靴だ。よし、と阿部は心の中で意気込んだ。 |