あの日から俺と準さんの鬼ごっこが始まった(もう二週間くらいやってる)は相変わらず平然そうに笑って過ごしている。部活には出てこないけど、野球部にすれ違ったら笑いながら話をしているところも何度か見た。だけど、俺はあの試合から一度も、と準さんが話をしているところを見たことがない。学年が違ってもあんなに一緒にいた二人なのに(泣きそうになったから、頑張って耐えた)ところで、俺は今、準さんを追いかけている途中だったりする。準さんは俺より足が速いから、追いかけるのだって大変だけど、それでも簡単に諦めるわけにはいかないから(だって俺は準さんのキャッチャーなんだから!) 「準さん、準さん!」 「うっせー利央、追いかけてくんな!」 うっせーと言われようが、うぜーと言われようが追いかけないわけにはいかない。がなんで自分から準さんのそばから離れたのかは分からないけど、はぜったいに準さんのことが嫌いになって離れていったんじゃないと思う。のことは準さんが助ける、だから、俺は準さんをとりもどさなくっちゃ! 「どこ行くんスか!部活行きますよ!」 「うるせぇ!俺に構うな、部活行け!」 西浦に負けた次の日、引退式があって、あの日も準さんはぜんぜん喋らなかったけど、顔は出してた。だけどその次の日から準さんは部活に顔を出さなくなった。俺はすぐに準さんに声をかけたけど、準さんはスルリと俺の横を抜けていってしまった(あのときすぐに諦めた自分がものすっごく嫌いだ)今までの日常が音もなくなくなっていった。俺はが好きなのに、準さんと話をして、準さんに頭を撫でられて今にも溶けそうな顔をして笑うが好きなのに、それなのに俺は一度その日常をとりもどすのを諦めてしまった。準さんは意地悪で、俺にいろいろ悪戯だってしてきて、困ったことだって泣かされたことだっていっぱいあったけど、いっぱい励ましてくれたし、いろいろ教えてくれた。俺は、も準さんも大好きなんだよ。 「準太はねー、将来プロだから今のうちにサイン貰っとこ。」 「はぁ?プロになれるわけねーだろー。」 「なれるよー、あたしが補償する、応援する。」 「この先ずっと?」 「この先ずっと。」 「ははっ!じゃあ、なれっかもなぁ。」 準さんに俺は敵わないから、ぜったいに敵わないから、俺はを準さんから奪おうとか、そんなこと思わないから。だから、準さんにはを幸せにする責任があるんだからね!ずっと走り続けているせいか、息切れがしてきて、お腹が痛くなってきた(仕方ないじゃん、マラソンくらい走ってるもんね多分)でも、昨日よりもその前よりも俺は長い間準さんを追いかけることができてると思う。もうそろそろ部活が始まる時間だけど、なんとしても今日、準さんを捕まえておきたい! 「利央ー、帰ろうよー!」 「いーって、置いて帰ろうぜ。」 「準さん酷いぃ!」 「こらぁ準太、利央いじめちゃダメだよ!」 「いじめてねーし?」 どんどん学校から離れていく。やっぱり制服のまま全力疾走はかなりきついけど、それは準さんだって同じはずだ(ってか、準さん部活サボってるのになんでそんなに体力あるわけぇ!)足がものすごく痛い、お腹もさっきよりも痛い。でも、とまるわけにもいかない。横断歩道の信号がチカチカする、準さんが渡りきってから赤になった。でも、ここで立ち止まったら準さんを見失ってしまう。俺は迷わずに走った。次の瞬間、右側から甲高い音が聞こえてきた。 「利央ッ!」 ----- 間一髪だった。俺は渡りきってから腰が抜けてその場にへたばってしまった(く、車にひかれるかと思った!)でも、準さんは見失ってしまった、と落ち込んでたとき、急に俺の顔のとこが影になった。俺は顔を上げると、そこには眉を寄せた準さんが怖い顔をして俺を見ていた。 「バカヤロウ!」 第一声は罵声だった。あまりの声の大きさに、歩いている人たちがこっちを見る(俺、地面にへたばってるしね)それでも準さんは気にもしていないようで、俺を怖い顔をしたまま見下ろしていた。でも、その怖い顔は、今にも泣きそうなようにも思えた。 「死ぬ気かバカ利央!俺はマジでひかれたのかと思ったぞ!」 「ご、ごめんなさ…。」 「だいたい赤信号で渡るか普通!」 こんなに車の通りが多いところで信号無視はかなりのチャレンジャーだと思う(今更ながら)とりあえず俺は立ち上がる。俺が飛び出したこともあり、準さんの大声もあり、だんだんと人目につき始めたからか知らないけど、準さんは、行くぞ、って言って歩き始めた。もう逃げないんだ、とつい言ってしまい慌てて口を塞いだが、準さんは、死んだら胸くそ悪いからな、と早口で言った。通学路途中の河川敷で準さんは立ち止まった。 「利央、俺は野球はもう…「俺、頑張ります!」 準さんの言葉をさえぎって俺は叫ぶように言った。"準太を戻すのはお前の役目だぞ、キャッチャー!"監督に言われた言葉が頭の中で響く。和さんはもう引退しちゃったから、俺が準さんを助けないといけない。俺はキャッチャーだ。準さんのバッテリーなんだから。 「和さんみたいに上手くはないけど、俺、頑張ります!俺が才能なくてぜんぜん使い物にならなくて、それで俺と組みたくないなら、俺、死ぬほど練習して上手くなります!」 「利央。」 「だから、野球をやめるなんて、言わない、で!」 ならどう言っただろうか。もっと優しく、もっと上手に気持ちを伝えられただろうか。ならもっと、もっと、準さんの気持ちを動かせるんだろうか。目が熱くなってきて、俺の視界はぼんやりとぼやけてきた。ポタリと、落ちていく(ダメだ、カッコ悪い)、、、俺、本当にカッコ悪いよ。どうしよう。 「…ダメだな俺、カッコ悪ぃ。」 その言葉に、俺は顔を上げた。準さんは苦笑いをしながら、俺を見ていた。ダメだな、ダメだな、と何度も準さんは自分に言っている。ダメじゃない、準さんはぜんぜんダメじゃない。だって、準さんは、が一番大切に想っている人なんだから! 「野球部、戻るぞ利央。」 「…ッ、ハイッ!」 スライディングしたからか、俺の制服はボロボロだった。ところどころ、破けてるみたいだった(きっと怒られる)でも、俺はすっごく嬉しかった。俺は頑張れたんだ。やったぞ、!だから、今度は準さんが頑張る番だよ。のことを助けられるのは、世界で一番を愛してる、準さんだけなんだから。 ちょっと、悔しいけどね。 「遅刻だぞ、準太、利央!」 「「スンマセン!」」 「罰として利央はグラウンド五周、準太は三十周だ!」 「え、ちょ、俺もですかぁ監督!」 「なんだ利央、十周がいいか?」 「わわ、お、おーぼーっスよぉ!」 |