"なに、お前、傘ないの?" "うん、忘れたの" "ほら、入れよ、送ってやっから" "でも悪いよ" "大丈夫、俺、役得ってやつだから"準太は最初からカッコよかった。そのときに一目惚れをしたわけじゃない、ただ、役得って何だろうって考えてた。意味は分かってるけど、送ることがどうして役得になるのか、分からなかったから。それを言うと準太は、鈍い、と言って傘をいきなり手放したかと思うと雨の中、あたしを抱きしめた。それはまるで、今日みたいな雨の日だった。 「(準太、遅いなぁ)」 反省会、ということで野球部さんたちは桐青に戻っていった。もちろん準太も例外ではなくて、あたしは彼にメールを送って、教室で彼が来るのを待っている最中だ。さんざん泣いていた友達だったけれども、あたしと準太を見てそれどころではなくなったらしく、応援者が解散してからさんざんからかわれた(公衆の面前でイチャついてた、とか、見せ付けていた、とか)先に帰らせた友達からメールが来て、今家に着いたよ、という内容を見た。無事で何より(何もないだろうけど、普通)そのとき、教室の扉が開いた。 「悪い、長引いた。」 現れたのは、言うまでもなく準太で、まだ髪の毛に水気が残っていたけれど、表情はいつもの準太に戻っていた(けど、ちょっと目が赤い、和先輩と泣いたのだろうか)自分の前で泣いてくれたらよかったのに、と思ったけれど、彼のことだ、お前の前で泣けるかよ、とちょっと拗ねたように言うに違いない。だから、あえて言わないけど。準太はあたしが座っている席の前に座り、そっとあたしの頭を撫でた。その大きな手は、とても心地がいい。 「お疲れ様。」 「ん。」 「準太、カッコよかったよ。」 「…負けたぞ?」 「でも、カッコよかったよ。」 二度目は恥ずかしくなった(恥ずかしさを自覚した)ので顔を俯けて言った。監督に渇をいれられたのか、それとも和先輩に励まされたのか、準太は試合終了直後のような切なそうな顔はしていない。あたしはそれにちょっとホッとして、準太の右手に触れた。今日、頑張った、大きな手だ。両手でぎゅっと握ってみると、準太の手がさっきよりもちょっと温くなった気がした。 「負けてもさ。」 「ん。」 「準太を、受け止めるから…ね。」 「…おぅ。」 またまた恥ずかしい台詞を言ってしまった、と自覚しては赤くなる。目の前にいる準太は、少し驚いたような顔をしていたが、すぐに口の端をあげると、笑った。あたしはつられるように笑うと、立ち上がった。そろそろ、帰ろうか。そう言うと準太も立ち上がった。けど、そこから準太は動こうとはしない。どうしたの、と声をかけると、準太はやけに真面目な顔をして両手をひらいた。 「帰る前に。」 「ん?」 「言っただろ?」 言われるのと同時、準太はあたしの腕を引っ張ってそのままあたしを包んでしまった。"あとで、抱きしめたい"そう言われていたことを今、やっと思い出した!あたしは準太の腕の中でワタワタしていたが、そうやってもこの状況をどうにかすることなどできないことに気が付き、大人しく、されるがままにしていた。 「…。」 「え、何…っん。」 優しい感触にあたしは思わず口元をおおいたかったけれど、あまりにも体が密着しすぎてそれができず、そんなあたしを見て準太が笑った。雨はまだ止まない。だけど、目の前にいる彼の心の中の雨は、どうやら止んだもようです。あたしは恥ずかしい、と思う中、まぁいいか、と自分を納得させた。それにおまけして、準太がしきりなしに誘ってくるマネージャーになるのも、いいかもしれない。まだ言ってはあげないけど、そう思った。 「実はさ。」 「うん。」 「フェンス越しのとき、キスしたいって思ったんだけど。」 「え。」 「は思わなかった?」 「…。」 |