高瀬準太、という人間は、あたしが知っている男の子の中で一番カッコよくて、一番太陽が似合う人だと思っている。それはあたしが彼の彼女だから、というお世辞や自慢したいがための見栄っ張りでもなくて、本当に心からそう思っているんだもの。準太は強くて、カッコよくて、優しくて…あたしが世界で一番憧れていて、世界で一番好きで、世界で一番大切な人だ。準太の投げる姿はとても眩いものだった。一球一球が和先輩のミットにいい音をたてて吸い込まれていく。三振をとった後の子どものような笑顔があたしはたまらなく好きだ。これからも、ずっとそんな準太を見ていきたい。そして、準太はこれからもずっとそんな笑顔で投げ続けるんだと思っていた。そう、思っていたんだ。 「五対四、西浦高校!」 大きな歓声が西浦の応援席からあがった。礼が終わった瞬間、桐青の部員たちはみんな地面にしゃがみこんでしまった。夏が、終わった。あたしはその事実に呆然としていたけれど、周囲の人たちがすすり泣く声に自分を取り戻したかのようにハッとした。泣いてる、何で?そんなばかなことを一瞬思ってしまった。そしてすぐにあたしは気が付いた。そうだ、夏が終わってしまったからだ(桐青が負けたからだ)桐青の負け、準太の負け。それでもなぜかピンとこなくて、あたしはなぜか泣けなかった。 「ー、負けちゃったよー。」 友達があたしを揺さぶる。分かってる、分かってる、だってあたしちゃんと全部見てたもの。準太が西浦の四番に打たれてしまったのも、桐青の四番が打ったけど、ホームベースでタッチの差でランナーがアウトになって、それで試合が終わってしまったのも、ちゃんと目を逸らさないで見てた。準太の、雨に濡れてる、哀しそうな背中も、ちゃんと、見た。あたしは未だ夢の中にいるような感覚で、そこに立っていた。軽く揺さぶられながら、部員たちがこっちに向かっているのが目に入る。 「(準太)」 目が合ったような気がして、あたしは友達に、ごめん、と言うと人の隙間を通りぬけ、下を目指す。部員たちは横一列に並び、応援に対するお礼を叫んだ。泣いている部員たちに応援席にいる人たちもさらに涙を流しているのが分かった。あたしはやっとのことで一番下まで下りると、フェンスを握った。ガシャン、と静かだが確かに音がした。目の前にいる準太は、下からあたしを見上げて、静かに手を伸ばした。たくさんの人が見ているかもしれない、もしかしたら、それどころじゃないかもしれない。もう、そんなことどっちでもよかった。準太、準太、準太準太準太…! 「じゅん、たぁ。」 「。」 フェンスを握っているあたしの手を、フェンスの隙間から準太の指が入り、触れた。冷たい。あたしもきっと、冷たい。隙間は十分だから、手は触れられるのに、もっと触れることはできない。もどかしくて、もどかしくて、まるでロミオとジュリエットにでもなったような気がした(とんだ被害妄想だ)そのとき、あたしの目から初めて涙がこぼれた。どうして、今頃。そう思っても涙はとめられるはずもなく、雨のように落ちていく。 「、ごめんな。」 切なそうな表情で、準太はその長い指であたしの涙を拭った。誰が、どれだけの人が見ているかは分からないのに、あたしは黙ってそのままでいた(それはたぶん、ものすごく短い時間だったのに、なぜだか長い時間に感じた) 「謝らなくて、いい、謝る、なぁ!」 涙声で格好なんかつかないけれど、あたしはできるだけの威勢をこめて言ったつもりだ。人差し指でもう一度あたしの涙を拭うと、準太はきっと、今できるだけの笑顔を浮かべた。集合がかかり、準太は一言あたしに言ってから背を向ける。その一言で、涙がとまった気がした。"あとで、抱きしめたい" |