2. ![]() 「ただちに起きて下さいねー、いやらしー榛名クン。」 目が覚めて、一番最初に視界に入ったのは、見た目可愛いけど中身は小悪魔の…の、飼い猫、だったりする。そいつの爪がギラリと光ったような気がして、俺は慌てて飛び起きた。布団を思い切りふるってやったが、猫は軽々との胸元に飛び移った(あー、うらやましい奴だなお前、俺は死んでもマネできないが)それよりも、なんでが俺を起こしに来たんだろうか、それが不思議でたまらない。もしや、寝込みを襲う気で…。 「君の目覚ましがうるさくてかなわないんだよ。」 心の中を読んだのか、嫌そうな顔をしてはそう言った。時計を見ると六時ジャスト。うちの学校の野球部の朝練は週に三回ある(試合前は毎日)わけで、今日はその三日のうちの一日だ。はパジャマであろうピンク色のワンピースみたいな格好のままだ。同じ年齢(だった)の男の前で平然とあくびをする。つーか、普通にパジャマのままで男の部屋に入ってきて、そのまま起こせるこいつがすごい…というか、男と思われていないのか、それ以下か。最後のせんが強い。 「壁薄くないのによく聞こえる、お姉さんはすごいね。」 「姉貴は耳栓して寝てたんだとよ。」 「へぇ、さすが。」 はまたあくびをする。見てるだけなら、あくびする姿さえも可愛い(あー、マジで惜しいぜこいつ)親父たちの部屋は一階だから、このすさまじい音量の餌食になるのは二階で隣りの部屋になる姉貴だけ、今はこいつだけだ。それを考えると、少しだけだけど、悪いかな、とか思ってしまった。 「いーや、今度から君の目覚ましに合わせて起きる。」 「そりゃドーモ。」 「どーでもいいけど、その格好どうにかしてくれない?」 起き上がった俺を指差す。その格好と言われ、俺は自分を見て、の言うことが分かった。寝苦しいのが嫌で、俺は寒くないとき以外は上半身何も着ないで寝る癖がある(そりゃ合宿とか修学旅行とかは別だけど)はもろに嫌そうな顔をしてふいっと目をそらした。そんな姿を見て、俺は口の端をあげて笑ってやる。そーか、そーか、可愛い反応することもあるわけネ?俺は腕を伸ばしての肩を掴むと、勢いに任せてを引っ張った。そして素早く上下反転させる。 「どうだ、降参すっか?」 上半身裸の男に組み敷かれたら屈辱じゃね?(つーか、ヤバイとは思うだろ)いやらしーいやらしーうるさいから、仕返しにと思ってやってやった。状況的にはヤバイだろうけど、昨日の仕返し含めてだから、このぐらいやったってバチは当たらねーだろー(実際に襲う気は、さすがの俺にもないし)は猫を両手に抱えたまま、目をパチパチさせている(飽きずに可愛いとか思うのはどうにかして堪えよう、洒落にならなかったら元もこーもねー)状況を理解したのか、一瞬顔を赤く染めたが…。 「そのおキレイな顔を切り刻んであげましょーか?」 と、笑顔を浮かべて猫を抱えた手を伸ばしてきた(しかも応えるように猫が、にゃー、とか鳴きやがった)猫は飼い主の言うことを理解しているのかご丁寧に爪まで俺に見せやがったので、たまらず俺はの上から退いた。だめだ、屈辱を受けたのはまた俺か!は起き上がると、服を整えるような仕草をする。 「その猫、よーくしつけてあるんだなー。」 「まぁね、それに、モトは賢いの、君と違って。」 「悪かったネー、モトと違ってー、って…モト?」 なんつー嫌な偶然。このスマした猫がモトだとわ!はモト、と声をかけると猫は甘えるようにほっぺに自分の顔をすりよせる。なんか嫌だから、俺はこの先もずっと"猫"と言い続けよう、そうしよう。 「そういえば、君は、もと…き、だっけ?」 「そうだけど。」 「よかったねーモト、君は"モト"で、一緒じゃなくて。」 「(次はマジ襲ってやろーかこのヤロウ)」 ----- 「はぁ…起こされ損だった。」 「うるせぇ、俺だって起き損だっつの。」 あれから気づいたんだけど、今日は日曜日で学校は休みだった。朝練があるわけがない。部活は普通に九時からだ。六時に起きてもどうしようもない。まぁ、これは目覚ましのセットを間違えた俺が悪いんだが(しかも、のせいで本当に目が覚めてしまったおかげで二度寝さえもできなかった)リビングで俺は仕方なくコーヒーを飲んでいる。は相変わらず猫とじゃれあってるみたいだ。 「つーか、お前なにやってんだよ!」 「モトにミルクあげてるの。」 「人の大事な牛乳とるなっつーの!」 「ケチケチしないの、普通の牛乳でしょ。」 だから、大事な牛乳だっつーの!いろいろとあるんだよ!俺は必死になって言ったが、はぜんぜん聞いちゃいねー。猫は、というと、俺の方をチラリと見たが、またもツーンとしたような感じですぐに牛乳を飲み始めた。おい、つーか、もう残ってねぇじゃねーか、買い貯めもこれが最後だったのに!母さん昨日酒飲んでるからギリギリまで起きてこねーだろうなー。このヤロウ、買いに行くしかねーじゃねーか! 「あ、榛名、買い物行くならモトのご飯買ってきて。」 「知るか!」 「もぅ、ケチ。」 「ケチじゃねーよボケ!」 それでももう一回ケチ、とは言ってきた。またやってやろうか、とも思ったが、さすがにリビングで冗談でもやって、それを親父たちに見られたらヤバイ。とりあえずは怒りを堪えて俺は自分の財布と携帯を持ってコンビニに行くことにした。玄関で靴をはいていると、隣りにがやってきた。こいつも財布を手に持っている。どうやら、買い物に行くらしい(俺が猫のエサを、知るか!って言ったからだろう) 「仕方ないからあたしも買い物行く。」 「じゃあ、俺の牛乳買ってこい。」 「知 る か。」 「(このアマー)」 猫はどうやら連れて行かないらしい。その方がいい、何か言うたびに猫の爪で脅されたんじゃたまんねー!俺らは睨み合いながらもコンビニへと出かけることになった。 「牛乳にプロテイン入れて飲むの?」 「あー?そーだけど。」 「へぇ、どこの野球部員もそうやって飲むんだね。」 歩きながら会話をする。普通の会話であれば、こいつは無害だ。ずっとこうだったらイイのに、とか思いながらも俺はその会話をちゃんと成り立たせる(えらい、俺) 「お前、知り合いに野球部いんの?」 「まぁ、前の学校で三ヶ月マネジしてたし。」 三ヶ月って何だ、期間が微妙だな。つーか、前の学校ってどこだ?聞いてねーよな、俺。っていうか、こいつの情報をほとんど耳にしてないんだけど。名前と猫しか知らねーし。普通、同居するときって、事情ぐらい教えるだろ。母さんや親父は知ってるけど、俺は知らないってことか?(たぶん、そーなんだろうけど) 「あ、コンビニ着いた。」 何か聞いてやろうと思っていた矢先、目的地であるコンビニに着いてしまった(タイミングわりぃ)最近のコンビニは何でもあるって本当だな。猫のエサまであるのを今日、初めて知った。よく寄るから、顔見知りになっている店員のお姉さんが、を見て、彼女?って聞いてきたから、違う、って言ってやろうと思ってたら、違います、ってが先に言いやがった。このヤロウ、なんっかムカつく。ムスッとしながら牛乳とキシリトールのガムを手に取ると、横からスッとそれらが取られた。は何もなかったかのようにそれをレジに立っている店員に渡した。追加、と言って。 「仕方ないから、奢ってあげる。」 振り向いたときに見せられた顔は悔しいけど、可愛いとしか言いようのない笑顔で、不覚ながらも一瞬何も考えられなくなってしまった。880円です、という店員の声にやっと正気を取り戻した俺は、当たり前のように買ったものが入ったビニール袋を差し出された(荷物持ちかよ!)まぁ、いいけど。コンビニを出た瞬間、さー、と風が吹いて、髪をおさえるにまたも不覚ながらも目を奪われる。は俺の視線に気がついてか俺に笑いかけた。え。 「プロテインもいいけど脳まで筋肉にしないよーにね。」 間違い目覚まし朝の買い物 (余計な一言だっつーの!) アトガキ 何だか、ちょっと楽しいかも。 押されるままじゃなくて、少しは押してね榛名サン。 |