5. ![]() 「で、何でまたお前がここにいるんだよ。」 俺は当たり前のように野球部が使っているグラウンドの敷地内のベンチに座っているを見て言った。相変わらず、誰もを騙すような笑顔を浮かべては俺に手を振った(気持ちの入ってなさそうな振り方だったのがムカつくけど)教室からいつの間にかいなくなってたから(俺よりも早かったぞ、おい)早々に帰ったのかと思ってたんだけど…。 「俺が見学に来ないかって誘ったんだよ。」 「外で見てるって言ってたから、ここに連れてきたの!」 着替えをすました秋丸に続いて、宮下先輩が言った(秋丸はともかく、先輩に何か言えるわけもない)どうやら宮下先輩はのことを気に入ったらしく、の手を嬉しそうに握ったり抱きついたりしていた(このツーショット、周囲から見てるだけならかなりイイな、片方の中身を考えなければ…)まぁ、そんなことはさておき、俺も早く着替えに行ってくるか。こーなってしまったもんは仕方ねーし。 「榛名の自転車とっていいなら早く帰れるんだけどね。」 「…俺が帰れねぇだろうが!」 「トレーニングがてらに走って帰ればいいじゃん。」 この会話、騙されてるクラスの男…いや、学校の男共に聞かせてやりてぇぐらいだな、ホント!(に言い返してたら、早く着替えて来いって秋丸に言われた!のヤロウ、マジウゼー!) 「バッティング練習に入るぞー!」 やっぱり、野球している時間はイイ。何も考えなくていいし、気持ちも落ち着く。それにしても、ここも変わったよな。最初は練習量も小学生並だし、やる気はねーし。大河サンとも合わねーし(まだたまに合わねーことあるけど、宮下先輩と付き合ってっことも未だ信じられねーけど)打席に入り、俺はバットを構える。とりあえず、うちは打力をどうにかしねーと上には上がれない。相手の攻撃は加具山サンのあと、俺が抑えればいいけど、勝つためには点入れなきゃいけねーし。ま、俺が少しでも点をとれるよう、やるしかねぇ! 「頑張るね。」 休憩時間、俺は水道で頭から水をかぶった。タオルを手探りで探るけど見つからない。そんなとき、そろそろ聞き慣れた範囲に入る声が聞こえてきた。そいつは俺の頭にタオルをかぶせた。顔を拭いて(誰だか分かるけど)俺は振り向く。そこには、なぜだか俺のドリンクをもったがいた。 「宮下先輩にあげてきてって言われたの。」 「そっ。」 それを受け取って、俺は一口飲んだ。頭からしずくがたれてきて、うざったかったから俺は頭を振った。何も考えていなかったけど、そのせいで周囲に水しぶきがとんだ。あ、と思い出したようにを見ると、にも飛んでいたようだ。…何か言われるだろうなぁと思いながら俺は眉を寄せた。だが、は服の裾で顔を軽く拭いているだけで、何も言ってこない。あれ、っかしーなぁ。てっきり、やめて汚い、とか、考えてから行動して、とか言われるもんだと思ってた。 「水かぶるのもいいけど、よく拭かないと風邪ひくよ。」 「あ…お、おぉ。」 それだけ言うとはくるりと後ろを向いた。そのときにしばられていない少し茶色い髪がフワリと浮いた。思わずドキリとしてしまった自分を慌てて振り払うようにまた頭を振った。水しぶきがまたとんだ。"よく拭かないと風邪ひくよ"の言葉を思い出して、タオルで乱暴にガシガシと頭を拭く。…なんだ俺、なんでこんなに動揺してんだよ、ホント。そんなとき、集合の声がグラウンドから聞こえてきて、俺は慌てて手に持っているドリンクを一気飲みしてからグラウンドへと走った(何考えてるのか、自分でさえも分かんなくなってる) 「(…のボケぇ)」 ----- 「榛名クン、榛名クン。」 「…んだよ、気持ち悪ぃな。」 「宮下先輩。」 「んなっ!」 「…って、可愛いねぇ。」 家に帰って(またも自転車でにけつ、がこぐって言ったけどさすがに女にさせて俺が後ろに乗っとくのもなんだから自分でこいだ)飯を食って(今日はカレーだった、いつもより甘かったのはが辛いのが嫌いだかららしい、お子様め!)風呂に入って(俺が先に入ろうとしたら、母さんがを先に入らせやがった)俺はリビングでテレビを見ていた。今は母さんが風呂に入っているし、親父は夜勤でいない。つまりは、リビングには俺と、俺に話しかけてきたしかいない。それでこのザマだ。だから、俺は今宮下先輩を好きとかゆー感情はないっつーの! 「別に宮下先輩を好きじゃねー。」 「ふぅん、でも、前好きだったんでしょ?」 予想通りの返事がきた!予想していたというのに、結局はストレートな反応を見せてしまい、は満足そうににっこりと笑った。俺がいつまでもその笑顔で黙らせることができると思うなよ(と、思いながらも実際今黙らされているが) 「一年のときの数学の教科書貸して。」 「はぁ、なんで?」 「今日出された宿題、ちょっと厄介で、見た方が確実。」 どうやら、うちに来るときに余分な荷物は持ってこなかったらしい(一年ときに使い終わった教科書なんかは)俺のは、置いてる。面倒だったが、捨てるために束ねるのも面倒で、机の横の棚に置きっぱなしだ。しょうがねぇ、と思いながらも俺はあることを思いついてニッと笑ってみせた。はそれにちょっと嫌そうな顔をして首を傾げた。 「榛名さま貸して下さいって言ってみ。」 「は?」 「そう言ったら貸してやるよ。」 俺の言葉にはおもむろに嫌そうな顔を一瞬だけだけどした。それだけでも愉快だ。初めて会ったときから、俺はにやられ続けている、今日こそその恨みをはらすときだ!俺はソファに座ったままを見上げて笑う(それこそ、ちょっと偉そうにしてやる)は少しムッとして考えているようだったが、何か自分の中で納得したように頷くと…。 「もぉいい、勝手に取ってやる!」 「あ、テメッ、待ちやがれ!」 クルリと背中を向けて走っていきやがった。俺も慌ててを追いかける。あいつ、俺の部屋に勝手に入って数学の教科書取っていく気満々だ!屈辱を味あわせるチャンスをみすみす失ってなるものか!俺は前を行く背中を追いかける。意外にも文化系だと思っていたは進むのが早く、自分がスカートをはいているのも気にしないで階段の二段飛ばしとかしやがる(ロングスカートっぽいから…見えなかったけど)階段をのぼりきったところでほとんど追いついた状態に近く、俺は捕まえられると思った。だが。 「ぶっ!」 バタンとドアを閉められて、俺は自分の部屋のドアで顔面を思い切り打ってしまった(痛ぇ!)鼻をおさえながらも俺は部屋に入る。は慌てて俺の数学の教科書を後ろに隠した。隠したって、見えたっつーの。俺は口の端をあげて笑いながらに近付く。その笑みが気に入らないのか、は眉を寄せて後ろに下がっていく。が、部屋の広さには限度ってもんがある。それに…。 「ぅきゃ!」 ボスンと音がしてが俺のベッドの上にひっくり返った。その瞬間はなんともマヌケだった!俺は笑いながらもの手にある数学の教科書を奪い返した。 「ざぁんねんでしたー。」 「いいじゃない、貸してくれたって!」 「睨んだって、その状態じゃカッコつかねぇな。」 「う、うるさい!」 は起き上がって俺の手から教科書をとろうとした。だが、身長差がどれくらいあると思ってるんだ?手を伸ばしたって届くわけねーだろ。伸ばすだけじゃ無理だと早々に分かったはジャンプし始めた。またもや意外なことにジャンプ力がある(もしかしてこいつ、運動神経よかったりする?)あともう少しで手が届きそうだったので、俺は背伸びをしてみる。はムッとすると、今度は両手を振ってジャンプをした…んだけど…!!!!! ドスンッ 「あっぶねぇだろてめー!」 「…いたた。」 いたた、じゃねぇよてめー!イテーのはお前をかばって尻もちついた俺だっつーの!でも、もしかしたらケガでもしたのかもしんねぇな。俺は慌ててを見る。目が合った瞬間、は慌てた様子で俺の肩を掴んだ(なんなんだ一体!) 「榛名、ケガしてない!?」 「…は?」 「腕は、左腕は?肘は、膝は?」 「…えっと。」 「ど、どうしよ、榛名投手なのに!」 「いや、あのさ。」 「病院に行くべきかな…でももう十時だし。」 おーい、人の話を聞けって。俺はそういう意味を含めてに軽くチョップを決めてみた。不意打ちには、いた、と声をもらして、そこでようやく俺とまた顔を合わせた。 「お前かばって尻もちついたくれーでケガするか。」 「ケガ、してないの?」 「そんなにヤワじゃねー。」 どこも痛くない、と言ったらは大袈裟なくらいに息をもらした。ヘタリと両手を床につけるその姿は、情けない、というよりもなんだか妙に可愛いような気がして、俺は慌てて頭を振った。そんなに毒気を抜かれてしまい、教科書とか屈辱をはらす、とかそういうのどうでもよくなって、俺はに教科書を素直に貸してやった(結局は俺の部屋で一緒に勉強するはめになったんだけどな)シャーペンを持ちながら、不意にさっき触れた体が細くて柔らかかったことを思い出してしまった。あぁ、もぉ、お前、一体俺をどうしたいわけだよ…振り回されてるな、俺。 突然のハプニングに ドキリ! (やっぱりこいつは小悪魔だな) アトガキ 同居にハプニングはつきものです、パート1 お約束な展開をワザとしてみました。 うちの夢主たちは追いかけっこをよくしてますね。 ボク恋の双子といい…。 |