「お待たせしましたー!」



無事に中華丼ができあがった。おまけに、テレビでやっていた卵スープも作ってみた(たまごがふわふわになってくれたのが嬉しかった!)男の人四人でまだまだ食べ盛りだろうから、ご飯は多めに炊いておいたけど、足りるかなぁ。あたしはそんなにご飯いらないんだけど、それを含めてもちょっと不安だったりする。まぁ、お菓子もあるから大丈夫かもしれない(いや、お菓子とご飯は別かな)五人でテーブルを囲むのは狭いので各々食べないものだけテーブルに置いて、好き勝手に床に座ってる(絨毯ひいてあるから問題ないけどね)



「んまいよーちゃん!」

「うん、美味い。」

「なかなかやるねぇ。」



みんなが褒めてくれるのでちょっとくすぐったかったけど、嬉しい。準太も、美味いって言ってくれたし。あたしは上機嫌で自分の中華丼に口をつけた。誰かが作った中華丼を食べたことがないので、どーゆー味なのかはよく分からないけど、味的には悪くないと思う(自画自賛?)卵スープも塩コショウの加減が大丈夫だったから、安心した。あたしのに比べてみんなのご飯の量は多かったはずなのに、なぜかあたしよりも早く食べ終わってしまっていた。足りなかったらどうしよう(もうご飯使い切ってしまった)と思っていたけど、お菓子があるから大丈夫だと言われた。少しの間もなく、ご飯の後にお菓子の袋が開けられる(なんてすごい食欲なんだろう)その間に片付けでもしようかなって思ったとき、利央サンに、そういえば、と声をかけられた。



ちゃんの部屋にあった写真ってさ。」



そういえば、あたしが準太の家に住ませてもらってるのがバレてしまったのは、利央サンがあたしの部屋に間違えて入ってしまったからだと準太から買い物に行くときに聞いた。まぁ、狙って入ったんじゃないから、仕方ないと思う。



「写真?」

「そう、たぶんちゃんが小さいときの。」

「小さいときの…。」



フォトフレームなんか置いてなかったはず。自分の家の自分の部屋にはフォトフレームに入れた写真がいくつか飾ってあるけど、さすがに借りている部屋には置いてなんかいない。持ってきてないんだけどなぁ。それでも利央サンがあたしの小さい頃の写真を見たっていうなら、そうなんだろう。写真、写真…あ、もしかして、あたし…。



「キレーな女の人と写ってたよー、お母さん?」

「…そう、です。」



おかしいなぁ。あの写真は確かに家出をしたときに持ち出したけれど、手帳の間に挟んでいたはず。もしかして、手帳をあけたときに落としてしまったのかな。あたしは苦笑しながら、あらら、と言葉をこぼした。その写真に写っているのは5歳頃のあたしと正真正銘あたしのお母さんだ。近所では有名なキレイな女性だったと聞いたことがある(利央サンの目から見てもキレイだったんなら、まんざらお世辞でもなさそうだ、あたしも自分の親でありながらもキレイだと思ってるけど)利央サンは無邪気な笑顔を浮かべて、ちゃんはお母さん似だねぇ、と言ってくれた。お世辞でも、ありがとうございます(利央サンにはちゃんと生き別れ兄妹話はウソだと伝え済み、さすがに)



「いくら親戚っつっても、準太みたいな男と二人暮しじゃお母さんも心配じゃないのかぁ?」

「準太みたいなって、どーゆー意味っスか慎吾サン。」

「そんなことないですよ。」



笑いながら言うあたしをみんなは見てきた。庇わなくてもいいぜぇ、と言う慎吾サン。まぁ、準太はとってもいい人だから、そっちの意味でも問題はないと思う。ま、あたしの答えは違う方向からなんだけど。



「お母さんは、十年前に亡くなりましたから。」



騒がしかったはずのリビングが、急にシンとした。その沈黙に、自分の発言の重さを自覚した。何も考えずに口に出してしまった。あたしは慌てて顔を上げて両手をすごい速さでブンブンと横に振った。こんなことを最近出会った人(慎吾サンと和サンなんて今日初めてなのに!)に言うなんてなんて場違いでしょう!しかもなんか顔なんか俯けてしまって、自分の不幸に酔ってるみたいじゃないか!あたしは慌てたまま、ごめんなさいごめんなさい、と謝った(謝ってどうする)利央サンなんか目に涙を溜めてこっちを見てる。どうしよ、この人って準太よりもお人好しっていうか、感情的っていうか…あーもーあたしのバカァ。



「気にしないでください!過去の話ですから、過去!」

「で、でもぉちゃん、俺がぁー。」

「お前が泣いてどーするアホ利央!」

「そうだぞ利央、ちゃんが困るだろ。」



慎吾サンと和サンが利央サンを慰めてくれて(あれ、慎吾サンのは慰めなの?)もう一押し!で泣き止んでくれそうな気がする。男の人の泣き顔なんて見るのは、何年ぶりだろうか。相手が利央サンだからか、うんざりしたりはしないけど。ちょうど視界に入ったのがゲーム機で、あたしはわざとらしく、あ!と大きな声をあげて利央サンの注意をひいた。利央サンゲームしましょう勝負です!と言うと利央サンは涙を袖で拭って、負けないよぉ、とやっと笑顔を浮かべた。それを見てあたしはホッとした。



「じゃ、俺が片付けしてくっから。」

「あー、準太ごめん、片付けてからゲームするよ!」

「いーって、いつもさせてるし。」

「じゃあ優しい慎吾サンが手伝ってやろう。」

「…いーっスよ、後が怖いから。」

「遠慮すんな。じゃあ和己、子どもの面倒は頼んだぜ。」



どうやらあたしと利央サンは子どもらしい。高校生のあたしならともかく、大学生の利央サンを子ども扱いするところがすごい。和サンは苦笑しながらも、了解、と答えて、それに利央サンがちょっと不満気に文句を言っていた。高校のときの野球部仲間かぁ、現役のときもすごい楽しかったんだろうなぁ、ワイワイガヤガヤで仲良くやってたんだろうなぁ(でもうちの野球部は厳しそうだな、ワイワイガヤガヤに加えて頑張ってたんだろうなー)そんなことを考えていると、始めるよぉ、と利央サンに言われて、あたしは慌ててゲーム機のコントローラーを握った(ヤバイ、ゲームってどうやってやるの?)

























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「今日は悪かったな。」

「え、なんで?」



けっきょく、利央サンたちが帰っていったのは夕方の六時頃だった。晩御飯も食べていきませんか?って聞いたんだけど、バイトがあるとか、家で用意されてるとかで帰ってしまわれた(まぁ、みんな用事があるから仕方ない!)ちょっと散らかったので片づけをしながらあたしたちはお話をしている。それにしても、テーブルの上に置いていたポテトチップスの袋がなんだってこんなところまで飛んでいってしまったのかなぁ。



「急に賑やかな人らがきて、利央が部屋開けてバレるし。」

「ううん、楽しかったし、元々は無理言って住ませてもらってるあたしが悪いんだもん、ごめんね。」



どっちかっていうと、バレて困るのは準太の方だろうに。彼女がいないからいいものの、いたら、その女は誰よ!とか修羅場になるに違いない(女って怖いー!っていうあたしも女だけど)それに、本当に楽しかった。大学生の人とお話する機会なんて滅多にないし、初めてゲームだってできたし(どっかのボタン押すたびにあたしの体が大袈裟に動くから、慎吾サンは大爆笑だったけど)準太は和サンと話をしているときが一番穏やかな顔をしていた、と、いうもうひとつ準太についての発見があったし。



「高校時代楽しかったでしょー。」

「まぁな、部活は大学より厳しかったけど。」

「いいなぁ、高校野球、甲子園、青春だね。」

「でもさ…。」



片付けの手をとめて、準太はその場に腰を下ろした。あたしも手をとめて、準太の隣にいって座ってみた。準太は苦笑を浮かべて、指で頬をかいた。



「二年生のとき、新設野球部と対戦してさ。」

「うん。」

「ぜったいないって思ってたのに、まさかの初戦負け。」

「…うん。」



準太は苦笑していた。だけど、今でも悔しいんだと思う。その大きな手はぎゅっと握り締められていた。桐青高校は何度か甲子園に出場している。今年の夏は準決勝で負けたけど、去年は強豪校との対戦の末、甲子園出場を果たし、三回戦まで進んでいたらしい。今でも県外にも名をとどろかせる強豪校で、野球部に入りたい、と入学してくる男の子が多いそうだ(実際、クラスメートの男の子がそうだった)そんな高校のまさかの初戦敗退。それは当然辛く、キツク、苦しいものだったんだろう。



「和サンと組めた、最後の試合になっちまってさ。」

「うん。」

「それからしばらく部活サボって、ボーッとしてた。」



"榛名と俺じゃ、力が違うっつーの" "プロで活躍できる人は多くはないだろ"この言葉を、準太はどんな気持ちで言ったんだろうか。その初戦敗退の苦しさを痛感して、準太はもしかして、野球をやめたいって思ったんじゃないだろうか。きっと、そのときのことが準太の心の奥底でまだ埋め込まれていて、それこそ、トラウマ、みたいなもんになってるんじゃないだろうか。あたしは上手いこと言葉にできなくて、なんだかもどかしく思えて、無意識のままに手を伸ばした。自分でも何をしたいのか分からないまま、自分よりもずっと大きな準太を抱きしめた。



「ッ、…?」

「でも…。」

?」

「あたしは準太が野球続けててよかったって思うよ。」

「…どうして。」



成されるがまま。そのままあたしの体をひきはがそうともせずに、そのまま準太は聞いてくれた。練習試合を見に行ったとき、あたしは初めて野球をする準太を見た。汗をかいて、大きく振りかぶって懸命にボールを投げて、打って、走って、きつそうな場面もあったけど、それでも準太は輝いていて、眩しかった。準太のことはまだほとんど分からないことだらけだけど、準太が野球を好きだということは、すごい伝わってきた。野球なんてぜんぜん分からないのに、あんまり興味なかったのに、もっと知りたいと思った。そんな影響を与えたのは紛れもなく準太だよ。



「続けてくれたから、あたしは準太の野球を見れたもの。」

「…。」



名前を呼ばれて、その直後、あたしの体は思わず強張ってしまった。背中にまわされた準太の腕。思ったよりももっとかたい、かくばったい体がさっきよりもくっついてしまった。自分から抱きついたときには何も思わなかったのに、勝手ながらもあたしは、ドキリ、としてしまったのだ。



「わ、悪いっ!」

「え、ううん、あたしが先だったし!」












(男の人に抱きしめられたのは初めてだった)




アトガキ

10話にして初めての異変か、夢主サンよぅ。
本当はお片付けの間の準サンと慎吾サン書きたかった。
けど、長くなるのでまたいづれ。