
「準太が最近おかしいんだよね。」 教室に着いて早々、あたしは親友のにこぼした。教室の黒板の右下に、小暮&と名前がかいてあるように、は今日は日直で仕事のひとつである花瓶の水替えをしながら聞いてくれている(うちの日直は席順、だから席替えのときはラッキーな人とアンラッキーな人がいたりする)は花瓶にお花をさしながら、どこが?と言った。どこが、と言われれば悩んでしまう。準太はいつも通り優しいし、小言も言う、心配性なのは変わらず(昨日も夜にコンビニ行こうとしたら着いてきた)野球だって頑張ってるみたい。ご飯を食べたら律儀に、美味かった、って言ってくれるし、お皿洗うの手伝ってもくれる(準太ってモテるだろうなぁ、なんかイイ男の素質を兼ね揃えてるよ) 「なんだかたまにボーッと考え込んでるの。」 「悩み事でもあるんじゃないの?」 「聞いたら、何でもないって言われるし。」 まぁ、悩み事ってホイホイ人に話せるもんじゃないけどね。そうは思うけど気になって仕方がない。準太はここ三日間ほどなんか変だ。月曜日に学校から帰ってみると珍しいことに準太が家にいた。そこからしておかしい。大学は休みだったの?って聞いたら、行くの忘れてた、なんて言ってた(野球の練習にはそれから慌てて行ったけど当たり前だけど遅刻して怒られてしまったらしい、なんでも、グラウンド20周だったとか)野球のことじゃなさそうだし、勉強のことでもなさそう。だったら、準太は何を悩んでいるんだろうか。 「恋の悩みだったりして。」 「ええええ!」 の言葉に思わず大きな声を出してしまった(廊下によく響いた)けど、別に可笑しくないことだって後で思った。準太は確か二十歳のはずだ、前に言ってた。お酒だって飲めるし、車だって乗れる(免許はもうとってるって言ってた)煙草も吸える(スポーツマンだから吸わないだろうけど、ぜったい)恋愛だってひとつやふたつしてたって可笑しくない。それならどうだろう。あたしって、もしかしなくてもとーっても邪魔な存在なんじゃないだろうか。だって、準太に好きな人がいたりする、もしもあたしと一緒に歩いているところを見られたりしたら…彼女だって勘違いされちゃうケースも…ん、ん、ん、あり得ないか(どう見たって兄妹がいいとこかなあたしじゃ)でも、万が一、億が一ってこともある。 「どーしよ、あたし準太の家、出ないといけない?」 「…なんでそうなるのかな。」 は苦笑しつつ花瓶を持って教室へと戻っていく。あたしも慌ててそれを追いかけた。だんだんと人が登校してきて、廊下が賑やかになっていく。友達の姿も見えてきて、おはよう、と声をかけられたので、おはよう、と返した。人が多くなってきたから準太の話は控えた方がいいかもしれない。 「そういえばさ。」 「うん。」 「最近、藤堂くんがに再アタックしてるって本当?」 突然の話変えにあたしは目をパチパチさせた。藤堂くんっていうのはアレだ、えーっと、うん、元彼というやつだったりする。中学三年生のときに告白されて、まぁ二ヶ月くらいで別れたという感じだったりする。なぜか同じ高校に来てしまったんだけど(あ、なぜか、じゃないか、藤堂は野球部が強いから桐青に来たんだったっけ)クラスが違うので高校に上がってからはひとつも話をしていないけれど。そんな藤堂があたしに再アタックだって?そんなわけがないでしょー。 「藤堂とは話もしてないけど?」 「そう?なんかそーゆー話を耳にしたんだけどなぁ。」 あたしは噂で、藤堂は野球部のマネジと良さ気な関係にあるって聞いたけどなー(別に未練も何もないから、おめでとー!って感じだけどね、もともとお試しって言われて付き合ってたわけだし、それが延長されて二ヶ月くらい)そんなことよりも準太だ準太。藤堂よりも準太だよ!準太が元気ないときってなんだかむしょーにあたしも元気なくなっちゃう気がするんだよ。だから、準太の負けた試合の話を聞いたときもすっごく哀しくなっちゃったんだから(同調しちゃったのかなぁ)ねぇねぇ、、聞いてるのー?あたしがにひっきりなしに聞いていたら、は苦笑しながら口を開いた。 「なんだか、準太さんが恋の悩みっていうより、が恋して悩んでるみたいだね。」 ----- あたしが恋をして悩んでいるだって?誰に?あたしはその日の授業中は先生の話もろくに聞かずにずーっとそのことを考えていた。だいたい、あたしは恋の話をしていたんじゃない、準太に関する心配事の話をしていたんだよ!でも、そー言ってもは、ハイハイ、と笑いながら流すだけでまともに聞いてくれそうにない。けっきょく、学校が終わるまでそんな感じでいてくれたわけですよ、親友は。ちょっと不満気に思いながらもあたしはちょっと慣れてきた学校帰りの買い物を済ませた。今日の夕ご飯は、この前テレビでやっていたオムライスにしようと思ってる(トロトロ玉子に挑戦だー!)本屋に寄って料理の本(玉子料理の本)を読んだら、ちょうどトロトロ玉子の作り方っていうのがあったから読んで憶えた。 「ただいまー、って、誰もいないんだったっけ。」 そう苦笑しながら鍵を開けて中に入って電気をつけた。夕ご飯作りの前に部屋にカバンを置いてきて、服を着替えなくちゃ。あとは手洗いとうがい!そう思ってリビングを通り抜けようとしたら、ソファに準太が座っていることにビックリして変な声をあげてしまった。だけど準太の反応はなくて、恐る恐るだけど近付いて見てみると、準太は眠っているみたいだった。どうしたのかな、野球はなかったのかな、また大学行くの忘れてたのかな。心配になって準太の前に腰を下ろして下から準太を見上げる。 「準太ー。」 声をかけてみるけど反応がない。どうやら準太は寝ているらしい。まじまじと見てみると、ほんと、整った顔立ちをしてる。こりゃあ大学でもさぞモテちゃうことだろう。高校の頃もエースピッチャーだったらしいし、モテたんだろうなぁきっと。バレンタインデーも困っちゃうくらいに貰ったんじゃないだろうか。身長は180cmくらいあるし、スポーツマンだし、紳士的だし…。準太は何人くらいの人と付き合ってたんだろう。これだけカッコイイんだもん、女の子はぜったいに放ってないぞ(…あれ、ちょっとチクッてした?) 「準太、そんなとこで寝てたら風邪ひくよー。」 家の中とはいえ、なぜか暖房器機はつけてないし、毛布だってかけてないし(寝てたら体温は下がっちゃうんだぞ)あたしは準太を起こして、疲れているようなら自分の部屋のベッドで寝てもらうことにした。ユサユサと揺さぶってみる、準太の声が微かにだが聞こえた。もう少しやったら起きるかもしれない。別に嫌がらせじゃなくて、純粋に風邪をひかないようにと思って揺さぶる。静かに、ゆっくり準太は目を開けた。やった、起きた。 「準太、風邪ひくか…ら…?」 え。あたしの目は大きく見開かれたんだと思う。突然視界が暗くなったかなと思えば、目の前には準太の体が、思ったよりもがっしりしてる胸がある。準太に抱きしめられている?これは二度目だ。でも、この前のはあたしが最初に抱きしめちゃったから、なんとも言えないんだけど、今回のは…。もしかして、準太は寝ぼけてるんだろうか。漫画みたいに、ここで違う人の名前が出てきちゃったりして…あはは、自分で勝手に想像してなんか心が痛いんですけど(なんでだろう)って、いうか、ちょっと待って、耳元に顔があって、息がかかるんですけど、あたし、耳弱いんだよ(息吹かれたりしたら悲鳴出ちゃうんだけど) 「……。」 「…っ!」 衝動に耐え切れず、思わず準太の胸を思い切り押してしまった。準太がソファに座っていたから尻餅とかそういうのはなかったけれど、うっ、とか言ったのが聞こえた。だけどあたしはなぜか準太の前にいられなくて体中に血が巡りに巡っているのを感じながら一生懸命にその場所から走って逃げた(逃げたっていっても数mしか離れてない自分にあてられた部屋にだけど)バタンと勢いよくドアを閉めて、そのドアにもたれてヘナヘナと座り込んでしまう。無駄に元気で、長距離走とかあっても笑っていられるのに、なんでだか知らないけど息切れがした。心臓だってバクバク言ってる。両手で顔を包むと、めちゃくちゃ熱かった。"が恋して悩んでるみたいだね"のせいだ、のせいだ。どうしよう、自覚してしまったじゃないか。どうしよ…あたし、準太に恋をしてしまったようだ! |