
の父親と接触してから三日目。俺は未だにもやもやするものを抱えたままだった。どうしてこんなに悩んでいるのか、考えているのか、それがよく分からない。俺がいったいどうしたいのかも分からない、という最悪な事態(つまり、悩むしかない、と)けっきょく俺は木曜日も大学に行けずにボーッと家で時間を過ごしてしまった(今回は部活の方はあらかじめ休むと伝えておいた、さすがに明日は出ないとヤバイだろう)いつの間にかソファに座って寝ていたらしい俺は、が学校から帰って来たのに気づけないでいたらしい。目を覚ましたときには、は台所に向かって夕飯を作っていた。 「い、いいよいいよ、疲れてるだろうから、寝てて。」 もどっかおかしいような気がしたけど(だって、俺からたまに目を逸らしたりするし)聞いてみても答えてくれそうになかったし、俺だって言えないことを抱えてるから(父親のことは言わずにいようと思う)お互い様だ。もしも辛そうだったりしたら、そのときに考えよう。俺が力になれるのかどうかは…あまり自信がないけれど。とりあえず、少しくらいは手伝いをするか、と思って俺は立ち上がる。出来る事は少ししかないけど、とりあえずは皿や箸を用意してみた。するとは笑って、ありがとう、といつものような様子に戻ったので、ホッとした。やっぱり、には笑っていてほしい…って、俺は何を思ってるんだろうか(最近、自分がよく分からない) 「今日のご飯は、オムライスだよー。」 「お、うまそう。」 の飯は初心者というのが信じられないくらいうまい(たまに指を切ったりしてるのが痛いところだが)机にそれらを全て運び、沸かしたてのお茶も用意して、俺たちは席についた。いただきます、というに続いて俺も、いただきます、と言った。とりあえず、飯時くらいはアレコレ悩んだりするのはやめよう。察しのいいなら俺の様子のおかしいことにも気づいてしまうだろう。俺はできるだけ笑うように心がけることを決める。オムライスに手を伸ばそうとしたとき、携帯が鳴った。 「準太、携帯鳴ってるよ。」 「え、俺の?」 よくよく聞いてみると俺の携帯の着信音だった。にことわってから受話ボタンを押す。相手は和さんだったりする(相手が慎吾さんではなく和さんなので、安心して電話に出れる、これが慎吾さんならクダラナイ話とかの可能性もあるけれど) 「もしもし。」 当たり前だが、相手は和さんだった。どうやら、桐青高校の野球部で急だが明日の夜に集まらないかっていうことだった(明日っていうのが本当に急だけど)場所は居酒屋だったりする。俺が二年のときに一年生だった部員(つまり利央たち)も既に二十歳になったので酒を飲もうということらしい。こんなに急なのは慎吾さんの突然の提案だかららしいけど。和さんからの連絡なので、気持ち的にはそんな気分じゃないけど、返事はイエスで返しておいた。時間と場所を聞いて、少しだけ話してから切った。はどうやら俺の話が済むまで食べるのを待っていたようで、謝ったけど、柔らかく笑って、気にしないでと言った。 「明日、高校の野球部仲間で飲みに行くことになった。」 「そうなんだ、いいじゃん、楽しんできてね!」 「和さんが、も一緒にどうかって言ったんだけど。」 利央も慎吾さんものことを知ってるし、他の奴らともならすぐに馴染めると俺も思うんだけど。一人で残すのもなんか気になるし、悪いし、俺もを連れて行きたいとは思ってたんだけど。はちょっと考えてるみたいだった。大学の野球部の奴らともすぐに馴染んでたし、俺がついてないと独りぼっちになってポツン、なんてことはないだろうし。 「あたしはいーや。」 「え。」 「せっかくだし、仲間内で楽しんできて!」 意外な答えだった。社交的なならぜったいについて来るだろうと思っていた。え、と思いながらもしつこく誘うことはできずに、俺は微妙に納得できていない気持ちを無理矢理おさえつけて頷く。考えてみれば、は別に俺の彼女でも何でもない。一緒に行くなんて選択肢が強いなんてどうして思えるんだろうか。がドレッシングを冷蔵庫に取りに行った隙に、俺は小さく苦笑して頬をかいた。こんなときにまであの言葉が脳裏を過ぎる"にはにふさわしい者がいる"決して強い口調で言われたわけではないのに、どうしてだかその言葉がズッシリと俺に重圧をかけた。…ダメだな俺、この暗い気持ちをどうにかするためにも、明日のはいい機会になるかもしれない。 「で、どこの居酒屋行くの?」 「駅前の、この前できたとこ。」 「へぇいいなぁ、あたしは飲めるまであと五年弱あるよ。」 「高校生だもんな…じゃあ、が二十歳になったときにはお祝いとして居酒屋に連れてってやるよ。」 どっちにしろ今回連れて行ってもさすがに酒は飲ませられないし(犯罪犯罪)俺がポテトサラダをつまみながら自然と言った言葉。が少し驚いたような顔をしていたのが視界に入って、俺なんか変なこと言ったかと心配になったけれど、は一瞬の間のあとに柔らかい笑顔を浮かべて、返事はなかったけど、大きく頷いた。俺は、左手を強く握り締める。自分の中にある、それこそちょっと前からある不可思議なもの。それが何なのかはよく分からないけれど、のこの笑顔を守ってやりたいと思った。 俺は…。 ----- 「おー、準太遅いぞー!」 「すいません、部活で遅れました!」 次の日、待ち合わせの時間は七時だったけど、部活が長引いた俺は30分遅刻をしてしまった(しばらく休んでたから人よりも練習量が多かった、気のせいじゃないはずだ)家には戻らず、そのままこっちに来たからとは朝会っただけだ。メールで、夜一人で出歩くな、夜中の訪問はぜったいに出るな、と厳重に注意はしておいた(頭いいけど楽天的なところがあるからその辺りが危ない)大丈夫なんだろうか。そんなことを考えてボーッとしていたら、後ろから誰かに頭を押された。慎吾サンだ(もう少しでビールがこぼれるとこだったんスけど!) 「準太ーボーッとしてんなぁ!」 「ちょっと慎吾くん、危ないわよ。」 慎吾サンの声の後から、懐かしいような声が聞こえてきた。振り向いて見ると、そこには桐青野球部のときのマネジだった冬子先輩が立っていた。実を言うと、この先輩こそが俺の初恋の人だったりする(今見てみるとと似てるとは思うけど、やっぱりどっか違う…当たり前か)先輩とは先輩が卒業してから会っていない。何回か野球部の集まりがあったんだけど、卒業してからできた彼氏が人一倍ヤキモチやきで、集まりにも参加させてもらえなかったって聞いた(初めて先輩に彼氏ができたって聞いたときは正直、ちょっとショックだった気がする)昔の話だから、今先輩を見ても別にショックも何もない。俺は、お久しぶりです、ととりあえず無難な挨拶をした。 「本当、久しぶりね準太くん、背が伸びたわね。」 おしとやかに冬子先輩は笑った。その姿が、最初の、出会ったばかりの頃の猫を被っていたと重なって少し可笑しくなった。頑張って堪えていたんだけど、バレてしまったらしく、慎吾サンにまた頭をたたかれた。を思い出して笑っただけで、別に先輩を笑ったんじゃないけど先輩は勘違いして、自分が笑われたと思ったらしく(無理もない話だ)不安そうな顔をしていたので、慌てて謝った。 「先輩に少し似た奴がいて、でも中身があまりにも違って。」 「あー、ちゃんかー、確かに少し似てるな。」 「慎吾サン!ここでの名前出さないでください!」 慌てて慎吾サンの口をおさえたが(後で手を洗ってこよう)先輩には聞こえていたらしく、先輩は目をパチパチとさせていた。とりあえずは、他の奴らに聞かれなかったからよかったとしよう。利央は何も考えずにの名前を出しそうだから、すぐに口止めをしてこよう(いや、待てよ、もしかして利央には口止めするとテンパって余計に名前出したりするかも)俺はニヤニヤ笑ってる慎吾サンを無理矢理追っ払った。 「ちゃんって…準太くんの彼女?」 「ち、違いますよ!」 「ふふ、そんなに慌てなくても。」 「違いますって、本当に!」 一瞬の笑顔が過ぎったが、俺はそれを払うために一心で頭を振った。俺がの彼氏なんて…!今は一緒にいるわけだけど、いつが俺の家を出て行って、出会う前のようにただの他人になってしまうのかを考えてしまう。準太、と元気よく、笑顔で俺の名前を呼ぶが遠くに行ってしまうんだ。それはきっと、遠い未来なんかじゃない、きっと、近い将来だろう。俺はネガティブに考えて沈んでしまったのに気がついて、慌ててまた頭を振った。思い出したように顔を上げて、心配そうな先輩にとりあえずは話しかける(誤魔化すためにも) 「先輩は彼氏と上手くいってるんでしょう!」 言った直後、俺は後悔した。先輩は悲しそうに笑っていて、ポツリと、三日前に別れたんだよ、と言った。俺はバカか。今まで先輩は彼氏の独占欲のためにぜんぜん会いにこれなかったじゃないか。つまりは、先輩がここに現れてるってことは、それがなくなったってことなんだ。なんだか一気に落下してしまったような気がして、俺は顔を俯けた。俺が俯けてどうするんだ!って思ったとき、の笑顔がまたふっと過ぎった。不思議と重たい気持ちがどっかいったような気がして、俺は顔をあげた。不思議だ。の顔を思い出すと、重みがなくなる。 「大丈夫ですよ先輩、またいい人が現れますよ。」 嫌味たらしくはならなかっただろうか。少々心配だったが、空気を読めるはずのない利央が酒に酔って俺に飛び掛ってきて、その話はそこで終わった。店の人に迷惑じゃないだろうかってくらいみんなは笑ったり騒いでいて、あまり酒に酔わない俺は和サンと苦笑いを浮かべていた(利央はひどい、ひどすぎる、利央と二人で飲みに行くのだけは誘われてもぜったいに断ろうと決意した)居酒屋は深夜一時まで開いているらしいけど、明日用事がある人もいたので、十時で自由解散になった。明日は九時から昼までバイトがあって、二時から練習があるだけだが、家に一人残しているが心配なので、俺も帰らせてもらうことにした。 「俺ー準太ん家泊まろうかなぁ。」 「嫌ですよ、自分家帰ってください。」 「冷てぇなぁ準太ー、ちゃんに癒してもらいてー。」 「ぜったいにもう俺ん家来ないでくださいね。」 酔っ払い慎吾サン(この人は本当に飲みすぎだ)を適当にあしらって俺は足早に岐路を辿る。途中で、がおいしいと言っていたイタリアンの店でケーキをテイクアウトしてから帰った。まさか外に出てるとかはないよな、と少しドキドキしながら俺は自分家のチャイムを鳴らす。すると、はーい、という声が聞こえてきたので俺は肩を撫で下ろした(と、同時にぜったい相手を確かめてないなって思った) 「おかえり、準太!」 「ただいま、。」 |