雨の中、俺は傘もささないで走りまわった。はどこに行ってしまったのか。携帯に電話をしてもでてくれない。俺は髪から水が滴ってくるのも気にせずに走る。汗なのか雨なのか、もうどっちも混ざって気持ち悪いくらいに張り付いてくる服。冬子先輩は帰っただろうか、けっきょく俺はその手を振り解いて出てきてしまったけれど…。だけど仕方がない、俺は高校の頃と違って、冬子先輩よりも大事な人を見つけてしまった。先輩は確かに俺の初恋の人だけど、今は、が一番大事なんだ。俺は額から落ちてくる雫を手で拭う。は大丈夫だろうか。雨の中を歩いていて、寒くないだろうか。



ー!」



人目もはばからずに声をあげる。道行く人たちが俺を、何事かというように見るけれど、そんなの形振り構っていられなかった。どこだ、どこに行ったんだよ。きっとは俺と先輩のことを勘違いしてしまったんだ(あの状況を見れば、俺がでもそう勘違いしてしまう)俺は唇を噛んだ。なんでこうも上手くいかないのか。俺が悪い、それは分かる。俺が怖がらずに自分の気持ちを受け入れていれば、こんなことにはならなかったんだ。俺が、を好きだという気持ちを、受け入れていれば…。



「…ちっ。」



雨はさっきよりも強くなった。だんだんと雨がうっとうしくなってきて、俺は舌打ちをしてしまう。はどこに行ったのか。いつも行くコンビニにも、榛名と会ったと言っていた公園にも、初めてと出会った道にもの姿はない。疲れを感じ、俺は壁にもたれかかった。体を盛大に濡らし、傘もさしていない俺を、驚いたような顔で見ていく人たち。俺は唇を噛んだ。だんだんと寒さを実感してくる。それも当たり前だ、もう少しで二月になるんだから(上着を着ているとはいえ、雨に濡れていたんじゃ意味がない)



「準サン!?」



そんなとき、誰かに呼ばれた。利央だ。利央は大学からの帰りらしい。雨に濡れて壁にもたれかかっている俺を見て、目を丸くしていた。風邪ひきますよ、とたぶん、未使用のタオルを渡された。俺はそれを素直に受け取ってうっとうしいほど雨を含んだ髪を拭いた。



「なにしてるんスか、びしょ濡れじゃないスか!」

、見てないか?」

ちゃん?」

が、がいなくなったんだよ!」



俺は勢いよく利央の肩をもった。突然の衝撃に利央はまた驚いたようだが、落ち着いて、と俺をなだめた。はどこに行ってしまったんだろうか。この雨の中、一人で泣いているんじゃないか。きっと泣いてる、そして、泣かせているのは俺だ。それなのに俺が泣きたいような気持ちになってしまう。



「俺が…もっと…つよか…た、ら…。」

「ちょっ、準サン!」

…どこに…。」

「準サン!すごい熱っ!」



意識が薄らいでいく。だめだ、だめだ。しっかりしなくちゃ。は、こうしている間にも、震えてる、泣いてる。を、見つけないと、見つけて、抱きしめて、好きだよって…。視界が白くにごっていく。だめだ、だめだ。しっかりしろ、俺(でも…体が熱くて、それなのに、寒くて…

























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夢を見た。が俺に笑いかけているんだ。俺はの笑顔に応えて、そして手を伸ばす。その小さな白い手に触れる。そうするとは驚いたような顔をするけど、すぐに笑って、準太、って愛しい声で俺の名前を呼ぶんだ。ここ寝癖ついてるよ、っておかしそうに笑って俺の髪に触れて、今日はいいテレビあるかなぁってテレビのチャンネルをいじるんだ。いつも通りの時間が存在しているんだ。野球関連の放送があって、は、準太ももうすぐ仲間入りだね、って笑う。俺は、なにも言わないけど笑う。あぁ、なんて愛しいんだろう。俺は再び手を伸ばして薄桃色の頬に触れようとする。だけど、そこで空間が一瞬歪んで、の笑顔は今にも泣き出しそうな顔に変わった。

"ばいばい"



ッ!



そこで目が覚めた。伸ばした手は、冷たい空気をきった。視界には見慣れた天井が映り、俺はやけに冷静に、自分の家だということに気がついた。記憶には、利央と会って利央の肩を掴んだところまでしかない。俺はきっとあれから意識を失ってしまったのだろう(なんて軟弱なんだ、現役野球部員のくせに)しばらく伸びている手をじぃっと見ていると、ガチャリとドアが開けられた。



「あ、準サン起きた。」

「大丈夫か、準太。」

「利央…和サン…。」



どうやら俺は、あれから利央に背負われて帰宅したらしい。利央は和サンを呼んで、二人が俺の看病をしてくれたようだ(なんていうか、申し訳ないんだけど)そして、俺は二日寝込んでいたようだ。寝ている間に医者が往診にきていて、精神的なものと風邪、と言われたとのこと。利央に渡された体温計で測ると、熱は下がっていて、36.5℃をさしていた。俺は頭を枕に戻して少しの間ボーッとしていたけれど、すぐにハッとして起き上がった。



は!」

「…準サン、メール来てたよ。」



利央がそう言って俺に携帯を渡して、顔を俯けた。からなのが分かったから、見てしまったと謝ってきた。俺は急いでメールボックスを開く。そこには、あの日の日付で、高瀬、という名前があった。俺はメールを開いて呆然とした。"家に戻りました、心配しないで。今まで大変お世話になりました、いろいろと迷惑かけてごめん。お幸せに。"それだけ、俺に届けられていた。家に、帰った?あれだけ戻れないと強く言っていたのに。ごめんってなんだよ。俺は、迷惑なんて思ってなんかない。お幸せにって、が俺の前から消えて、幸せになんか、なれるわけ、ないじゃないか…。



「ばか、や、ろっ。」



目が熱くなってきたけど、俺はそれを堪える。バカなのはじゃない、俺だ。俺のせいでは家に戻ってしまったのだから。俺は携帯を持ったまま、強く手を握り締めた。そんな俺の肩を、和サンが優しくたたいた。俺は顔を上げる。和サンは、なぜだか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。



「すまない準太、俺が冬子に言ったからだ。」

「え。」

「悩んでるくらいなら気持ちを伝えろ、って。」

「…。」

「まさか、準太とちゃんが付き合ってるなんて…。」

「付き合ってなんかないんです、俺は自分の気持ちさえ。」



自分の気持ちさえも真っ直ぐに伝えられなかった、弱い男なんです。悪いのは和サンでも、冬子先輩でも、ましてやじゃなくて、俺なんです。



「準サン、ちゃん諦めるんスか?」

「…利央。」

「そんなの準サンらしくないよ!」

「でも、俺はを…。」

「甲子園に行ったとき、予選の決勝で、絶体絶命のピンチを乗り切ったのは準サンのシンカーだったんスよ!あのときだって準サン、諦めてなんてなかったじゃないか!」



その前の年にはまさかの一回戦負けで、余韻に浸る間もなく和サンたち三年が引退をしてしまった。しばらくの間動けずにいたけど、俺はどうにか野球に復帰をして、三年になったときの夏、利央とバッテリーを組んで、甲子園に行くことができた。だけど、甲子園での試合よりも、印象に残っているのは予選の決勝だ。ランナーが二塁、三塁、打ち取れば勝利、打たれれば逆転もあり。そんなピンチの状態だったが、俺たちは勝利を掴むことができた。応援席で大きな声をあげて喜んでいた和サンたちの姿が、まだ残っている。利央は今にも泣き出しそうな顔で言ってる(だからお前は、バカがつくほどのお人好しなんだよ…)



「大事なものを諦めるなんて…俺が憧れる準サンはそんなカッコ悪い人じゃないよ!」












(弱さを克服しようとするのは勇気だ)




アトガキ

夢主が登場しませんでした。
すみません。
やけにリオーが出張ってますが。
リオーと準サンのペアが大好きです!
もちろん、和サンと準サンペアもですが。
リオーのいいところは一生懸命なところですよね。
いろんな意味で、ですけど。
さぁ続きはどうしましょうか。